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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第三章 空を飛んだ女
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天下布武の空戦

「何・・・・・・・あれ」

風で乱れる髪を片手で押さえながら、ジャンヌがそう漏らした。

先ほどまで何の異常も無かった明、その国土周辺が、突如黒い何かで覆われたのだ。

爆発的に増えるそれは、一つ一つが意志を持って生きているように見えた。

ジャンヌは信長の背中にしがみ付き直し、少し早口気味で言った。

「嫌な予感がする、何かされる前に逃げた方が・・・・・」

「それがどうした」

一言。

力だけで嵐を握り潰す、天下布武の魔王の言葉がそこに有った。

信長は神馬の手綱を乱暴に握り直し、背中の刀を抜刀した。

「儂を誰と心得る、儂は力で他をねじ伏せ天に手を伸ばした男であるぞ」

気迫に押され一瞬たじろいだジャンヌだったが、すぐに気づいた。

「まさかあんた、あの黒いのに突っ込むつもり!?」

そうはさせるか、頭に血が上ったジャンヌは信長にヘッドロックをかまし、手綱を奪おうと手を伸ばす。

だが力では男に敵うはずもなく、鳩尾に肘を入れられ、肺の空気が0になった。

咳き込むジャンヌなど目にもくれず、信長はそのまま馬を走らせた。

空から来る信長に気づいたのか、鋭い槍の形を取った黒い集合体が真正面から向かって来た。

黒を見据える信長は馬の上に立ち、刀を握り締める。

「どおおっあっァァァァ」

図太い絶叫と共に槍を回避した信長の頬に一閃、生暖かい血が滴る。

野菜の皮を向くように刃を巨大な槍の横から入れると、バチバチと火花が散った。

ジャンヌは鳩尾を抑えながらうずくまり、斬られた何かの破片を見る。

それは、虫だった。

見たことが無い種類の、黒い光を放つ虫だった。

「ぬうぅ、ぬぅうううううっ!」

これでもかと言うほどに刀を握り締め、黒い虫を両断し続ける。

飛び散る火花が手の平を焼き、頬を焼き、体全体を焼く。

一瞬、自分が死にかけた寺の事を思い出す。

一言では言い表せない何かが脳内に溢れ、どうしようもない衝動が身を包む。

「だあぁ!」

手首を返し、黒い槍の一部を削ぎ落す。

死んだのはほんの数匹、削ぎ落とされた部分の虫のほとんどはその命を保ち、集まり、小さな刃物の形を以て追いかけてきた。

狙われたのは、鳩尾にダメージを受けたジャンヌだった。

「――――――チィッ!」

勢い良く腰を捻り、信長は飛び交う黒い刃物を弾き落とす。

弧を描く太刀筋に流麗さはなく、疲労が目に見えるほど弱弱しかった。

ギィンガィン!弾かれる刃物の中の一つが、神馬の尻に突き刺さった。

「しまっーーー」

言い終わる前に神馬は勢いよく状態を上げ、暴れ馬の如く暴れ始めた。

手綱を握っていなかった信長はもちろん、動けないジャンヌは空に投げ出された。

黒い虫はそれを好機と見たのか、形を取らないまま信長に向って来た。

今襲われればひとたまりもない、足場がある状況でも数で押し負けると言うのに、足場が無い空では何もできない。

黒い虫の内一匹が先陣を切り、信長の脇腹を貫通した。

鉛玉でも撃ち込まれたような衝撃と激痛が体中を駆け巡り、向かってくる虫の一部が黒から赤色に染まる。

「うっ・・・・・うううっ!」

刀を乱暴に振るい、向かってくる虫を殴り落とす。

(内臓が傷ついていないのが幸いじゃった、だが些かきついな!)

弾き飛ばせる数にも限界があり、取りこぼした何匹化が突き刺さる。

どれもこれも致命傷ではないものの、確実に体力と精神を蝕むことには変わりなかった。

噴き出る鮮血と黒い弾丸と化した虫が視界のほとんどを埋め尽くし、青い空が視界の外に追いやられる。

もっと視野が広ければ、空を見ることができたのだろうか。

きっと自分は一つの事しか見ていなかったのだ、景色も、人も、自分の事も。

考えているうちに、とても興味深い疑問が浮かんだ。

彼女は、どうやって空を飛ぶ努力をしたのだろうか。

彼女の時代の事は知らないが、男女の差は今とさほど変わらないと自分は思う、女のみである彼女が空を飛ぶなど、周りから指を指され笑われたに違いない。

どうやってそれを乗り越えて、乗り越えた先にどんな希望を見出したのだろうか。

気になって気になって、痛みさえもどうでもよくなっていた。

どんな世界を生きたのだろう。

その世界には、どんな景色が広がっているのだろう。

「・・・・・・・暗いのぅ・・・・・・」

その言葉を最後に、信長の手から刀が滑り落ちた。

まるで何かに満足するような、安らかな表情のまま。

距離にしておよそ10メートル、控えていた大量の虫が、一つの命を絶命させるべく信長の心臓へと向かって行った。

そう言えば、人間は心臓が無くなっても10秒ほどはその生命を保てるらしい。

もしも、自分の心臓が貫かれた後、この目は空を見れるだろうか。

出来れば見たいな、そんな願いを胸に、信長が体の力を抜いた。


「信長こおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅぅぅぅうっ!」


その時だった、聞き覚えのある声が、聞いたことが無い不気味な音と共にやってきたのは。

宙に投げ出されていたはずのその身は何かの上に落ち、受け止められた。

10秒の間に奇妙なことがたくさん起きた、自分はまだ死んでいない、でも空はちゃんと見ている、横を見るとジャンヌが寝かされている。

「・・・・・・儂は、死んだのか?」

おぼろげな意識と視界に疑問を持ちながら、誰もいないはずの空に尋ねた。

すると儂の体は何か柔らかい物の上にそっと置かれ、答えが返ってくる。

「言葉を喋って息をしてるんだから生きてるんじゃない?それにしてもノブは重いね~、中年は何時の時代でも体重が重いったらありゃしない」

聞き覚えのある声と、身に覚えのある苛つく感覚がした。

何時まで経っても地面に叩きつけられない自分の体をゆっくり起こし、信長は声の主を見据える。

不思議と綺麗な茶色い髪に緑の目、青い軍服に白いズボン、白い手袋を付け、皮の長靴を履いているその男、何時も使わない腰には小さな西洋銃とレイピアを携え、その姿は余りにも見覚えがあった。

信長はその姿を見て薄く笑い、安心したような顔で言った。

「何じゃ・・・・生きていたのなら顔を出さんか、馬鹿者」

「いやぁ~それがさぁ、ね?かっこよく登場したいじゃない?ね?」

ニタニタ笑う男にはイラつきしか感じない、それが今、少しだけ懐かしくて楽しいのが癪に障る。

「あー、ミスター・ノブナガ?」

男の隣にいたもじゃもじゃの髪型の女が片手で会話を制し、起き上がった信長の肩を罪噛み、後ろから押し始めた

「感動の再会ならまず先にやらなきゃいけない女がいるんじゃないのかい?さっきから背中の圧が凄すぎて居づらいんだ・・・・・よっ!」

押された信長は手を付こうと思ったが、力が入らずそのまま顎を撃ってしまった。

「元気そうですね、ジャンヌさんとの()()()()()の『でーえーと』は、楽しかったでしょうか」

聞いたことはあるが何だか聞いちゃいけないような声が耳に入り、曲がっていた背筋が引っ張られるように伸ばされる。

信長は身を縮ませ、背を向けながらレバーを握る少女を見据える。

「で・・・・・・・『でぇと』が何かは知らんが・・・・・・やましいことはしてないでs

「問題はそこじゃありませんなんで私を置いて行ったか聞いてるんですよ信長公(このクソ野郎)

強めの口調と共に少女は椅子のひじ掛けを殴った、相当イラついているのか、華奢な手に血管が浮き上がっていた。

殴ったひじ掛けから手を離し、少女はレバーを掴む。

信長は一安心し、安堵の息を漏らす。

「・・・・・・・・楽しそうじゃな、久しぶりの空はどうじゃ?」

「最悪ですよ、今でも足ブルブルに震えて怖くて仕方ないんですから」

ため息をついた少女はレバーをいじりながら、小さく漏らした。

「・・・・・・まぁ、でも」

クスリと笑って、一瞬だけ後ろを向く。

その一時は閃光のように、光を放ち消えゆく火のように。


「やっぱり、人間って欲深いですね、恐怖以上に、楽しさが勝っちゃってるんですから」


けらけらと笑う彼女のその笑顔は、何かが吹っ切れたように見えた。

何度か笑うことはあったが、それはどこかぎこちなく、作り笑いのようなところもあった。

でも、今回はそれが無かった。

変に大人びた黒い感情が消えうせ、子供らしい光が見えた。

(やはり、子供は笑いが一番じゃ)

少し頷いた信長は立ち上がり、男の方を見る。

男は無言で信長の刀を渡し、頷く。

「まぁ、色々あったが結果オーライ、全員揃ったところで・・・・・・・」

ブゥン!勢いよく刀を振り下ろし、虫の大軍に宣戦布告する。


「全軍!出撃!」


信長の声に呼応するように、飛行機に乗る全員の雄叫びが響いた。

アメリアはそれを見て笑い、レバーの先端についているカバーを親指で弾き、赤いボタンを押す。

すると飛行機の下部分から二つの穴が開き、そこから巨大な機関銃が現れた。

其処から無数の弾丸が放たれ、黒い蛍の群れを駆逐していく。


その姿は、まさしく天下布武の名を冠する大戦であった。





あとがき

書きたかったシーンが書けて大満足、作者です。

もう何でしょうね、やっぱ書くの楽しいw

では、今回の偉人の一言は織田信長さんに言ってもらいましょう。


是非に及ばず!


この人のいる時代に生まれなくてよかった

頑張る。

今回の字数 3680


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