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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第一章 憤怒の黒炎
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呼ばれた理由

扉の向こうの部屋では、二人の男女がソファーに腰掛けていた。


一人は自らの家臣(信長が決めつけているだけ)であるアメリア。

相変わらず無表情なその顔、喜怒哀楽があるのだろうかとときどき思う。


もう一人の男は茶色いオールバックに緑の目、青い軍服に白いズボン、白い手袋を付け、皮の長靴を履いていて、腰には変な形の剣と同じく変な形の銃っぽいのがあった。


……さっきから何か見たことのあるようなものをぼりぼりと食べている、暴飲暴食が大好きな信長でもドン引きするほどの勢いで。


あんぐりと顎を開けながら男をジト見していると、男がこちらに気づいた。


食べていた何かを飲み込み、立ち上がる。


そのまま信長の目の前に立ち、片手を差し出す。


信長は思わず背中に背負っている刀を抜きかけたが、ソファーに腰かけるアメリアが片手で静止した。


「その人は敵ではありません、殺気を収めてください」


チャキ、と、刀身が鞘から小指一本分ほど現れたところで、信長は手を止めた。


それを見た男は手を引っ込め、その手を自分の胸に置いた。


「お会いできてうれしいよ、ミスター信長」


ニコリと笑ったその男は、ゆっくりと頭を下げた。


「僕はナポレオン・ボナバルト、君の国で言うところの天下統一をした男さ」


ナポレオン、それはフランス革命期の軍人、革命家と呼ばれた偉人だ。

フランス革命後の混乱を収め、軍事独裁政権を行ったフランス皇帝でもある。

広大な土地を支配し、武力によって事を成したという意味でなら、確かに信長と同じ点がいくつもある。


「そろそろ君も気になるころだろう?何故自分がここに居るのか」


ソファーに座った信長を見ながら、ナポレオンは言う。


信長は黙りこくり、ナポレオンを睨んでいる。


「気になるだろうね、気にならないはずがない」


ニヤニヤ笑うナポレオンを警戒しながら、信長は口を動かす。


「……儂の刀がお主の首を切る前に、お主が知ってることはすべて話せ」


「そのつもりさ、そのために僕はアメリアに君を頼んだのさ」


アメリア?と、自分の家臣の名前に反応した信長は、とっさに彼女の方を見る。


無表情な彼女は、こっちの話など興味がなさそうにコーヒーを飲んでいる。


だが、信長はいつものように呆れることはなく、代わりにナポレオンを睨んだ。


「……何故、おなごにこのような危険なことをさせた?、お主が自分で来れば良いではないか」


背中の刀に手を伸ばし、信長は静かな目を向ける。


自分の家臣に向けた目ではなく、冷酷な魔王としての目で。


「彼女が頼んできたんだよ、自分が行きたいって」


ちょいちょい、と、人差し指で文字通りのことをするナポレオンの言葉に、思わずもう一度アメリアを見る。


強烈な視線を感じたアメリアは、片目を開けて答えた。


「かの有名な「尾張の大うつけ」が、どれほどの人間かを見ておきたかったんです、別に特別な意味はありません」


そしてそのままコーヒーを啜り、お行儀よく膝に手を置いた。


信長はそれを見て、きょとんとした顔をした。


「……そうか」


そしてその表情はすぐに満面の笑みに変わり、信長はアメリアの座っているソファーの後ろに回り込み、頭をくしゃくしゃに撫で回した。


「そうか……そうかそうか!、まだ家臣になってから半時も経っていないというのにお主は忠臣じゃなぁ!よしよし」


まるで犬を撫でるかのようにアメリアの頭を撫でる信長を、ご本人は無表情のまま。


「頭を撫でられるのは久しぶりで新鮮です、もっと撫でてください」


「おお?これは褒美を増やせということか?愛いのう~」


なんか誰もツッコんでくれないこの状況に、ナポレオンは追い打ちの如くほっぺを膨らませた。


「殿~、僕も撫でてほしーな~!」


「ヤダ」


「うわーん、じゃあ僕がアメリアを撫でるのは?」


「嫌です、絶対嫌です」


「ぴえん」


現代用語を使いこなしまくるナポレオンは、とりあえず話を元に戻すことにした。


「……何の話だっけ…あーそうそう、なんで君がここに来たか、だね」


信長はアメリアを愛でに愛でまくりながらナポレオンの方を向く。


ナポレオンは何故かドヤ顔を決め、話を続ける。


「なあノブ、君は神を信じるかい?」


「次ノブって言ったら打ち首じゃからな」


「同感です」


何故かアメリアも信長と頷き、二人の視線がナポレオンを一網打尽にする。


「……真実かどうかは分からないけど、君は神によってえらばれ此処に来た、僕たちも同じさ」


ナポレオンはまた何かを口に運び、食べる。


「僕たちは死ぬ寸前、願いや後悔を激しく思考し、神と思われる声は僕たちをここに呼んだ、そう、僕たち四人を」


「うーむ…うつけには訳が分からん……ってんん?四人?ここには儂とお前とアメリア、三人しかおらんぞ?」


信長がアメリアのほっぺをむにむにしながら、片手でナポレオンにツッコむ。


「あ、ごめんごめん、彼女は今出かけてるんだった」


てへ☆、と、舌を出し片目を閉じたナポレオン、キモすぎる。


もうこいつ切ろうかな、そんなことを思考しながら信長は聞く。


「んで、結局何故儂はここに呼ばれた、さっさと言わんかじれったい」


「そうです、早く言えいこんにゃろー」


「君たち息ぴったりだね……」


ちょっとうらやましいと思うナポレオン、まあこんな性格だからしゃーない。


だがそこは大人なナポレオン、気持ちを切り替えて信長の問いに答える。


「僕たちが何故、ここに呼ばれたかって?」


にやりと笑い、ナポレオンは目を閉じる。


そして菓子を口に入れ、天を指さし、こう言った。



「そんなの世界を救うために決まってるじゃないか、カッコいいだろう?」










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