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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第二章 出立編
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第三話 検査結果

 さて、嫌味ったらしい汚貴族様のありがたいお言葉の次は、ニーナ様の"適正検査"が行われる。一体、どんな検査方法なんだろう?


 お上品に席を立ったニーナ様は、私たちに向かって一礼し、説教台に立った。


「それではわたくし、ニーナ・フォン・ハノーヴァーが実演させていただきますわ。よく見ておいてくださいね」


 ニーナ様はそう言って、祭壇に向かった。祭壇には占いに使いそうな、大きな丸い水晶のようなものが置いてある。


「こちらが検査に使用する魔法石ですわ。こちらの魔法石に魔力を流すと、その者の魔力の性質に合わせた色に染まりますの。また、その時の発光強度でおおよその魔力量を測ることもできますわ。実際にわたくしがやってみますので、ご覧になっていてくださいな」


 ニーナ様はそう言って、祭壇に置かれた水晶に手を置いた。すると、魔法石が水色に変化した。よく見るとキラキラとした金粉のようなものも魔法石内に舞っていて、とても綺麗。しかも魔法石から放たれる光は、聖堂内全てを明るく照らす程に明るく、しかし全く眩しくないという不思議なものだった。


「わたくしの適正は水と光のようですわね。水色が水属性、この金色の煌めきが光属性の証ですわ。魔力量は、光の度合いからAかしら? お父様、どうでございましょう?」


「ふむ、確かにあの強度はAで間違い無いでしょう。流石は我が自慢の娘だ」


 ハノーヴァー伯爵はそう言って微笑み、ニーナ様も笑みを返した。なるほど、Aはかなり優秀な魔力量みたいだ。


 お父さんに事前に聞いていた話だと、魔力量も冒険者ランクと同じくFからS+まであるらしい。そしてこれまたSランク以上は伝説級だとのこと。


 やっぱりお貴族様は凄いなぁと思っていると、神父さんがニーナ様にお礼を述べた後、続いてマルコを祭壇前に案内していた。


 良い結果が出たら絶対威張り散らかすのが分かってるから、ここは是非とも酷い結果になりますように。


 そんなことを思いながら見ていると、魔法石が焦茶色に染まり、ニーナ様程ではないけど強い光が聖堂内を照らし出した。


 ……ニーナ様の時と違って、随分と汚い色になったなぁ。私はその汚さに酷い結果であることを期待したのだけれど、結果はむしろ逆だったようで。


「これは素晴らしい! なんと三属性に適正があるようですね!」


 どうやら、火と風が補色故に混ざって黒となり、土属性の茶色と併せて焦茶色になったらしい。魔力量はBらしいけど、三属性持ちはチヤホヤされるようで。


「流石は我が自慢の息子だ。平民のクズどもとは訳が違いますな。わっはっはっは」


「そうねアナタ。マルコは天才ですもの。おーっほっほっほ」


 なんかもう、お腹いっぱいだよ……。神父さんも称賛しまくってるし、これは嫌な状況だなぁ。


 だって私、何故かは分からないけど少なくとも五属性の適正あるんだもん。既に何度も使ってるから間違いない。凄く荒れそうな予感がしてきたよ……。


 そしてベルマン家が大盛り上がりしている中、神父さんの案内により平民達の適正検査が始まった。


 最初は男の子からのようで、私の順番は結構後の方になりそうだった。


 さて、暫く検査を見ていて分かったことがいくつかある。まず一つは、平民男子の平均魔力量が大体Dくらいだってこと。良くてもC+止まりで、誰もBに到達しなかった。


 これで、ニーナ様の魔力量Aがかなり凄いことなんだって良く分かったよ。


 二つ目は、基本的に適正属性は一つだけってこと。二属性持ちは男の子の中では一人しかいなくて、その代わりというのかその子の魔力量はF+しかなかった。


 適正属性の数と魔力量がトレードオフなのだとしたら、悔しいけど確かにマルコは天才なのかもしれない。認めたくはないけど。


 男の子の検査が終わったら、そのまま女の子の検査に移る。


 すると、男の子の時よりもみんな魔力量が高かったようで、なんと平均Cくらいだった。それに二属性持ちの子でもD+だったりと、明らかに魔法への適性が高いみたいだ。


 ……そうか、男性には筋力があるように、女性には魔力がある、そんな世界なんだねここは。だから女性であるお母さんやマリアさんが魔法職、男性であるお父さんやアベルさんが前衛職をやっていたんだね。


 そんなことを考えていると、遂に私の隣の娘まで順番が回ってきていた。そういえば、名前聞いてなかったな。折角お話したんだし、もっと仲良くなりたいんだけどな。


「それでは、カミラさんお願いします」


 ……あ、そういえば名前呼ばれましたね。忘れてたよ。


 カミラちゃんが凄く緊張した様子で、そっと魔法石に触れた、次の瞬間。


 パッと聖堂内を綺麗な緑色の光が煌々と照らし、魔法石はアメジストのような綺麗な紫色に変化していた。その明るさはニーナ様の時と同じくらいだから、魔力量Aは確実だ。


 でも、水晶が紫色で光が緑ってどういうことだろう? そう思っていたら、口をあんぐりと開けた神父さんが答えを教えてくれた。


「さ、三属性……? 火、水、風の適正があるようです。その上、魔力量もA……」


 なるほど、緑色の光が風属性を表していたんだね。というか、カミラちゃん凄すぎない!?


 完全にマルコの上位互換だし、なんならニーナ様より凄いかも。ここまでの平民平均からしても、ずば抜けているのは間違いない。


「そ、その魔法石壊れているんじゃないのか!? いくらなんでも、平民がこの俺様より優れているだなんてあり得ないだろう!?」


「マルコ卿、こちらの魔法石に問題はありませんわ。もし壊れているのなら、何も起こらないはずですもの」


「し、しかし!」


 案の定、マルコが吠えた。まあ、そうなるよねこの状況だと。でもニーナ様は全く疑っていないようで、そんなマルコを諌めていた。


 しかしマルコは認められないようで、額に青筋を浮かべながらギリギリと歯を食いしばってカミラを睨んでいる。


「ひ、ひとまず検査を続けますので、カミラさんはお席にお戻り下さい。次は、アリスさん。お願いします」


 神父さんはそう言って、私を祭壇に呼んだ。途中すれ違ったカミラちゃんの顔色は青く、怯えている様子だった。そりゃ、汚貴族に目をつけられた平民の末路なんて、大体碌なもんじゃないからね。しかもカミラちゃんみたいな可愛い子は、特に。


 何かあったら絶対に助けてあげよう。そんなことを思いながら、私は深呼吸して魔法石に触れ、魔力をそっと流した。


「うにゃっ!?」


 その瞬間、これまでと違って直視するのも難しいくらいの眩い光が魔法石から放たれた。そしてその色は虹色に輝き、魔法石内にはダイヤモンドダストのようなキラキラした光が舞っている。


 私はその眩しさに耐えきれず、すぐに手を離してしまった。しかし魔法石は暫く光り続けて、私の目を焼いていった。


 チカチカとした残像が残ってくらくらするけど、なんとか倒れないように足を踏ん張る。これ、サングラス欲しくなるね……。


「な、七色の光は五属性全てに適正がある証……。しかも魔力量はS? ど、どうなっているんだ……」


 神父さんが驚きすぎて腰を抜かし、なんか口調も変わってしまっている。


 ……いや、まあ確かに五属性使えるのは知ってたけど、魔力量Sってどういうことだろうね。


「や、やっぱりそうじゃないか! 魔法石は壊れている、間違いない! 前代未聞の五属性持ち? 伝説級の魔力量S? 平民でそんな、あり得る訳がないだろう!?」


 聖堂内がマルコの声に合わせてざわめき出す。まあ、当然そうなるよね。私自身も、魔力量がSだなんて全く思ってもみなかった。


 でも、五属性使えるのは本当だし、多分魔法石は壊れてないんだよね。


「静粛に。今日は神聖なる建国記念日です。この場を汚すような言動はお控えいただけますか、マルコ卿」


 この喧騒を鎮めたのは、ハノーヴァー伯爵だった。僅かに魔力を込めて放ったと思われる言葉には、思わず身体を硬直させてしまう程の威圧感があった。


「で、ですが……」


「くどいぞ、マルコ卿。ここは歓迎すべき場面であるはずだ。魔族との長きに渡る諍いを、終わらせてくれるやもしれぬ才に巡り会えたと」


 ハノーヴァー伯爵に睨まれたマルコは、蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。


「ハノーヴァー伯爵、ありがとうございます」


「気にすることはないですよ。しかし、その力には私も興味があります。会が終わり次第、こちらに来ていただけますか? その際には、カミラさんもご一緒に」


 私が伯爵にお礼を言うと、卒業証書のようにクルクルと巻かれた羊皮紙を手渡された。一体いつの間に準備していたんだろう?


「承知いたしました。必ずやお伺いさせていただきます」


 私は丁寧にお辞儀をしてそれを受け取り、来賓席それぞれに頭を下げてから席に戻った。その際に見たマルコは、今にも暴れ出しそうな程に顔を真っ赤に染めていて、思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪える羽目になった。許すまじ。


「あ、あの……、私も一緒にって聞こえたんですが、どういうことなんでしょう?」


 席に戻ると、カミラちゃんが不安を滲ませた眼差しで問いかけてきた。


「多分、検査結果が凄く良かったからお話ししたいんじゃないかな。大丈夫、私も一緒に行くから、何かあっても守ってあげるよ」


 私がそう言って笑いかけると、カミラちゃんは訝しげな顔をしながらも頷いてくれた。


 その後の検査は滞りなく進行し、ハノーヴァー伯爵の挨拶を最後に"適正検査"は終了した。本当ならこの後色んな出店を巡って遊ぼうと考えていたんだけど、現実はそう甘くないらしい。


「世の中、世知辛いのぅ……」


 私は手に持った羊皮紙に目を落としてオッサンみたいな溜息を吐き、カミラちゃんと一緒に教会を出た。この後に待ち受ている一大イベントに、不安と期待の気持ちを抱きながら。

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