問い②
「俺にとって、王とは卑怯者の事を指す」
唐突に開いたその口の動きを理解するのに、私は三秒ほど時を要した。
「やるべきことを最後の最後で投げ出して、そこから前の事は全部頑張って、やるだけの事をやって、最後だけ投げ出していった卑怯者だ」
それが何を指すかは分からなかった。だが、自分が安易に想像しているよりも何倍も深い意味を持ち、うかつに踏み込んではいけない領域だという事は察せられた。
「俺はそんな王に仕える気はさらさらない、あんな島の最後に付き合うつもりもない、だから聖杯を手にした瞬間に懇願したのだ、――俺を、天に――。と」
正直言って難しかった、アーサー王伝説が有名とは言えど、自分が知っているのは主人公たるアーサー王の名とそれに仕えた円卓の騎士、その物語のカギを握る聖剣、王の墓場と言われているアヴァロンぐらいだ。
だから目の前の騎士が何をして、何を願って、どんな最期を迎えて名を遺したかなど、知る由も無かったのだ。
「……王って、何なんでしょうね」
だから、そんな他人事のようにしか言えなくて、自分の知っている限りの「王」を話した。
「さっきの質問に答えます。私を無理やり家臣だと言い張る、おバカな王様のお話で」
眉を顰めた騎士は座り込み、私も座り込み、一人の男に関する話が始まった。




