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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第五章 七つの大罪編
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第十五話 発想の逆転

 アリス姉さんとはぐれてしまってから、どれだけの時間が経ってしまったのでしょうか。募る不安の中、遂に私達はたった一つの手掛かりを見つけることができました。


 それは、私達二人が共通していた記憶の終着点。一見普通の市の通りにしか見えないその場所でしたが、一箇所だけ明らかに異質な道がありました。


 それが、路地裏へ続く薄暗い小道でした。


「カミラさん、ここって……」


「はい、明らかに異質な力を感じます。何でしょうか、この身体に纏わりついてくるような気持ちの悪い力の流れは」


 こんなにも気持ち悪い力、どうして私達は今まで気付かなかったのでしょう?


 それどころか、今尚道ゆく人々は一切気にした様子もありません。それならば、この力は私達だけにしか感知できていないということでしょうか。


「とにかく、行ってみるしかないわよね。ここでビクビクしていても、有栖君は帰ってこないんだから」


「はい。では、"世界眼"を使える芹奈さんが先頭、私が後方を警戒します」


 私達は頷き合ってから背を向け合い、ジリジリと薄暗い路地へと入っていきました。


 そしてすぐに、反対側の通りへと抜けてしまいました。


「あ、あれ? 絶対何かあると思ったのにこれだけ?」


「いや、絶対に何かあるはずです。もしかしたら、私達を中に入れない為の結界があるとか……」


「それなら"世界眼"に映ると思うのよね。でも、あの路地では何も反応しなかったわ」


 うーんと二人で唸るも、"世界眼"で見ることすら出来ないものをどうにかできるのでしょうか?


 全く良い考えが浮かばず、焦りだけが強くなっていきます。あの気持ち悪い邪悪な力とアリス姉さんが対峙しているのなら、急がないと危険かもしれないのですから。


 そうして思考の迷路に迷い込みそうになったその時、ふとアリス姉さんが魔法を教えてくれる時によく言っていた言葉を思い出しました。


「カミラちゃん。魔法はイメージが大切だとは言ったけど、それに囚われすぎるのはよくないんだよ。発想を逆転させてみて。火を起こそうとするんじゃなくて、なぜ火は起こるのかを考える。結局それが、一番の近道なんだよ」


 発想を逆転させる……。


 私達は今、アリス姉さんを探している。そして裏路地に入ったものの、結界があるのか幻術に惑わされたのかは分かりませんが、あの不快な力の元へ近付くこともできませんでした。


 私達は今、その結界の中に入る方法を探す、或いは芹奈さんの"世界眼"で視ることを考えています。


 これを逆転させたら、どうなるのでしょう?


「そもそも何故アリス姉さんはそんな危険な場所へ行ってしまったのか。そして何故私達はそこへ行くことができないのか。その理由を考えるべき、ということですね」


「何故って、それが分からないから行く方法を考えているんでしょう?」


「芹奈さん、その考え方ではダメなんです。発想を逆転させてください。アリス姉さんはよくそう言っていましたよ」


 私達は最初の位置へと戻り、もう一度記憶の中へ潜ってみることにしました。


「あー、それなら二人とも先に行っててくれる? 私ちょっと用事が出来ちゃったから」


 私達が最後に聞いた言葉はこうでした。それまでは普通に買い物をしていたアリス姉さんが、突然そう言って単独行動しようとしたのです。


 その直後に記憶は途切れ、私達は宿にいました。


「何故あの時、アリス姉さんは単独行動しようとしたのでしょうか? 宿を取った時点で用事を急ぐ必要もありませんし、そもそも一緒に動けばいいだけのはずなんです」


「確かにそうね……。つまり有栖君はその時、何かしら単独で動かなければならない理由が出来てしまったのね」


 昔のアリス姉さんなら、何か厄介事があれば私達を巻き込まないようにと自分一人で解決しようとしたかもしれません。


 ですが王都での経験を経て、アリス姉さんは慎重になりました。それはダンジョン攻略の時に一人で突っ走らなかったことからも明らかです。


 そんな姉さんが単独行動する理由、それは……。


「誰かに脅されたとしか思えません。何を盾にされたのかまでは分かりませんが」


「人質かもしれないし、何かしらの弱みを握られたのかもしれない。どっちにしても、その可能性が高そうね。でも、それがどう有栖君の行方と繋がるの?」


「アリス姉さんが脅されて自発的に動いたのだとした場合、何かしらの道標があるはずなんですよ。それが看板などの物だったのか、案内した人がいたのかは分かりません。ですが結界がないのだとすれば……」


 私はもう一度路地裏へ歩いていく。両手を伸ばせば両側の壁についてしまうくらい細い道を、言葉通りに両手を壁に触れさせながら。


 ベタベタと嫌な汚れが手に付きますが、気にしている場合ではありません。


 そうして歩くこと僅か10秒。突然左手で触れていたはずの壁が消え、私はバランスを崩して倒れてしまいました。


「だ、大丈夫カミラさん!?」


「いたた……、大丈夫です。服はちょっと汚れてしまいましたけど、これは後でアリス姉さんに浄化してもらいましょう。それより芹奈さん、見つけましたよ」


 私はそう言って、何もない壁を指差しました。当然芹奈さんは意味が分からないと言うように首を傾げましたが、私が指先に小さな火を灯すと、驚きに目を見開きました。


「嘘、これって……」


「はい、道です。アリス姉さんはおそらく、この先にいます」


 その道は結界や魔法などの異能に頼ることなく、巧妙に隠されていました。


 直角の狭いカーブが交互にカクカクと繋がったこの道は、一見するとすぐ目の前に壁が見えるので道があると分かりにくいです。


 芹奈さんの世界では、このような道のことをクランクと呼ぶそうですね。


 また、この道の壁に使われている石レンガは、遠近感による違和感が出ないように、手前の壁のものと比べて奥に行くにつれて少しずつ大きくなっています。


 そして極め付けは影です。路地の中で最も影が濃くなる場所に、この道はありました。


 明るい場所に慣れた目でこの場所を見てしまえば、道があると気づくことは到底出来ないでしょう。


 加えてこの裏路地は市場の大きな通りと通りを結ぶ道。目線は当然先に見える通りに向いていますし、当然注意深く左右の壁を見つめる人なんていないことでしょう。


 更に左右の壁は異常に汚いので、私みたいに触れて歩こうとする人はまずいません。


「ですがこうして明かりを灯してしまえば、簡単に見つけることが出来ます。アリス姉さんはおそらく、何者かによってこの道を照らされたことで、先に進む事が出来たのではないでしょうか?」


「す、凄いわねカミラさん……。わたしにはそんなことさっぱり思いつかなかったわ」


「仕方ありませんよ。芹奈さんは異能の全くない世界から来たのでしょう? それなら不思議な事が起きれば、それを異能のせいにしてしまう気持ちは理解できます」


「確かに、そうかもしれないわね。ありがとうカミラさん」


 芹奈さんはそう言って、とても柔らかく優しい笑みを浮かべました。


「お礼はいりません。私はアリス姉さんさえ助かれば、それでいいのですから。……なので行きましょう、芹奈さん。アリス姉さんの元へ」


 私達は頷き会い、そして見つけた細い路地へと足を踏み入れる。


 待っててください、アリス姉さん。今すぐ二人で、姉さんの元へ辿り着いて見せますから!

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