葡萄牙から明へ
ヒトは、まず地を支配した。
他の種族には無い知恵を使い、他の種族を蹂躙した。
次に、ヒトは海を支配した。
全ての源たる母の背中に乗る形で、その上を自由に渡った。
だがそんなヒトでも、天は支配できなかった。
天、それは神の住まう聖域。
地と海を支配したヒトは偉大なる種族なのだろう、だが彼らには翼が無い。
だから跳ぶこともできず、見上げ、心を震わせるだけだった。
雄大だ、偉大だ、そして何より美しい。
偉大なるヒトが頭を抱えても、至る為に何百年もの時を有した世界。
そんな世界が、とても好きだった。
いつか、その世界で生きてみたいと思った。
ほんの一時でいい、その世界で息を吸いたい。
ヒトとして形を保ち、その場で宣言したい。
私は、アメリア・イアハートは。
ちゃんと空を飛んだぞ、って。
「いぃぃぃぃいいいぃいいぃいいいやぁぁぁあああぁぁぁあああああっっっ!」
「パニィクパニィクパニィクパニィック!」
空を駆ける戦車の上で絶叫しながら、アメリアとジャンヌは互いに抱き着いた。
発狂し続ける二人の形相はモザイクを掛けなければいけないほどえげつないことになっていて、それを見たアキレウスは豪快に笑った。
「はっはっは! 気持ちいいだろ空は! 飛んだことがあるあんたなら分かるだろアメリアちゃん!」
「無理無理無理無理! 景色とかいい!、要らない! 降ろして!」
片言で喋りながら、アメリアはその場にうずくまる。
ぶるぶる震えるアメリア、それを正気に戻ったジャンヌが片言コメントで慰める。
「大丈夫! 落ちない! 馬! スゴイ!(゜∀゜)アヒャ」
「(゜∀゜)アヒャじゃないよジャンヌ! アメリアも正気に戻ってぇえええええっ!」
ぎゃああっ! と、突然強さを増した風が顔面に直撃し、真後ろに倒れてしまったナポレオン、そのまま頭を打って気絶してしまった。
「景色良いの~、ほれアメリア! 女!、そんな隅っこで震えてないでこっち来い! 滅多に見れんぞこんなの!」
「ハハッ! 滅多でも見れねぇよ! 今の技術じゃな、しっかり拝んどけぇ!」
「ヒヒーン」(特別意訳・姐さん楽しそうだな~)
「バヒィン」(特別意訳・そういう俺たちも結構楽しいんだけどな)
なんか神馬であるクサントスとバリオスも楽しそうに鳴き声を上げ、より一層スピードを上げる。
「いやぁああああああああああ」
「ぱにぃっくぅぅぅぅうううう」
同時に女子二人の声のボリュームも大きくなり、ナポレオンは何かにうなされている。
信長はそんな三人を見て、指を指して笑った。
「ぷぷぷ(笑)、お主らは弱いの~、それに比べて小娘、お主は強いの~」
「ああ? あんま舐めてるとぶっ殺すぞぅ? こちとら伊達に英雄やってねぇんだよ、まあ俺としちゃあ人の身のまま俺と渡り合ったお前の方がすごいと思うけどな」
「ブヒャアッ!?」(特別意訳・姉貴が人を褒めた!?)
「ブヒィイイン!?」(俺たちは一度も褒めたことねぇのに!?)
アキレウスの何気ない一言に反応した馬共、それを信長は凝視した。
じぃーっと、目を何回か擦り凝視する。
「ブ、ブルル」(特別意訳・な、なんだこいつ)
「ブフゥ」(特別意訳・やんのかこのヤロ)
良い年したおっさんが急接近して凝視してくるのだから、馬も警戒して鼻息を荒くしている。
それを見たアキレウスが、信長の視線に気づき、二頭の背中を撫でた。
「よしよし、お前の後ろにいるおっさんはただのバカだから気にすんな」
「ブヒャァ……」(特別意訳・oh……天国ぅ)
「ヒヒーン……」(特別意訳・やはりロリはいいなぁ……)
とりあえず気持ち悪い顔でグヘヘな二頭を、アキレウスは後ろから気迫で奮い立たせる。
「スピード落ちてんぞ革靴にされてぇのか?」
「ブヒヒーン!」(特別意訳・あーなんだか急に走りたくなってきたぞぉ!)
「ヒールルルルルウッ!」(特別意訳・頑張れ俺! 頑張れ! 馬魂を見せろ! 煩☆悩☆ 退散ぁああああああああああああああああん!)
急に甲高い鳴き声を出しながら、二頭はスピードをさらに上げた。
ため息をつくアキレウスに、信長は何気なく尋ねる。
「おい小娘、この馬はゆにこーん、とか言う世にも珍しい馬か? 角が生えていないが」
「ユニコーンじゃねぇよ、お前何処出身?」
ちょっとありえない言葉が口から出てきたので凝視してしまったが、慌ててアキレウスは前を見た。
「こいつらは母ちゃんがくれた神馬だ、右がクサントス、左がバリオスだ」
「ほうほうこっちがクサイケツと、んでこっちがバリカンか……」
「名前間違って右左間違えてるぞ~、お前よくそんなので殿様なんて出来たな」
「気合じゃ気合、それで大抵はどうにかなるんじゃ」
踏ん反り返って自信満々に言う信長、言っておくが全然自慢できることじゃないぞ、右と左を間違えているのはかなりやばいぞ。
と、信長が踏ん反り返っていると、アキレウスが、おっ、と一言。
「予想よりも早く着いたな、やっぱ馬の尻に火を付けるのが一番だな!」
「ヒヒン!?」(特別意訳・姐さん!?)
「バヒャアッ!?」(特別意訳・退職願出してやるぅ!)
とりあえずうるさい神馬二頭を黙らせ、アキレウスは見据える。
「見えたぞ、俺たちの戦場が」
見えてきたそこは広く、雄大な自然が広がっていた。
「中国、明、今んとこ世界最大の武力を誇る最強の国だ」