正真正銘の化け物
瓦礫の中で、魔性は怒りを隠せずにいた。
許せない、許せない、我が神の力だぞ、それをたかが妖精の剣で?
「ふざけ、やがってぇっ!」
心臓の傷を力で直し、自分に覆いかぶさる瓦礫を吹き飛ばす。
吹き飛んだ瓦礫は周囲の建物を破壊し、豊かだった文明は跡形もなく吹き飛んでいく。
爆心地の中心に居座る魔性は、自らの爪を噛みながら頭に血を登らせた。
もういい、遊び半分で生かしていたが、全員殺してやる。
近くを飛び回っていた虫を集め、先ほどの爆弾を作ろうと手を伸ばす。
その時だった、声が聞こえてきたのは。
「良くないですねぇ、可愛いお顔が台無しですよ?」
ふと、背後から抱き締められた。
思考が一瞬真っ白になる、その後嬉しさと強欲で手先が動きそうになる。
だがそこは身を粉にする思いで押し殺し、手を優しく振り解き、抱き締めてきた背後の女に跪く。
集めていた虫は吹き飛ばす、汚いものをこの方に見せてなるものか。
目の前の女は不満げに瓦礫に座り、可愛らしく手に顎を乗せてこう言った。
「別に主従関係を求めてる訳じゃないんですよ?私だって元々は人間なんです、もっと気楽に話しかけてくれた方が嬉しいんですけどね」
「ひっ、えへ、えへえ、恐れ多いですよ我が神様、私の神様、貴方が元々人間?そんなはずないじゃないですか神々しいそのお体を見れば分かります」
垂らした涎が止まらない、無礼で汚らしいのは分かってはいるが、どうしても開いた口が塞がってくれない。
荒々しい息を両手で塞ぎ、涙さえ流して魔性は頭を地に擦りつける。
それを本当に、本当に忌々しそうに見ながら、女は自分の茶髪を触りながら言った。
「・・・・・・ま、用件だけ言いますとね、楽しんで殺しなさいってことですよ、こんな楽しみ、私にとっては数千年ぶりの楽しみなんですから」
涎が出てはいけないので無言で頷き、魔性は深く頭を下げてから、死の遊戯をするべく走り去って行った。
「・・・・・・・・・・・」
残された女は誰もいなくなった寂しいその景色を忌々しそうに見ながら、憂鬱そうな溜息をついた。
「楽しみ、か」
ゆっくりと立ち上がり、大きめの瓦礫を握り潰す。
砕かれた瓦礫の破片は黒く染まり、やがて消え、そのまま無に帰していく。
「何でこんなことになったんでしょうね、家族も、幸せも」
そう言って、彼女はこの世界から消えた。
彼女が何処にいるか、それは永久不滅の観測者、それと同格の陰陽師、果ては神々ですら、その地に辿り着くことも、探すことも敵わない。
彼女の名はユダ、人間を捨て、身も心も怨念へと変性した正真正銘の化け物である。
あーあ、せっかくあいつが警告してくれたのに、やっぱりあなたたちは馬鹿ですね。
うふふ、正義が勝って悪が負ける、殺される、そんな物語がお好きな皆さんなら、まぁ無理もないですよね。
そんな皆さんに、今回は質問がしたいんですけど~。
誰が私を悪って決めたんですかね?
別に私に黒いスポットライトが当てられているだけで、もしかしたら正義の味方かもしれませんよ?
大体おかしいとは思いませんでしたか?
本能寺の変、この歴史的大事件で死ぬはずだった織田信長を助けたのは、他でもないアキレウスの母であるテティスです。
客観的に見れば、歴史を真におかしくしているのは彼女だと思いますけどね。
まぁかといって私が正義の味方かどうかなんて定かではありません。
要するに、人間なんて自分の好きか嫌いかで善悪を決めるんですよね。
切り捨てられた方はどんな気持ちなんでしょうね、光が無いまま忘れ去られて、光の世界を闇の中で指をくわえて見てるだけ。
誰もかわいそうとも、何にも言ってくれない。
そんな状況から頑張って抜け出した私の努力って、立派な美談だと思いませんか?
どう考えるかはあなた次第ですけど、その選択が最後どうなるか、私は保証しませんから。
ではさようなら、私を切り捨てた読者たち。




