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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第五章 七つの大罪編
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第十一話 森の恵みをいただきます

「ただいまー。芹奈ちゃん、大丈夫?」


「お、おかえり……。出るものが無かったから、大丈夫よ。一応……」


 拠点に入ると、ぐったりとテーブルに伏せてる芹奈ちゃんと目が合った。いや、全然大丈夫そうにはみえないんたけど。


「まったく、芹奈さんは軟弱者ですね」


「あなた達が強すぎるのよ……。というか有栖君、この世界に来て逞しくなったわよね。日本にいた時は全然血がダメだったのに」


「これでも私、この世界で七年生きてからね。それに5歳までは記憶が戻ってなかったから、それで余計に馴染めたのかも」


 私はキッチンで調理器具を準備しながら、この世界の両親と過ごした懐かしい思い出に浸る。


 お父さんが狩ってきた鹿を解体するんだけど、上手くできたらいつもよりお肉の量を増やして貰えたんだよね。


 それでどんどん上手く……、ってこれもしかして、犬の躾と同じ方法なのでは……?


 ま、まあワンちゃんだって大切な家族なんだし、同じでも問題ないのかな、うん。そう思うことにしよう……。


 さて、準備もできたことだし調理開始といきますか。


 まな板の上に乗せたレッカーラビットのお肉は、黒毛和牛の霜降り肉というよりもアメリカンな赤身肉に近い見た目をしている。


 ウサギなのに豚並みの巨体で、しかも物凄い速度で飛び跳ねることが出来る強靭な筋肉は、脂よりも旨味が強いタイプかもしれない。


 それなら正に、シチューはうってつけの調理方法だ。


 シチューと言ってもクリームシチューじゃなくて、デミグラスソースを使って煮込む、ビーフシチューに近いものになると思うけどね。


 ホロホロほどけるまで煮込んだシチューにはお肉の旨みがたっぷり溶け出して、それを絡めていただく柔らかいお肉の味は絶品なのだ。


 ダメだ、あの味を思い出すだけで涎が出てきちゃいそうだ。料理に集中しないと、空腹感に負けそうだよ……。


 因みに、こうやって食糧難になることを想定して調味料は多めに買ってあったから、次の村に着くまでは持ちそうだ。


 ダンジョンで消耗し過ぎてしたから、出来れば魔力消費の大きすぎる『転移門(ゲート)』は使いたくなかったし、レッカーラビットは正に神の恵みだよ……。


 閑話休題。


 それじゃあ早速調理を始めよう!


 まずは玉ねぎ、人参、ブロッコリーを切り……たかったけど、野菜は全く無いのでお肉だけを一口大に切っていく。


 そして塩と胡椒を振ってよく揉み込んでから焼き色が付くまで強火で焼いて、そこにたっぷりの赤ワインをぶち込む。この時点で凄くいい匂いがしてきて、そのまま齧り付きたい衝動を必死に我慢する羽目になった。辛い……。


 そして灰汁を取り除きながら弱火で二時間くらい煮込みたいんだけど、我慢できないしここは圧力で加速しちゃおう。


 私が土魔法で作った調理器具達は、生半可な圧力で壊れることはない。蓋を閉じたらまた土魔法で弄って本体と一体化させて、その鍋の中に『ウィンド』でガンガン空気を入れていく。


 そして一般的な圧力鍋の十倍くらいの圧力になったら、弱火で十分くらい煮込み続ける。


 そしてケチャップとかソースを入れたいんだけど、そんな便利なものはこの世界には無い。


 だから代わりに、100%トマトジュースや鳥型魔物の骨ガラスープを粉末にしたものを加えていき、味を調節する。


 そして試行錯誤すること十分、遂にウサギシチューが完成したのだった。


「こ、これがレッカーラビットのシチュー……」


「なんて魅惑的な香りなんでしょうか。アリス姉さん、もう待ち切れないです……」


 どうやら二人が、というか私も含めて限界みたいだから早速いただくとしますか!


「森の恵みに感謝を。いただきます」


「いただきます」


「いただきまーす!」


 パクリと一口でお肉を頬張る。その瞬間、口の中にブワっと広がる旨みと仄かな甘味。鼻から抜ける香りに臭みは全くなく、しかもめちゃくちゃ柔らかい。


 だからと言って食べ応えが無いわけではなく、しっかりとした歯応えがある。そして筋は全く無くて、有栖の記憶と総合しても過去最高に美味しいお肉だった。


 こんな美味しい食べ物がこの世にあったなんて……。美味しすぎて自然と笑みが溢れちゃうし、何故か涙まで溢れてきた。


「何これ、美味しすぎる……! 生きててよかった!」


「自殺までしようとした人が言うと説得力ありますね。でも、私も全面的に同意します。あり得ない程の美味しさです!」


 芹奈ちゃんもカミラちゃんも、私と同じく涙を流しながらお肉を口に運んでいく。


 あまりにも美味しすぎるものを食べると、涙が出てくるものなんだね……。


 私達は三人揃ってゆっくり一口一口を大切に噛み締めながらシチューを食べていく。このデミソースもお肉の旨味がしっかり行き渡っていて、口に運ぶ度に幸せな気持ちになる。


 全て食べ終わった時には、思わずお皿をペロペロ舐めたくなるのを必死に我慢する羽目になった。流石にそれをやってしまうと、人としての尊厳がね……。


「ああ、美味しかった……。こんな美味しいお肉がまだ沢山残ってるなんて、これは夢なのかな……?」


「もしレッカーラビットを家畜化できたら、きっと世界のお肉事情が激変しますよ」


「ああ、それいいかも……。誰かやってくれないかしら?」


 こんなに良い素材、レオンに調理してもらったら一体どれだけ美味しくなっちゃうんだろう……?


 一部のお肉はマジックバッグに大切に残しておこう。この中なら鮮度が落ちることもないからね。


 ……ああ、このまま余韻に浸ってゆっくりしていたい。更に食後のコーヒーがあったら最高なんだけど、残念ながらコーヒー豆は切らしている。それに、私達の旅の目的はグルメ旅行ではない。


 私達はそんな欲になんとか抗って旅の支度を整え、拠点を出た。


 そういえばさっきはレッカーラビットに夢中で気付かなかったけど、私達をダンジョンに誘った山と霧が完全に消えていた。


 ダンジョンから出た直後にはまだあったから変に移動せずに拠点を作ったんだけど、あれは全部幻覚だったのかな……?


 災厄級のダンジョンって、こんなにも凄い力を持っていたんだね。


 という訳で私達は、山登りをする必要もなく村へ向かって走る事ができた。


 そして、野営をしながら走ること二日。私達は遂に、魔族領に来て最初の村に辿り着いたのだった。

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