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滅びの始まり
「立派な城だな」
鼻で笑うように男は言う、答えられる者は誰も居ない。
動かなくなった衛兵を踏みつけにしながら、男は王の間へと続く回廊を血みどろにしていく。
切りかかれば死ぬ、殴っても死ぬ。一撃で、しかも本人のものではなく影から現れた黒い何かによって死んでいく。触れた途端骨になり、そのまま煙を吹きながら壊れて逝くのだ。
傷一つ付けられない、戦う事すらできない。数で勝ろうが実力で勝ろうが関係ない、圧倒的な暴力によって押しつぶされる。
敵地のど真ん中で魅せるその冷静さは、良い意味でも悪い意味でも王へと続く道を歩くに相応しかった。
歩いた後に残るのは、燃え尽きた命の残り物。燃えることはできず、ただそこに残るだけの異物。
美しかった城が次々に汚れていく、死と異物で埋め尽くされた回廊に見る影は無い。
死ぬ死ぬ、死んでいく。
滅びは、とっくに始まっていた。




