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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第一章 憤怒の黒炎
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後悔なんて当たり前

「……世界?」


ナポレオンの奇天烈な回答に、信長は眉をひそめた。


そう、世界。


自分が住んでた国も、このポルトガルも、全ての異国も。


この星全体を救うことだって意味する。


信長が何かを言う前に、むにむにほっぺを触られているアメリアが答えた。


「ナポレオン、もう少し分かりやすく言ってください、信長公はバカなんですよ?」


「あ、失敬失敬、じゃあもう少し分かりやすく……」


「おいお主ら儂がバカだということで話を進めないでくれ」


ほっぺを餅のように引っ張りながら、信長はナポレオンを睨んだ。

だがもう睨みに慣れたのか、くすくす笑いながらナポレオンは話を続けた。


「世界を救うと言っても、そこまで難しいことじゃないさ」


ポケットのハンカチを取り出し、目元の涙をふく。


「まあなんだろうね、信長公、君は絶対に勝てないような戦をしたことがあっただろう」


信長はそれを聞き、少しだけ間を置いて。


「……桶狭間の戦い、今川義元との戦いか」


はあ、と、ため息をついた信長を見て、ナポレオンは人差し指を出す。


「世界を救うというのはね、君のその長篠の戦いのような大戦や、はるか昔の戦争とかを、正しい歴史の道に戻すことさ」


パチン、と、指を鳴らすナポレオン。


しーん、と、静まり返る信長とアメリア。


「……正しい、歴史?」


「そう、正しい歴史、ここじゃないどこかにあるはずの、狂うはずのない歴史」


アメリアは黙っていた。


下を向き、両手を強く握っていた。


「正しく人が死に、正しく人が人を殺し、正しく人が人と交わり、それを繰り返す歴史さ」


淡々と話を続けるナポレオンの声を聞く度、アメリアがうずくまる。


「おい、坊主」


それを見た信長はアメリアの頭に手を、ポン、と置き。


「正しい歴史、正しい死に方、とか言ったな」


優しく頭を撫でながら、信長は言う。


「確かに、そんなものがあるかもしれない、儂らがいる世界が間違いかもしれない、お主のバカの一つ覚えのような戯言が、一人のおなごを傷つける言葉が真実かもしれない」


だがな、そう言って信長は背中の刀を抜き、切っ先をナポレオンの首元に突き付ける。


「正しいか正しくないかを決めるのは、お前じゃない」


他人の死を正当化するな、そう言って信長は刀を背中に収めた。


「ついでに言っておくが、儂はあの場所で焼き死んでも、ただ一つのことを除いては後悔していない」


そう言って、信長はソファーにどすっと座り込んだ。


しーん、と、沈黙が続く。


「………あの」


アメリアが下を向いたまま、手を挙げた。


信長は顎に手を突き、そちらを見る。


「何じゃ?、儂変なこと言ったか?」


ふてぶてしい感じで首をかしげる信長に、間を置いてからアメリアは問うた。


「……後悔して死なないためには、どうすればいいですか…?」


ぎゅうっ、と、拳を握るアメリア。


信長はそれを見て、ビックリした様子で言った。


「……何言ってんだ、お主」


「…え?」


信長はソファーから立ちあ上がり、アメリアの目の前に座り込む。


「死ぬとき後悔しないなんて、よっっぽど自由に生きた人間じゃないとできない事じゃ、何をそんな贅沢なこと言うておるのじゃ?」


アメリアは顔を上げ、信長を見る。


泣いていた。


顔がくしゃくしゃになることはなく、ただ流れるように涙が落ちていた。


「でも、あなたは…後悔が無いって……」


「お主バカか?」


泣いているアメリアのおでこにデコピンをする。

両手でおでこを抑えるアメリアに、一片の躊躇も無しに信長は言う。


「人間は貪欲なんじゃ、一回欲しいと思ったらそれが手に入るまで手を伸ばす、過去に何か後悔があるなら、どうしようもなく後悔する」


それが人間じゃろ?、と、当たり前のように言う信長。

決して、格好つけようと言ったわけではない。

ただ自然に、当然のように、箸の使い方が分からない子供に使い方を教えるかのように。

この男は、後悔を自然なことだと言った。

後悔しながら死ぬなど、当たり前、後悔しない方が幸運だと言った。


「それに、お主は儂の家臣じゃろ?」


「……?」


首を傾げるアメリアに、信長はため息をつく。


「家臣は、仕える主が死ぬまで死んではいけないのじゃぞ?、儂が死なない限りお主は死なん、というか儂がいるから死ぬわけなかろう?」


意味が分からない、アメリアは泣きながら思った。

なんで、後悔せずに死にたいと思うことで、デコピンされるのだろう。

なんで、この人の近くにいるだけで、死なないなんて保証ができるんだろう。

なんで、勝手に家臣にされているんだろう。

そして、なんで。


こんなにも、安心できるんだろう。


アメリアは涙を拭い、いつもの無表情な顔に戻る。


「やっぱりあなたはバカですね、理解ができません」


自分のこめかみを三回ほどつつき、手をくるくる回す。


「そうじゃろうな、伊達にバカバカ言われてないぞ?」


二ィっ、と、煽りに対して笑う信長を見て、アメリアは。


「……ふふっ」


つられて笑ってしまった。


泣いているのがバカバカしく思えてきた。


信長も笑う、豪快に。


「ははっ!、やはりおなごは笑うのが一番じゃ!、よしよし!」


泣いていたアメリアの顔が、晴れた空のような笑顔になる。

信長の笑顔はもっとすごく、ちょっと引くぐらいの声で笑っていた。

今の所は、平和だ。











 



 


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― 新着の感想 ―
[良い点] あれ?なんか……信長さんが、豪快なおバカキャラかと思いきや、実は懐おっきくて信念持ってる人に見えてきた!……こういう人、けっこう好き(*'ω'*) でもアメリア懐き過ぎ!(笑) [一言] …
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