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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第三章 空を飛んだ女
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言い訳

自らの白い髪が、風を受けて揺れる。

かつて振った旗のことが頭をよぎり、それがとても自分の、苦くも美しい思い出が蘇る。

「直感じゃが、明まであと半時も掛からん、眠くなるのも分かるが、少しは気を引き締めい」

自分が寄りかかっている背中から、感情の無い声が聞こえてきた。

分かっている、気を引き締めねばならないことなど、毎日のように戦いに明け暮れたジャンヌ・ダルクが一番知っている。

「分かってる、言われなくてもね」

緩んでいた手に力を籠め、目の前の背中にしがみ付く。

此処で落下しては元も子もない、命にしっかりとしがみ付き、自分がこれからすることを思考する。

ああ、またか。

また私は、旗を振らなければいけないのか。

人が死ぬのを、黙って見届けなければいけないのか。

ぎしぎしと歯茎が軋むほど歯噛みをし、私は深呼吸をする。

そうだ、気を引き締めなければいけない。

相手は明だ、自分がかつて戦ったイングランドとは比べ物にならない程の兵力を持つ。

「怖いか、娘」

気が付けば手が震えていた。

力が籠ったせいか、閉めつけた背中の主が苦しそうな声を上げた。

慌てて力を抜き、心配になるほど激しい深呼吸を繰り返す。

変に肺に空気が入ったため、結果むせた。

「げほっ、げほっ」

横を向いて空気を押し出す私を、背を向けたままの男は嘲笑った。

「お主も置いてきた方が良かったのかもしれぬな」

すんでの所で喉笛に飛び掛かるところだった。

侮辱だ、侮辱に重ねられた侮辱だ、乾いた絵の具の上にまた違う色の絵具を重ねるように、ほとぼりが冷めた侮辱にまた侮辱を重ねる、怒りの傷口に塩を塗った。

此処が大地から離れた空の上でなければ、私は容赦なく腰の剣を抜いただろう。

騎士でも武士でも王族でもない、ただの村娘でも、守るべき誇りと守りたい誰かの尊厳ぐらいはあるのだ。

「・・・・・・・私にはいいけど、あの子にはきちんと謝れ」

「儂は神代の天下を取る男ぞ、何を以て餓鬼なぞに首を垂れる必要がある」

私は呼吸を整えながら、怒りが覚めていくのを感じていた。

怒りより悲しみが、殺意より同情が。

この男の誇りはもはや誇りにあらず呪いで、呪いはこの男の人としての人生を縛り、第六天魔王とまで呼ばれるまで人々に恐怖された。

誰かに優しくしようと思ったこともあっただろう。

でも上手くいかず、それが恥ずかしくてまた喚いて。

誰かに話を聞いてもらいたかっただろう。

でも自分を見れば人は恐怖におびえ、血が繋がった家族ですら震えあがった。

哀しい男、そう表現するには、余りにも安易で物哀しい。

私の中でのこの男のイメージは良く笑うお調子者だったが、きっと違うのだろう。

いや、きっとあれが本当の彼で、第六天魔王としての彼こそが、自分を偽っていた、偽るしかなかった彼の姿だったのだ。

「・・・・・・・・・・」

だから、きっと楽しかったのだろう。

あの少女と話すのが、ありのままの自分のままふるまえるあの時間が。

利益も何もない、対等な関係でのケンカが。

「儂は、信長じゃ」

低く小さい声で、そう呟くのが聞こえた。

ぶつぶつと、念仏のような言霊を発する彼を見て、私はようやく理解した。

彼が言ったことは、侮辱なんかじゃなかった。 


自分の選択が正しかったことを願う馬鹿の、ただの言い訳だった。







あとがき

久ぶりぶりざえもん、作者です。

もはやこれまで、書く力残ってないよ。


では、今回の偉人の一言はコロンブスさんに言ってもらいましょう。


誰かが過去に発見したものを発見するのは簡単さ。


自分だけの何かを見つけてね。

なんなんだーなんだなんだー。

今回の字数 1450


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