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【二章完結】「ダメ姉聖女」番外編  作者: 銀青猫
第一章 イシルとルルー姉妹
1/6

1 ルルーは家族に包まれる

聖女認定の儀が終わり、ルルーが正式に聖女となった後のお話。

その後のイシル家族はどうなったの? というご質問への回答編です。

本編をお読みになってからご覧くださいませ。11話のあとくらいからです。

わがまま妹ルルー視点なので、人によっては読んでいて気持ちが良くないかもしれません。こういう家族の形もあるということで。


「ダメ姉と言われたわたし、聖女じゃないって見捨てられたから兼業しました」

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 今日はセーヴとセヌアの娘ルルーが、久しぶりに神殿から帰ってくる日だ。


 生まれ育った家ではないが、ルルーは「ただいまー」と言ってアパートの扉を開けた。その後ろを護衛神官が付き従っているが、両親の目に映るのはルルーだけだった。


 窓からルルーが来るのを今か今かと見張っていた母セヌアは、玄関まで駆けて両手を広げてルルーを抱きしめた。

「おかえりなさい、ルルー。聖女認定おめでとう」

「おかえり、ルルー。おめでとう。がんばった甲斐があったな」

父セーヴも、セヌアごとルルーを抱きしめた。



 食卓には、ルルーの聖女認定のお祝いのご馳走が並んでいた。料理と家事全般を任されている使用人に手伝わせて、セヌアが腕をふるったものだった。

「やっぱりお母さんのご飯は美味しい。ありがとう、お母さん。

 お父さんも材料を用意してくれるの大変だったでしょう。ありがとう」


 わがままいっぱいだったルルーも、神殿で聖女修行をするようになって、両親への感謝の言葉を口にするようになった。

 両親は、ルルーが大人になったと喜んだ。

 だが、ルルーは単に、両親のまわりにある黒いものの調整をしていただけだった。


 ルルーは人に見えない黒いものが見えた。それは人の怒りや悲しみなどの負の感情や欲だった。その人が出しているものもあり、周りの人によってつけられたものもある。

 その黒いものがある程度ある人が、ルルーには楽しい人に思えて好きだった。全然ない人は、ルルーはすごくつまらないのだ。


 ずっと住んでいたコトー村の畑や放牧場もある家からレティオール街の小さなアパートに移ってから、両親はすぐにルルーの好みよりも黒く染まり始めた。


 コトー村もその隣のフルプレヌ町も、黒いものはいっぱいあったが、まったく黒くない場所も多かった。人々は素朴で、黒いものが身体中を覆っている人は少なかった。

 レティオール街は、あちこちに黒いものがあった。人々もフルプレヌ町に比べて黒い人が多かった。まったく黒いものをつけていない人もいるが、赤ちゃん以外はほんの少数だ。


 コトー村に住んでいたときは、ルルーは両親を黒く染めるように行動していた。自分の好みよりも黒いものが少なかったから。

 レティオール街に移ってからは、すぐに黒いものが増えすぎてしまう。ルルーはしかたなしに黒いものを減らす努力をした。

 黒いものに覆われ過ぎると、両親の感情が激しくなりすぎたり、貪欲すぎたりするからだった。


 そのためにルルーは、両親に感謝を伝えたり、気遣うことを言ったりした。そんなルルーの言葉を聞くと、両親は喜んで黒いものが減るのだった。


 わがままも愚痴も悪口も言わないなんて、まるでお姉ちゃんになったみたい。

 ルルーはそんな自分がおかしかった。



 モルヴィニョン大神殿や聖女認定の儀の様子を話したルルーは、両親に姉イシルのことを伝えた。

「お姉ちゃんがフルプレヌ小神殿から来ていたのよ。

 そしてね、聖女に認定された」


 両親はびっくりした顔をしたが、それを信じなかった。

「そうなのか? あのダメ姉がなぁ。大聖女でも間違うことはあるんだな」

「まさか、あの子が。そうよね、間違いよね。フルプレヌの人たちはかわいそうね、間違った聖女を押し付けられて」

「そうだな。レティオールは聖女ルルーがいて幸せだな」


「大聖女さまが間違うはずないでしょ」

ルルーは自分も信じられなかったことを棚にあげた。

「それに、イシルお姉ちゃんは、次期大聖女に指名されたのよ」


「まさか、そんなはずがないだろう。聖女だって信じられないのに、あのダメ姉が次期大聖女だと」

「そうよ、きっと違う人よ、ルルー」

 両親はルルーの言葉を信じようとしない。ダメ姉と虐げてきた姉が聖女になるなど、両親にとってはありえないことだった。


「お姉ちゃんと、話したんだから!」

そんなルルーの言葉を無視して、父セーヴは別のことを話し出した。

「ルルーは聖女候補から聖女になって、何が変わるんだい?」



 ルルーは、姉イシルが次期聖女になったことをどう言っても両親が信じないのがわかって、さらに話そのものを無視するのを受け入れ、それ以上姉のことを話すのをやめた。

 両親の中では、姉はいつまで経ってもダメ姉だった。


 ルルーは、馬鹿にしていた姉と突然立場が違ったことに、まだ慣れていなかった。ルルーの中にもまだ、あのダメ姉がという感覚が残っていた。

 そんなルルーにとって、両親がダメ姉と今でもイシルを軽んじるのは、ほっとすることだった。



 そんな家族三人の様子を護衛に付けられた神官は見守っていたが、何も言わなかった。


 レティオール神殿の神官たちは、自分たちの聖女であるルルーを大事にしていた。

 イシルとルルーが仲の良い姉妹であれば話題にのぼったかもしれない。だが、ルルーが聖女候補であった頃は姉のことをバカにしていたので、イシルの名前が出たことはなく、ルルーが聖女となりイシルが次期大聖女となってからは、ダメ姉よりも下になったルルーの怒りが怖くて、だれもイシルについて触れなかった。ルルーに姉がいることさえ知らない神官もいた。


 ルルーの後ろ盾であるナバロガン神官も、オネット神官に出し抜かれたと憤慨していた。


 レティオール神殿では、次期大聖女のこともその伴侶のことも触れるのをはばかられていた。



 * * *



 やがてコトー村のイシルとルルーの生家が買われ、そのお金で両親は神殿の近くに小さな家を買った。

 聖女の両親のために、レティオール神殿は使用人を数人雇い入れ、聖女の実家の体裁を整えた。


 父セーヴは、レティオール街に来た時に紹介された大きな店の帳簿付の仕事をそのまま続けており、贅沢をしなければ生活ができた。たまにルルーが欲しがるものを買い与えるのが、父の楽しみだった。

 母セヌアは、使用人と一緒に家事をして、家を守っている。手料理を嬉しそうに食べるルルーの顔を見るたび、セヌアは幸せな気持ちになった。



 せっかくの休暇をいつも両親と過ごすのは面倒だといいながらも、ルルーは両親と会うのをやめなかった。

 ルルーには、両親に大事にされてきた自覚があった。放置された姉がいたからこそ、その気持ちは強かった。


「これからもお父さんとお母さんのこと、よろしくね。二人はルルーだけが大切だから」

イシルの最後の言葉と、悲しそうな表情が浮かんでくる。


「結局は家族なんだよね、父さんと母さんとわたし」

 ルルーを世話する名目でルルーの側にいる両親を、彼女は身内という枠からずっと外さなかった。



 うっとおしいと言いながらも、母と一緒に買い物に行き、たまには父や母が喜ぶようなものを買って渡す。

 母の手作りの料理を父も交えて食べ、ルルーが語る仕事の話を両親が感心しながら聞く。

 そんな休暇を、ルルーは聖女としてではなく、一人の娘として過ごした。


 たとえ護衛がついての休暇だとしても、三人で過ごしている日々はルルーが育ったときと変わらなかった。

 そこにいたはずのイシルがいなかったとしても、三人には些細なことだった。


 ルルーは伴侶を得ることなく、両親に見守られながら、ずっとレティオール街の神殿で暮らした。


ある意味、ピーナッツ母娘? 父も混じるけれど。

ルルーは巣立ちできませんでした。母も父も巣立ちさせませんでした。

イシルは搾取子で、ルルーは愛玩子です。


次は本編の主人公、姉イシル視点です。


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