その手があった
「それで、結局どうするんですか?」
金平糖をむしゃむしゃ頬張るアメリアが、目元を抑えながら撃沈する信長に尋ねる。
かっこつけて金打したのはいいものの、それをやる方法が全く思いつかないのである。
というか考え続けてかれこれ三時間、うつけと言われた信長が此処まで頭を使っただけでも僥倖だ。
「お主も考えんか!」
良い案が一つも出てこない苛立ちをぶつけるかのように、信長はアメリアの手の金平糖を奪って食べた。
大人気ない信長の行動に頬を膨らませながら、アメリアは膨らませた自分のほっぺを突く。
「私はただの女の子です、人を殺すような事を考えたくはありません」
「儂を助けた時に思いっきり拳銃撃ってたけどな、思いっきり後頭部にバーンって」
意表を突かれたアメリアに返す言葉は無く、代わりに両手でポカポカという肉弾的攻撃が繰り出された。
ポカポカやられながらもなんだか楽しそうな信長(ロリコンの可能性あり)を、コーヒーを啜るジャンヌが呟く。
「まあ……予想はしてたけどね、ははは……」
笑い声と言うよりは苦笑い、完全に呆れている。
「ねぇ、じゃれてるとこ悪いけど本当にどうするの?」
「ん?どうするって何をですか?」
信長の長い髭を引っ張るアメリアが、くるりと首を回す。
「へ? 何ってそりゃ、あのバカの仇を討つんでしょ?」
当然の如くドヤ顔でジャンヌはアメリアのおでこをつつく、するとアメリアは「ああ」、と言って。
「忘れてました、すっかり」
水平にした手の平に握り拳を落とし、口をぽかんと開けて言った。
もう少しで口から何か黒いものが出る所だった、今にもはじけ飛びそうな悪意を抑えながら、ジャンヌは困惑で目をぱちぱちさせた。
「それで信長公、作戦は思いつきましたか?」
「だーかーら! 何一つ思いついてないと言うとるじゃろうが!」
椅子の上で頭を抱えながら信長は叫ぶ、どうやら本当に何も思いつかないようだ。
唸りながら自分の膝を叩いているその様子は、アメリアには仕事が行き詰っている父に見えた。
(お父さん、元気にしてるかな)
また一つ、自分の夢である空に後悔が増えてしまったアメリア、過ぎた事なのにいつまで心に引っかかる。
「だぁっ! ダメじゃ! 何も思いつかん! お手上げじゃ!」
背もたれに全体重をかけた信長は、両手で顔面を覆いながら何か呪文のような文句を呟き始める。
「あーもうだめじゃ、終わりじゃ、寝よう」
「ちょ」
ぎょっとしたアメリアは信長の肩を掴み、揺さぶる。
「あなたが頼りなんですよ信長公!? あなたが考えるのを止めたら作戦を立てる人がいなくなります!」
「だぁ五月蠅い!ないものは無い!お主もなんじゃ空を飛んだぐらいで偉そうにしおっ……て……」
目を見開いた信長に驚く暇もなく、アメリアは肩を掴み返される。
「急に何ですか⁉」
「そうじゃ、儂らにはまだその手があったじゃないか!」
まるで取り付かれたかのように肩を揺さぶる信長の豹変ぶりに恐怖を感じ、アメリアは信長を突き飛ばした。
「急に何なんですか本当に!」
「だから、作戦が決まったんじゃよ!」
え? 豆鉄砲でも食らったような表情のアメリアに、信長は大きな声で言う。
「おーいバリオス!いつまでも寝てないでこっちにこぉい!」
ばひひっぃん! と力強い馬の鳴き声と同時に、壁にぶち抜かれた穴から神馬バリオスが入ってきた。
ジャンヌは始め、それが何を意味するか分からなかったが、次の瞬間すぐに理解した。
「ちょっと待って、あんた」
「そのまさかじゃ、こいつで空を飛ぶ!」
バリオスの毛並みを撫でながら、信長はそう言った。
「でも……作戦はどうするんですか⁉ 戦うにも相手は大軍、3対∞のようなものですよ!」
「そこは任せい、とびっきりの策がある!」
信長は胸を叩き、アメリアの方を見る。
「手綱はお前が握れ」
「は?」
唐突の言葉に空気が一瞬で凍り付く。
「ちょっと待ってください、もう一度お願いします」
「手綱を引いていたアイツいないし、第一儂、空飛んだことないし」
口笛を吹くようにバリオスの毛を触る信長。
どうやら、拒否権はなさそうだった。




