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ありきたりな世界の話  作者: 冬野紫苑
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あとほんの少し強ければよかった

どうもです。冬野紫苑っていいます。

私の妄想を文字に起こしただけかつ幼稚なものに思われるかもしれませんが、初投稿になりますので暖かい目で見守っていただければ幸いです。

感想等伝えて頂ければ励みになりますのでどんどんお願いします。

 3月が終わり4月へと季節が進む。4月は日本において始まりの季節だ。入学式や新生活といったようにみんな何かが始まる。その何かが、その先に続くものと共に幸福であるように願いながらみんなが一様に始まりを待つ。


 こんなふうに物思いに更ける僕もこの4月から高校二年生として新しい学年の新しいクラスに通うようになる。僕においても新しいことが始まるわけで、例に漏れず僕もひたすらにこれからの幸福を願っている。ただ、少し気がかりなのは桜がすでに散ってしまっていることだろう。


 いつの間にか校門の前にたどり着いた僕はその奥にあるすでに散った桜の木を見ながら思う。


 始まりの季節を彩る桜というのはやはり美しかったのだと実感する。それに、桜舞うその光景はよりこの始まりを鮮やかにするのだろうと確信めいたものがある。ここ数年、なにが原因かはどうでもいいが桜の開花が早まっている。この季節を桜が彩れないというのはなんだか悲しい。


「少しもったいないな。」


「なにがだよ?」


 桜の木の下で鮮彩さを欠いた4月に悲しさを感じている僕の背中に、鼻を詰まらせたような若干くぐもった声がかけられた。


「ほら、桜だよ。この季節に桜がないのって、やっぱりもったいないように感じてね。」


 鼻声の主が僕の横に並びながら言う。


「出たよ、お前の詩的な感性自慢。知ってるか?そういうところがモテない理由の一つなんだってことをさ。」


「…僕は別に詩的だと思ってなければ自慢しているつもりもないよ。」


「そぉかぁ、まぁ周りにはそう見られてるってことだ。モテなくていいって思ってることはわかるしこれ以上は言わねぇけどよ。つか、お前桜とか愛でるような奴だっけ?お前になにか好きなものがあるとかイメージがわかねぇ。」


「僕にだって好きなものぐらいはある。ただ、確かに桜は別に好きじゃない。もっと言えばこの季節は嫌いな部類に入る。」


 本当に僕にも好きなものはある。ただ自分の好きなものを言って回らないだけだ。


「確かに俺もこの時期は嫌いだ、花粉症が火を噴くし、何より暑い。」


「だよね。」


 確かに最近は暑い、これは僕らが暑がりというわけではなく本当に暑いのだ。ただ彼に限って言えば昔からこの時期を暑いと言っていそうだけど。


「きっと、その暑さのせいで桜の開花が早まってるんだと思う。」


「…ならこの暑さを昔みたいになるまで戻したら、この時期に桜が咲くようになるんじゃねぇの?これいい考えじゃね?お前戻せよ、そしたらお前の言うもったいないがなくなるかもしれねぇぜ?」


「やだよ。…というより理由が分からないんだからどうしようもないよ。」


 まあ、わかったとしても僕に何ができるんだって話だし、そもそもこんなことはどうでもいい、少し気になっただけだから。


「なんだよ、お前の桜にかける情熱はそんなものかよ。なんでもして見せるぐらいの覚悟を見せろよ。」


 なぜ、こんなことに情熱や覚悟がいるのかまるで分らない。そもそも桜もこの季節も好きなわけじゃないことは伝えたはずなのに。


「そこまで言うなら君がやればいいんじゃない?」


 本当に、できるならやってみてほしい。そんなことが起こればきっと、僕は彼に惜しみのない拍手と称賛を感情の限りぶつけるだろう。サインなんかも貰うかもしれない。


「おいおい、この時期に桜って言ったのはお前だろ?だから俺は提案してやってるのに、お前ときたら…」


 その時、僕らの後ろからこれでもかというほどの歓声が聞こえた。僕がいくら集まっても太刀打ちできそうにないその声は、この会話を打ち切るには十分すぎる力を持っているようで僕としては少しありがたく思えるものだった。でも、新たな話題が生まれる予感はあるけれど。


「なんだなんだぁ、このでけぇ声は、今日なんかあったか?」


「告知されていたわけではないけれど、この年からこの学校に勇者が通うことになるらしい。噂の域を出ないと思っていたんだけれど、あのコールを聞く限り本当のことだったみたいだね。」


 僕は彼の問に素直に答える。どうしようもない僕の気がかりよりこちらの方がよほど建設的な話題だ。それに僕もただの噂が本当のことになっていて驚いている。だってあの勇者がこれから同じ高校に通うことになるかもしれないんだから。


「まじか。」

「まじだよ。」


 彼は、僕の回答を聞いて心底驚いた様子で、その形の良い眉を上げた。そんな彼を見て僕は少し疑問に思ったことを口にする。あまり意味のある疑問ではないけれど、会話というのはそういうものだと理解している。


「この手の噂話を君が知らないのは意外だね。僕なんかとは違う交友関係を君は持っていると思っていたけれど。」


 噂というものは、人から人へと自然に伝播するものだ。僕の所まできたこの噂話を彼が知らないのは、とても不自然に思えた。


「まぁ確かに、お前よりは広い交友関係を築けているとは思うが、それを自分で言うのはどうなんだ?自覚してるなら広げる努力をしたらどうだよ。」


 彼は少しの沈黙のあとそう言った。これは彼にしては珍しいことだった。沈黙のことではなく、質問の本文からわざと外れた返答をしたことが、とても珍しい。だから、僕は気にせず会話を続けることにした。彼は今きっとそれを望んでいるだろうから。


「僕は、僕の交友関係に広さを求めていないんだよ。」


 僕の交友関係は確かに広いものではないけれど。その限られた場所に、必要な彼らがいる。これが何よりも大事なことだ。


「そこに俺は入っているのかね。」

「もちろん。じゃないとこんなふうに話したりしない。」


 彼とは、それほど長い付き合いという訳でもないけれど、そう思えるほどの関係を築けていると思う。きっとこれはとても貴重なことだ。


「そりゃよかった。」


 彼は、そう言うと校舎内に向かって歩き出した。僕も一応彼と肩を並べ一緒に行くことにした。先の勇者の噂話について彼に教えたり、僕の交友関係についての注意を彼から受けたり、そんな他愛のない話をしつつ、勇者コールを聞きつけた他の生徒とすれ違いながら、今年から通うことになる教室へと歩みを進めた。


読んでいただきありがとうございます。


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