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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第二章 いざ明へ
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明にて帝は笑う

帝は玉座に座っていた。


光り輝く宮殿を満足そうに眺め、聞こえてくる民の声を楽しそうに聞いていた。

カツ、カツ、と、そこに民の声と一緒に足音が聞こえる。


「ご機嫌麗しゅう陛下、貴方の刃此処に参上致しました」


足音の主の老人は玉座の目の前に座り込み、頭を垂れた。

帝は跪く老人を見て、淡々と告げた。


「よく来た戚継光、お前を此処に呼んだのは他でもない、わが盟友明智光秀の怨敵であるうつけ者が、我が国に来たからだ」


「……! 恐れ多くも陛下、我が国の国境には武装した銃兵共がおります、正面から突破することはまず不可能、空でも飛ばなければ……」


言いかけた老人だったが、何かに気づいた。

ゆっくり頭を上げると、そこには笑う帝がいた。


「それがな、うつけ者は空を飛んできているのだよ、不思議だろう?」


思わず、老人は言葉を失った。

うつけ者共が空を飛んでやってきたことにではなく、この帝が笑ったことにだ。

本来、帝は感情を表に出さない。


民の統率を損なわないためだ、人としての感情を持ったままでは、人の上に立つことなどできない。

この帝、万歴帝は、感情を表に出さないのが歴代の皇帝でも得意だった。

なのに、今回笑った。

老人はハッとし、再び頭を垂れようとした。


「よい、そのままで」


片手で老人の行動を制した帝に、老人は頭を再び上げた。

帝は笑ったまま、老人に言う。


「我が明の将軍戚継光に命ずる、うつけ者とその仲間、それらの首を余の元に持って来い」

「御意」


そう言って、老人はマントを翻し、立ち上がった。


「そうそう、云い忘れていたことがあったな」

「?」


老人が目だけで後ろを見ると、帝が付け加えるように言った。


「光秀が金色の美しい髪の女と話がしたいと言ったのでな、女だけ生け捕りだ、なぁに、手足が無くても口があればいいだろう」


「……御意」


少し間を開け、頭を少し下げた後老人は宮殿から出て入った。

帝はそれを見届けたのち、ため息をついた。


「……ま、来ることはないと思うが、貴様の主の顔を拝んでみたいという気持ちも、無くはないな」


にやり、と、再び帝は笑う。

その笑い、狂気にあらず。

その笑い、愉悦に在り。



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