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ありきたりな世界の話  作者: 冬野紫苑
3/6

あとほんの少し強ければよかった3

どうもです。冬野紫苑です。

三話目になります。

BGMの終わりは、一人の教員が教室に入ってくることで訪れた。その人物の第一印象は冴えない男性、これはクラスの全員で一致することだと思う。口回りに点々と生えた髭や、フードのついた灰色のマントを身に着けていることが、余計にその雰囲気の主張を手助けしているように感じてしまう。


その教員はクラスメイト達の視線をその身に受けながら、ゆっくりと黒板の前まで歩き、おもむろにチョークを手に取り板書し始めた。その教員が書き終わるまでのその間、教室にはチョークが黒板をたたく音だけが響いており、彼がその音を奏でているというだけで、異様な雰囲気がその場を支配していた。


不意に黒板をたたく音が止み彼がこちらに顔を向けたかと思うと、少し横へ移動し小さく息を吐いた。その間に黒板の文字を確認する。


萩坂憲明(はぎさか のりあき) ランクB』


黒板の中心に少し大きめに書かれたその文字は以外にも奇麗なもので、なんだか少し安心した。黒板の文字の主である萩坂先生は、皆が黒板の文字を見終えたことを確認するとゆっくりとして口調で自己紹介を始めた。


「おはようございます。私は、萩坂憲明というものです。魔法陣使いとしてのランクはB、戦闘員としてのランクはCです。よく薬物や魔道具を主軸としていると勘違いされることがありますが、先に述べた通りランクBの魔法陣使いとして魔法陣を主軸としています。この一年の間、ここにいる皆さんの担任を務めることになりました。気軽に話しかけていただければ幸いです。どうぞ、よろしくお願いします。」


そう言うと先生は軽く会釈しこちらを見渡した。最初の印象に反して礼儀正しくなんとなくだけど優しい人なんだろうなとそう感じた。


「それでは、早速ですが連絡事項を消化していきたいと思います。」


本当なら、まずは出欠をとるはずなのだけれど今回は省略するのだろう。


「まず、一つ目として皆さんの今後についてです。皆さんは今日から国立第四魔導高校の二年生となりました。それにより皆さんには政府及びそれに準ずる機関からの要請が発せられた場合、直ちにその要請に応じ戦地へ向かう義務が生じることとなります。しかし、義務といっても強制するものではありません。つきましては、その要請に応えることのできない生徒はこの後、私にその旨を伝えに来てください。その理由に応じ相応の処置を取らせていただきます。また、各要請が出た時点でその要請に応えることが困難な状況に陥っている場合はその都度、私もしくは学年長にその旨を伝えるようお願いします。」


このことは僕を含めたこの場にいる全員が承知の上でこの高校に通っている。そもそも魔導高校はそのすべてが発生する魔物へ対処するための戦闘員を育てることを目的とした機関である。


六年前の推定神の出現とその消滅をきっかけとして現れだしたと考えられている魔物は、それから一年間数を少しずつ増やし、手のつけようのない数にまで膨れ上がり大規模災害の発生へと繋がった。その日から、魔物の対処方法が確立し数を抑えることに成功するその間に世界の人口は五分の一にまで減少し、人類の生活範囲もそれに伴い縮小した。しかし、今もなお魔物による被害やそれに伴う生活圏の縮小は収まってはいない。


「二つ目は、皆さんの中に知っている方も多いと思います。勇者及びその隊員がこの高校に通うこととなりました。その隊は全員が皆さんと同い年ということなので、同じ学年のAクラスにその籍を置いています。同じ棟に通うこととなりますので、見かけたり話したりすることが多々あると思います。我々教師陣は彼らと共に皆さんもお互いに切磋琢磨し合い互いに高め合っていくことを期待しています。」


勇者の話題が出たとき教室が少しざわついた。それは、勇者が同じ高校にしかも同じ棟に通ことになったことに対してか、それとも先生の言った切磋琢磨という言葉に触発されたからなのかは定かではないけれど、それでも今の先生の言葉は一部の生徒のやる気に火を点ける、そんな意味のある言葉であったのだと思う。現に教室の左の方では能天気な彼が、大きくガッツポーズをしているし、それを見た先生は無邪気なものを見るような…そんな温かい目をしている。


「しかし私としては、勇者達に過度な期待はしないことをお勧めします。それはきっと彼らに対してとても大きな重圧になり得ると考えるからです。彼らも皆さんと同い年なのですから。」


先生の言っていることはよくわかる。確かに勇者は皆の憧れの対象として存在している。でも、それは一種の幻想でしかないということを分かっている人は多くない。これは勇者のあり方に起因している。


勇者に認定された人はどこの国でも大々的に表彰され国民に広く知れ渡る。そして勇者は広い範囲で、場合によっては国外からの要請にも応じて問題の解決に臨む。このことから勇者は『国を代表する強者』というような印象を持っている人が多い。


 けれど、勇者を決めるのは、生物の枠を超えた超越者でも、運命なんてあやふやなものでもない。勇者は能力とその人間性を総合的に判断して、政府やそれに準ずる機関が半ば強引に認定する。勇者の率いる隊員に至っては、その勇者が認めた者が選ばれる。つまり、勇者やその隊員の実態は少し強くて将来性のある一般人とそう変わらない。


「では、最後になりますが、教師一同皆さんの今後の活躍に期待しています。という言葉をもって連絡事項の消化を終了したいと思います。続いて、一限目の予定は能力測定ですので、皆さん席を立ち地下一階の第一演習エリアへ移動しましょう。」


 その言葉と共にホームルーム終了のチャイムが鳴った。僕ら生徒は一斉に席を立ち、すでに教室を出た先生の後追いながら第一演習エリアへと移動した。移動しながら僕は、あの最後の言葉を連絡事項として伝えてしまう、そんな担任の先生が好きになれそうなことを嬉しく思っていた。


読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字報告等楽しみにしておりますので、どんどん書いていただければと思います。

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