⑥決戦
「――――――――――」
まずは一瞬、何が起きたのか分からず辺りを見渡す。
するとそれだけで、その行動一つだけで激痛が体を走る。
上を向いていた頭を下に向けると、そこには自分から噴き出す血の噴水があった。
右足が潰れ、破れた動脈が露出する。
痛みを通り越している、もしも自分に根性が無ければ今頃気絶しているだろう。
「うぁ、あああがっ」
だが、痛いものは痛い。
「ぎゃあああああああがぁあぁぁぁあぁぁぁああああああああ!」
瓦礫に潰された右足に手を伸ばす、痛い、痛くて痛くて仕方がない。
動かない体でのたうち回ることも許されず、光秀は荒い息を吐きながら叫んだ。
「助けて!助けて!ああああああああああああ!」
最早武辺の誇りなど無し、今の自分が俗人に成り下がった事など、光秀本人は気にすらしていない。
喋れば喋るほど血が噴き出す、出血多量で死ぬか、ショックで死んでしまうか、たったそれだけの違い。
だがどちらにせよ苦しいのは確か、やれることは何もない、そもそも、やろうとも思わない。
「ひぃ・・・・ひぃ」
涙で遮られている光秀の視界に、何かが映る。
それは助け舟だ、紛れもない救いだった。
それは爆風の中、瓦礫の雨を疾走する、自分の主君だった。
「あ、ああ」
それを見て光秀は大いに喜んだ、救いだ、救いがやってきた。
光秀は精いっぱいの力を振り絞り、声帯を震わせ声を出す。
助けて、助けて、こっちです。誇りもクソも何もない言葉を吐き出し、光秀は自分の誇り全てに泥を塗る。
だが、自分が助かって何になる?
その言葉が頭に浮かんだ瞬間、光秀は自分の誇りを見据えた。
ああ、あんなに早く、綺麗に動いている。
あんな大きな翼を見てもまだ諦めていない、武士の鏡と言えよう、いや、本人は否定するだろうが。
「・・・・・・・うう」
自分の口を両手で塞ぎ、光秀は瞼を閉じる。
痛みは変わらない、動けないのも、自分がもう死ぬことも。
勝利の喜びに笑うことも無く、あの優しい人たちと酒を酌み交わすことも無い。
ならば。せめて。
自分が人を殺すことで守ってきた誇りだけは、守り抜く。
既に無くなっていた足の感覚、膝辺りから腰へと、どんどん体が冷えていく。
ああ死ぬ、本当に死ぬ。
後悔など数えきれない、やり残したことなどそれ以上だ。
でも、それでも自分にはこれしかない。
(これでよかった、これで・・・・・これで)
口を押えていた手がだらりと下がる、最早重力にさえ逆らうことができない。
「・・・・・・・・ああ」
最後に、貴方を一目見ることができてよかった。
出来ればその面をぶん殴ってやりたいところですけど、何しろ私には時間がありません。
だから二言、言わせてください。
地獄に落ちろ、そしてありがとう。
先に待っているのでお覚悟を、情は聞き受けない地獄の鬼でも、貴方への拷問を強くするのはまぁ、聞いてくれると思いますしね。
ではさようなら、私の人生を叩き潰した、我が主。




