1.プロローグ
目の前にある機械が付いた質のいいリクライニングチェアとその上に置かれたゴーグルタイプのヘッドマウントディスプレイを見て、私は感嘆の声を上げながら呟く。
「おお‥‥これが今、話題のバーチャル・ダイブ・コンソールですか。」
Virtual・Dive・Console( バーチャル・ダイブ・コンソール)とは、それぞれの頭文字をとって通称「VDC」と呼ばれる完全没入型VR機器です。
一般家庭でフルダイブ型仮想空間が楽しめるようになるのはかなり先の未来だろうと言われていたが、近年の科学技術発展は凄まじく、気軽に家庭でも楽しめるようになりました。
新しい技術になると色んな業界のてこ入れもあった影響か、クオリティが異様に高く、五感も制限があるが再現されており、普段いけない所や出来ない事が出来るVR旅行やVR格闘技体験会などが流行ってます。
そんな背景で一般に普及したVR機器、その中でもこのVDCは最新式で、サポートAIが付いており、設定も対話式でしやすく、いろいろな対策設定や情報検索も頼めてしまうのだ。
さらに専用の椅子が付属され、仮想空間で遊んでる使用者が体を痛めように楽な姿勢になるように自動調整してくれる。
至れり尽くせりのこの機器だが、その機能に見合って結構お高く、製作コストもなかなかのハイエンド機器で製造数も少ないのでそうそうに手に入る物ではない。
そんなハイエンド機器であるVDCを、私、来栖詠歌が入手できたかというと、父方の祖父母からの高校入学の祝いとしてプレゼントされたのだ。
最初は、こんな高価なもの貰えないし、近年のVR機器なら高性能で、高齢の祖父母でも扱えるはずだから、そっちで使ったほうがいいと言って返そうと思ったのだが、貰いものだし、要らないなら業者に買い取って貰うというのだ。
その選択もありだと思っていたけど、高級品なうえに入手難易度が高いこのVDCを家族や身内が使う訳でもなく手放すとなると、とても持ったないと思ってしまい貰ってしまった。
おのれの貧乏性がにくい‥‥それに祖父母の残念そうな顔より笑顔をみたい、私はおじいちゃんっ子でおばあちゃんっ子である、二人が笑顔であるならそれで満足なのである。
受け取り同意した時に気になったので貰った理由を祖父に聞いてみたのですが、どうやらある企業に技術提供をして、その報酬として貰ったと教えてくれました。
守秘義務があるらしく、企業名や提供内容は教えてくれませんでした。
祖父は結構名の知れた木工師であり、木材のみでロボットやらフィギュア並みの精巧な人形を作ってしまうの程の腕前なのだ。
さらに機械にも強くて、自作の販売サイトを作って、そこで販売や依頼を受けて製作も行っているし、時々製作風景を動画にとって、解説付きでクリエイティブラインという動画サイトに上げているハイスペックおじいちゃんなのである。
そんな祖父だから技術の方でかなり報酬がよかっただろうな‥‥だから、VDCなどという高級品を買えたのだろう、そうに違いない。
因みに祖母は、絵師さんで主に祖父が作った作品の色塗りを担当している、有名ではあるのだけど本名で活動してる訳でもないので、身バレはしてないらしい。
VDCの設定の方は、運んできてくれた業者と一緒に来たカスタマーサポートのお姉さんに手伝って貰ったので、すぐにでも遊べる状態です。
今回、VR初心者である私は、このゲームで遊ぶこと決めていた、そのタイトルは Fantastic Ark Online(ファンタスティック アーク オンライン)である。
通称「FAO」や「ファンアク」と呼ばれてるらしく、ベータテストなる物が終わって、最近発売されたばかりVRMMORPGというジャンルのゲームらしい。
何でこのゲームを選んだかというと、遊ぶゲームを探してる時に発見したFAOの広告用動画に映ってた妖精竜に一目惚れしたからなのです!
ドラゴンというと翼膜がある翼と蜥蜴ような鱗で覆われた物を想像すると思いますが、この妖精竜は違います。
鱗の代わりにふわふわな体毛が生えてて、翼が妖精のように半透明なら蝶やトンボの様な翼をしてます。
動画で映っていた子は、プレイヤー?の女の人が抱きかかえられるサイズでしたから、だいたい大きめの子犬とか小型犬くらいの大きさとみて間違いないと思います。
私も抱いてもふもふしたり、一緒に散歩したり、一緒にご飯を食べたりしたいです。
ただ問題あるとしたら、どうやったら会えるかが全く分からないと言うことですね!
ベータテストなる物で、会う方法を見つけた人がいないか、調べたのですが、掲示板やまとめサイトでは妖精竜の話題は上がってるみたいですが、実際に会えた人はいないみたいですし、仲良くなる方法も全く分からないです。
まあ、方法が解ってないなら自分で見つければいいだけです。
他人に頼ってばかりいるのも問題ですし、自分が必要だと思ったものは自分でやらないと力なら無いといいますしね!
これもRPGの醍醐味というやつなのでしょう。
うん、VDCの高級感と初めてのVRゲームの緊張に負けてちょっと現実逃避気味になってしまった、反省、反省。
そんな感じでもたもたしてたら、そろそろサービス開始1時間前、ソフトのインストールやアバター使用する身体データも取り込みは、カスタマーサポートのお姉さんにしてもらったから、事前準備もバッチリ。
担当してくださったお姉さんが手伝ってくれなかった、ここまでスムーズに準備できずスタートダッシュに間に合わな買っただろう
確か、キャラクタークリエイトとかは開始前でもできたんだったかな?
初めてだし、他の人より決めるのに時間が掛かると思うからもう始めてしまおうかな。
「よし、覚悟完了、いざ、愛しの妖精竜に会うため!」
意気込みを口ずさみ、自分に活を入れつつHMDを装着し椅子に座して、VDCを起動。
起動画面からしばらくとすると女の人の声が聞こえてきた。
”こんにちは、詠歌ちゃん、今日は何をするのかしら?”
「こんにちは! インストールしたFAOって、もうキャラクター作成できます?」
”調べるからちょっと待ってね”
サポートAIを設定してもらってよかった、自分で調べなくても状態が解るのは楽ですね。
因みに人格パターンはいろいろあったからお姉ちゃんタイプを設定してもらって、名前は’サイカ’さんにしてもらいました。
一人っ子なので姉が出来たみたいでうれしいですね。
”調べてきたよ、うん、キャラクター作成は開始してるよ、当然だけど作成が終わってもサービス開始してなかったら遊べないからね。”
”サービス開始までまだまだ時間があるけど、どうする? 始めちゃう?”
「サイカさん、ありがとう!うん、ゲーム開始でお願いします!」
”了解よ、楽しんできてね、詠歌ちゃん。 ―――Fantastic Ark Online起動、システムチェック‥‥‥異常なし、安全確認終了、意識誘導開始‥‥”
サイカさんの送り出しの言葉とアナウンスを聞きつつ、私の意識は遠のいていく。