抱いてねぇし!
目を開けると、自分はベッドに寝かされていた。
これまで寝たことが無いぐらいふかふかで、温かいベッドに。
ぼんやりとする思考の中、信長は片手で顔を抑える。
夢だったことに安心すると同時に、甘い自分を憎む。
(うつけ者じゃな、本当に)
もう少し寝るか、と、ふて寝をしようと信長は毛布に身を包み、寝返りを打つ。
そこには、下着しか付けていないアメリアが毛布にくるまっていた。
信長はまず目をこする。
どうせこれも夢だろう、そう思いながら念入りに。
しかし目を開けてもアメリアは気持ちよさそうに寝ており、何ら変化はない。
とりあえずこれは現実だということを理解した信長、だったらやることは一つ。
がばあっ! と、勢い良く毛布を蹴飛ばし、自分が下着を履いていることを確認する。
もしこれでヤッちゃっていたのなら、信長は間違いなくロリコン扱いされるだろう。
いや、別にヤった記憶はない、だがこれでも信長は位が高い人間だ、寝ながら女を抱いたことが無い訳でもないのだ。
自分の服装を念入りに確認し、ベッドが濡れていないことも確認する。
だが特にアヤシイような物はなく、信長はほっと一息ついた。
「ふぃぃ……儂が清楚な紳士でよかった……」
ツッコむのがめんどくさいのでノーコメントとしておくが、これでも妻と娘がいるくせに抱きまくったうつけ者が言うことだということをお忘れなく、浮気ダメ絶対。
そんなほっとしている信長の騒ぎように、問題の下着少女はむくりと起き上がった。
「おはようございます、先程は腰にドロップキックしてしまい、申し訳ございませんでした」
「ん? ああそういえばそんなことがあったような無かったような……」
信長は首を捻るが、うまく思い出せない。
ただ腰のあたりがぎっくり逝っちゃってるのが気になるが、果たしてこの華奢な少女がやったとは思えない。
というか、信長にはこんな無かったかもしれない事より重要なことがある。
小さい声で、信長は尋ねる。
「儂、お主に何もしてないよね?」
「? 何のことでしょうか」
小首を傾げるアメリアにとりあえず毛布をかぶせてから、信長は小さな声で言う。
「………変なことしてないよね?」
「変なことですか?そうですね、たくさんやられました」
はあ⁉ と、信長はアメリアの肩を掴む。
「待て待て!、儂はお主に何もしておらん!」
「例を挙げるとすれば……抱きかかえられましたかね……」
ちーん、と、そんな効果音が付きそうな顔の信長は、がっくりと肩を落とした。
「……儂、こんな小さなおなごまで……」
「何のことかはわかりませんが、気持ちよかったので私は気にしていません」
「ノォォォォォォオォォォォォォォォッッッヅヅ!!」
頭を両手で抱え、信長はベッドの上に倒れる。
アメリアは心底不思議そうな表情を浮かべながら、ベッドの下の服を着始めた。
「すごく頼もしかったです、特に腕が」
「そうじゃろうな~」
やる気0の返事をする。
「振動がほとんどありませんでした、あんなに乗り心地がいい物なんですね」
「おー……う」
「でも米俵みたいに抱えて走るのは減点ですね」
「ふぇー……待って今なんて?」
首だけ起き上がらせ、信長はアメリアを見る、うなじの筋肉が痛い。
アメリアはパーカーに袖を通し、ゴーグルを首にかけながら答える。
「なんて……と言われましても、米俵のように抱えて走るのはナンセンスだと言いました」
……あー、と、なんとなくソレを思い出した信長は、後頭部をベッドに付けた。
「……抱いた訳じゃ、なかったのか……」
「? 何か言いましたか?」
「何にも、これっぽっちも、全然、うん」
勢いよく起き上がり、信長は手をぶんぶん横に振る。
アメリアは少しだけ目を細めた後、何事も無かったようにベッドから起き上がった。
「私は向こうで待っています、腰の痛みが引いたら来てください」
そう言ってアメリアが外に出てすぐ、顔だけ部屋に突っ込んでこう言ってきた。
「それから、私の格好については他言無用でお願いします」
少し顔が赤くなっていたアメリアは、恥ずかしそうにドアを勢いよく閉めた。
静まり返った部屋の中で、信長は自分の腰をさする。
痛みは引いている、別に寝る必要はない。
とりあえずベッドから起き上がり、ドアノブに手を触れる。
そして。
(あいつ、胸小っちゃかったな……)
がっつり見てんじゃねぇよ尾張の大助平ェ。