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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第二章 いざ明へ
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信長、落ちる

 信長は、珍しく黙ってそれを見ていた。

 雄大な自然、所々見える建物。


 中国、明を。


 自分達が、これから戦いに行く場所に。


「……すごいな……」

 

思わずそう漏らし、信長はただただ感動していた。

 自分がいた世界とはまるで違う、未知の領域。

 

それを見た気がして、久しぶりに子供のようにワクワクしていた。

 戦車から身を乗り出し、真下を見る。

 

乗っている戦車から落ちてしまう、そんなことなど頭から消え去るほどに、その国は美しかった。


「あんまり顔出さない方がいいぞ~、大事な戦力なんだ、空から落ちて死にましたで済まされても困るしな」


 着陸できそうな場所を探しながら、手綱を握るアキレウスは信長に言った。

 ちなみに軽い感じに聞こえるかもしれないが、今信長達がいるのは上空600メートル弱、東京スカイツリーより少し低いぐらいの高さだ。


 当然落ちれば死ぬ、それはたとえ疑似的な不死の力を持ったアキレウスや、馬鹿みたいに体が頑丈な信長だろうが例外ではない。


 アキレウスの忠告を聞いた信長は、しぶしぶ頭を引っ込めた。

 はぁ、と、ため息をつく信長だったが、そこであることに気づいた。


「ひっく……ひっく…」

 

アメリアが震えながらうずくまっていた。

 目元をよく見てみると肌が荒れていて、長い時間泣きっぱなしだったのが分かる。


「…えっと…な、お主は空を飛んだのじゃろう? 久しぶりに空を飛んで楽しくはないのか?」


 頭をぼりぼりと搔きながら、信長は小学生のような慰め方をした。

 まあこれは常人なら普通の感性だ、泣いている人がいたら心配になる、困っている人がいたら助ける。

 だがしかし、此処で人生経験があなた方読者よりゴマ粒ほど多い私(作者)が言わせていただく。

 そう、世の中にはデリカシーという言葉があるのだっ! 


「うるさい! 怖いものは怖いんです!」


 とっさに首から掛けているポーチからガラクタを取り出し、アメリアはそれを次々と信長にぶん投げた。


「ドわあっ⁉ 危ない! 止めろ!」


 突然ぶん投げられる生卵やらトランプやら、それらを空の上で華麗にかわす。


「こんなに可愛い女の子が泣いているんですから手ぐらい繋いでくれてもいいじゃないですかぁっ!」


「分かった! 繋いで! やるから! 投げるのを止めろおっ!」


 もう誰か止めてやれよ、そう言いたげに神馬クサントスが後ろを向き、手綱を握るアキレウスに鳴いた。

 それと同時に神馬バリオスもアキレウスの方を向き、何とも言えないキラキラした目で何かを訴えた、無言で。

 アキレウスは一旦後ろを横目で見た後、ため息をついた。


「おーい、イチャイチャするのはそろそろやm


 アキレウスが何かを言おうとした時、後ろから石が飛んできた。

 がぁん! と、当たった石は見事にアキレウスの眉間にぶち当たり、そのまま地へと落ちて行った。


「あ、あれ儂の記念石じゃ」

「何の記念なんですかあっ!」


 泣きながらアメリアが信長をポカポカ殴る。

 平和だ、なんか平和だ。


「………おい、テメェら」


 だが。

 この赤髪の少女は、怒っていた。

 少女は置いてあった槍を手に取り、くるくると回した。

 そして。


「スカイダイビングの時間だ! 行き先!? んなもん地獄に決まってんだろぉっ!」


 バキィっ! と、二頭の神馬が引く橇が、振り下ろされた白く堅牢な槍によって真っ二つになった。


「バヒィイン!?」(特別意訳・姐さん!?)

「バァアアルルル!」(特別意訳・落ち着け!)


 二頭の神馬が暴れまくり、戦車は二つに分けられた。

 そのままバランスを失った橇は落ちていく。

 悲鳴と共に。

 明へ、落ちていく。










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