第一話 適正検査
1000PV到達しました!
読んでくださっているみなさん、本当にありがとうございます!!
これからも毎日投稿頑張るので、どうぞよろしくお願いいたします。
サリィが行方不明になってから約二年、私は7歳になった。長く辛い修行の日々を乗り越えて、今日遂に"適性検査"を受けるのだ。
"適正検査"は年に一度、年の初めに行われる一大イベントだ。年初めと言っても、私の住む村が属する【ノルトハイム王国】の建国が夏であり、その建国記念日を年初めとしているので暦も日本のものとは約半年ズレている。だから今は日本で言うところの六月くらいになるかな。
私の誕生日がノルトハイム暦で十月二十日。日本だと四月に相当するから、春生まれになるね。残念ながらノルトハイム王国に桜は無いんだけど。
……本当なら、サリィも一緒に検査を受けるはずだったんだけどな。
そう思うだけで、鼻の頭がツンと痛んで涙が出そうになる。でも、泣いている場合ではないのだ。あの日から二年が経ってしまったけれど、サリィを拐った魔族の足取りは全く掴めていない。
だから私も早く冒険者になって、サリィ捜索に関わりたい。この世界で唯一、サリィと過ごした記憶を失っていない私。だからこそ、何かできることがあるはずなんだ。そして"適性検査"さえ受ければ、私も晴れて冒険者になる資格を得る。
そんなわけで気合の入りまくっている私は今、両の手をお父さんとお母さんに握られて隣街の教会前に立っている。
教会は人口千人を超える街にしか建っていないから、近隣の村からも子供達が大勢押し寄せてお祭り騒ぎになっている。
ここぞとばかりに大量の出店があって賑わっている様も、有栖の記憶にある縁日にそっくりな雰囲気だ。
「アリスも遂に"適性検査を受けるんだな……。俺は、俺はもう感激で前が見えないぜ!」
そしてお父さんは全く隠そうともせずにボロボロと大粒の涙を流して感激している。私の方が恥ずかしくなってくるから、ちょっとは自重してほしいかな……。
「そうね……。こんなに背も高くなって」
お母さんは私の頭を撫でくりまわしながら嬉しそうに微笑んだ。この二年間で、確かに私の背は結構伸びたと思う。多分120cmにはなったんじゃないかな。
5歳の時は100cm丁度くらいだったから、なんと20cm近く伸びたことになる。これが成長期か……。高校時代に伸び悩み、遂に170cmに届かず生涯を終えた有栖の記憶が羨んでるよ。
そんなだから当然、服なんかもすぐにサイズが合わなくなって何度も買い直した。今着ているのは白を基調としたドレスなんだけど、実は一回仕立て直して貰ってたりする。
絹とレースをふんだんにあしらったこのドレスは、身に纏うだけでその者の魅力を何倍にも引き伸ばす……、とか仕立て屋さんは言っていた。
試着して両親に見て貰ったら即買いしていたので、多分似合っているんじゃないかな、うん。相変わらず鏡がないっていうのは不便だよ。
周りにいる子達も、みんな気合を入れたピカピカの勝負服を着ている。ここにいるってことは全員平民なんだろうけど、そうとは思えない程身嗜みが整っている。
それだけ"適正検査"が特別なイベントってことだね。ちなみに本物のお貴族様は馬車で後から来るそうです。
平民には顔を見ることも出来ないんだよね……。見てみたかったなぁ、本物のお貴族様。
私がまだ見ぬ高嶺の花(?)に想いを馳せていたその時、荘厳な教会の扉がゆっくりと開かれた。青色の修道服を身に纏っているってことは、修道士さんなのかな? その扉を開けた背の高い端正な顔立ちをした修道士さんは、私達に向けて一礼した。
「みなさん、本日はようこそお越しくださいました。これより国王陛下のご意向により建国の日を記念して行われます、"適性検査"を開始いたします。検査を受けられる方は、こちらから二列になってお並びください。保護者の方は、通行を妨げないようにご配慮いただきながらお待ち頂けますと幸いです」
心臓が、トクンと跳ねた。何この謎の緊張感。修道士さんのあまりに綺麗な一挙手一投足、国王陛下のご意向という言葉、そして神秘的な教会の佇まい。その全てが、この検査がとても神聖なものであると告げている。
「さあ、行ってきなさいアリス。お母さん達はここで結果を楽しみに待っているわ」
「どんな結果でも気にすることはない。お前は十分に強くなったからな。検査結果なんて関係無しに将来安泰だぜ。むしろこんな7歳児が他にいてたまるかってんだ」
……まあ、5歳児にあんな修行プログラムを組む親もいないだろうしね。あの日までは私だって、年相応に毎日遊んで暮らしてたんだし。
私は握っていた手を離すと、深呼吸して気を落ち着かせてから二人に手を振った。
「わかった。行ってくるねお父さん、お母さん」
そして私は、既に長蛇の列になってしまった検査の待機列に向かったのだった。
◇
教会の中は、まるで中世ヨーロッパの建築みたいな美しい造形だった。窓は七色に輝くステンドグラスになっており、所々に飾られた燭台は、とあるディズ◯ー映画で登場した喋る燭台の姿を思い出させた。
壁には宗教画では一般的である裸婦画や、とても美しい女神様が蛇の形をした邪神と戦っている絵画などが飾られている。そのどれもが思わず目を引くほどに美しいものだった。
そんな光景に圧倒されながら、私は女の子用の控え室に通された。そして私はまた、その部屋の光景に圧倒されることになる。
そこには、鏡があった。
まるで芸能人のメイクルームのようなその部屋には、二十人は座れる長いカウンターがあり、そこには椅子と鏡が同数設置されている。
そして二十人の修道女さんが、そこに座る女の子一人一人にメイクを施している。"適正検査"には何百人と子供達が押し寄せてくるから、とても大変そうだ。
しかも修道女さんのメイク技術は凄くて、メイクされた女の子はみんなキラキラして超可愛い。あれはもはや魔法だよ。
そんなことを思いながらホゲーっと順番待ちしていたら、意外とすぐに私の番がやってきた。遂に自分のご尊顔にお目にかかれるぜと、ちょっとドキドキしながら席に座り、鏡を見た私は思わず目を見開いた。
鏡には、同じく目を見開いた女の子の姿が映っている。その瞳は空のように透き通った青色で、まるで綺麗に磨かれたサファイアのよう。
顔立ちは人形のように整っており、肌は雪のように白い。年相応に幼さが残る目鼻立ちもまた愛らしく、すぐに抱きしめてくる両親の気持ちも分かるというものだ。
そして肩甲骨のあたりまで伸びた絹のようにサラサラとしたプラチナブロンドの髪が、その魅力をグッと引き伸ばしている。
有栖はロリコンではなかったはずなのに、ドキドキが抑えられない。このまま成長したら、一体どれほどの美少女になってしまうのだろうか。
私は少しの間ボケっと鏡の中の愛らしい少女の姿を眺め、ハッと我に帰った。私の担当であろう修道女のお姉さんがクスクスと笑うのが聞こえてきて、鏡の中の顔がボンっと赤くなる。
……絶対ナルシストだって思われた! 自分の顔にドキドキするって、結構、いやかなり危ない人だもんね!
こんな時に有栖の記憶を思い出してしまったことが悔やまれる。だって、この顔有栖のストライクゾーンど真ん中なんだもん。ずるいってそんなの。
「ふふっ。それでは始めさせていただきますね」
そう言って、修道女さんは私のメイクに取り掛かってくれた。その間、私の顔が羞恥で紅潮し続けていたのは、もはや言うまでもないことだった。