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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第一章 憤怒の黒炎
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救国の聖女

現代で言うところの、午前11時。がやがや五月蠅い街を、信長とアメリアは歩いていた。


二人は道行く人々を避けながら街を進み、信長は抱えている何かを頬張りながら、満面の笑みで隣のアメリアに言う。


「やっぱうまいのぅ~金平糖! やはり本場は違うなぁお主もどうだ?」


「いただきます、ちょうど何も食べていなかったので」


差し出した金平糖を人差し指と親指でつまみ、口に運んだ。


二人は今、ナポレオンに頼まれて人を探している。


……なのだが。


「かれこれ半時程探しておるが、何処にもおらんのう」


ボリボリ金平糖を食しながら、信長は呑気そうにあくびをする。


アメリアはナポレオンから貰った紙を取り出し、見る。


「確かこれにあの人の特徴が……」


何かを言いかけ、アメリアは立ち止った。


「ん?どうした?」


信長が金平糖を抱えながら、後ろを向いた。

だがアメリアは反応することなく、茫然と紙を見つめているだけだった。


首を傾げた信長は、アメリアの後ろから紙を見た。

だが、そこに広がるのは地獄だった。


「……何これ、タコ?」

「……イカじゃないでしょうか、この変な長いのは」


青ざめた顔で二人は紙を見つめる。

余りにもキモすぎるそれは、とても人とは思えない、顔らしき場所についているのが鼻なのか目なのかもわからない。


とりあえず信長はアメリアから悪夢の紙を奪い取り、ぐしゃぐしゃに丸めてそこら辺に投げ捨てた。


そして優しい顔でアメリアの肩を叩き。


「今度あいつ殴ろう」


と言った。


アメリアはそれを全力で頷き、今ここにクソ野郎をぶん殴るという誓いが固く結ばれた。


~その頃~


「ぶぇっくし!」


某クソ野郎が大きなくしゃみをしていた。






そんなこんなで二人は一旦、ナポレオンがいる一軒家に戻ることにした。

歩きながら、二人はいろいろなことを話した。


「ほーう、お主は儂より後に生まれたのか~」


「はい、ナポレオンや今探している女性は、あなたより前に生まれました」


へー、世界は広いなぁと思いながら、信長は金平糖をぼりぼり食べた。


「それにしても、あのナポレオンとか言う男、儂が知らないことをなぜ知っておるのじゃ?」


「それは私も思います、私も何も知りませんでしたし」


「は? それはどういう事じゃ?」


信長が聞くと、アメリアが顎に手を添えた。


「私は気づいたらあの一軒家に寝かされていて、ナポレオンさんに説明を受けて今ここに居るんです」


「……」


少し、嫌な予感がする。


「あの人、あまり信用しない方がいいかもしれません」


「……ああ、元からそのつもりじゃ」


信長はそう言って、アメリアの方を見る。


「ところで、お主は何を願ってここに来たんじゃ?」


儂は金平糖~、と、満足そうに言う信長を見て、アメリアは下を向く。


「……前に、私は空を飛んだってこと言いましたよね」

「ん?あーあれか、そんなことあったなぁ」


儂も飛んでみたいなー、と、片手を羽のようにバタバタする信長を、アメリアは横目で見ながら言う。


「良いことなんて、ありませんよ」


歩きながら、アメリアは言う。


「私は、空を飛んで、大地に帰ることなく死にました」


うつむき、そのままアメリアは言う。


「私の願いは、あなたが前に言った正しい死に方で死ぬことです」


「……」


何も答えないまま、信長はアメリアの話を聞く。


「私はちゃんと生きて、結婚して、子供を作って、老衰で死にたいんです」


切実な願いだった。


とても少女の物とは思えない願い、それを、アメリアは口にした。

だが、信長は。


「そうかい」


そう言って、金平糖を一口齧っただけだった。


興味がなさそうに、聞き流すように。

気を遣わせてしまったのか、アメリアは少ししょんぼりして歩き始めた。


~そんなこんなで一軒家に着いたお二人~


「帰ったぞー、お前この絵はさすがに無いだろ…って誰じゃお前!?」


信長がドアを開けると、そこにはナポレオンの頭をぐりぐり踏んづけている女がいた。


白い長い髪にに白い肌、目は左が茶色で右が灰色。

動きやすそうな白いTシャツには「仏蘭西」とでっかく書いてあり、青いデニムを履き、白い鎧で覆われた片手には宝石のような剣があった。


女は剣をくるくると回しながら、信長に言う。


「何?あんたこのクソ野郎のお友達か何か?」


美しい見た目からは想像もできないような口調と表情に、信長は渾身のツッコミを入れた。


「クソ野郎は合っているがお友達ではない!」


「そうです、次そんなこと言ったらぶっ〇します」


意外と凶暴なセリフを吐いたアメリアに少し動揺しながら、信長は背中の刀を抜く。


チャキ、と、刀を女に向ける。


「今すぐその男を離せ、さもなければ、この愛刀の錆にしてくれようぞ」


冷淡な言葉で刀を構え、女の対応を伺う。


「へぇー、ってことはあんたが信長?馬鹿みたいな顔してるわねぇ」


「……死にたいようだな」


信長の眉間に血管が浮き出たのと同時に、女が剣を握る。

だが。


「……すてーいすてい、ちょっと待ってくれないかなおふた方」


女に踏んづけられているナポレオンが、床を叩きながら言う。


「そのレディは味方だよー、ノブもジャンヌも剣を収めてよー」


「よしジャンヌとやら、そいつの首を切るがいい、というか切ってくれ」


「おっし」


「イエーイやれやれー」


ツッコみ役が不在のため、ナポレオンは自力で打ち首から脱出した。


獲物を逃がした女は、舌打ちをして呟く。


「逃げんなよクズ……」


「ひどいよひどいよ」


まあいいか、と、舌打ちしまくる信長とアメリアをスルーしながら、女は剣を鞘に納めた。


ナポレオンは荒い息を吐きながら、女に提案する。


「自己紹介でもしたら? あの二人君のこと探してくれてたんだよ?」


「知らない」


そう言って、女はベッドがある部屋のドアを開け、さっさと出て入ってしまった。

空気が重くなったのに耐えられなかったのか、ナポレオンはとりあえず。


「おかえり!」


と一言。


信長はイライラしながら刀を鞘に納め、女が行った方向を指さす。


「あのクソ失礼なガキは何だ、これならアメリアの方が可愛いぞ?」


「シャラップ」


どすっ!、と、強烈な蹴りが信長の腰に刺さり、信長が飛びあがる。


「何すんじゃこの阿呆!」


「私は元から可愛いです、見てくださいこの小顔を」


「お前意外と我が強いんじゃな……」


意外な事実に気づく信長に、ナポレオンは割り込んで言う。


「彼女の名前はジャンヌ・ダルク、かつてフランスで「救国の聖女」と言われた伝説的女性さ、実力ならノブと同じだと僕は思うよ?」


とりあえずナポレオンをぎったんぎったんにした後、信長はソファーに座った。


はあ、とため息をついて外を見る。


「もうこんな時間か…早いのう……」


こうやって人は年を取っていくんじゃぞー、と、ちょっと拗ね気味のアメリアに言う。


とりあえずソファーに横になり、信長は寝ることにした。


「用があったら起こせ、儂は……寝る」

すやぁっ、と、夢の世界へ信長は旅立った。

ちなみに、これは余談なのだが。


夢の中で信長は、ボッコボコにされたナポレオンと自分は可愛いと言い続けてくるアメリアに追われる夢を見たんだとか。





 


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[気になる点] 「はい、ナポレオンや今探している女性も、あなたより後に生まれました」 ジャンヌダルクは15世紀なので、信長より前です
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