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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第二部】エピローグ
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呆れ

丸いちゃぶ台を挟み、私の手の届く所に信長公がいる。

弱弱しくため息をつき、叱られた子供のように私の様子を伺っている。

美しく伸びていた背は猫背に、きらきら輝いていた両目に光は無い。

隣にはマーリンさんもいるが、どうでもいい事である。


らしくない、らしくない、いくつもの「違い」が、私の心をどうにかしてしまうのではないか、そんな未知の恐怖を感じるほど、自分はいま不安定なのだ。


「怒らないから言ってください」


とは言うが、とても低く怒気の籠った言葉だったと思う。

こんなことしてもこの人は口を開かない、そんな事は分かりに分かり切っていたのだ。


「………」

「何で黙るんですか、私は怒らないって言いましたよね?」


自然と前屈みになった私、抑えなければいけないのは分かる、でも、怯える彼の表情には我慢が出来なかった。


「信長公、私たち仲間ですよね?私もアキレウスさんも言いたくない事を話しましたよね、何で信長公だけ言わないんですか?」


止まらないといけない、心のどこかで叫ぶ何かの口元を、今だけの激情で捻り潰す。


「あの力は何なんですか、憤怒?八罪?なんで倒すべき相手が貴方と知り合いなんですか?結局あなたは初めから私たちの仲間なんかじ


「アメリア」


ぱちん、低い声とともに私の視界が揺らいだ。

後にじわりじわりと響く痛みは、マーリンさんのビンタによるものだった。


「それ以上はダメだよ、それは言っちゃいけない」


首をゆっくりと横に振るマーリンさん、楽しいことの為にしか動かないような人が、こんな悲しそうな顔で、諭すようなことを言ってきた。


「君の気持ちは分かる、でもね、君がやっているのは確認であって尋問じゃないんだ、明らかに寝食を共にした仲間にするようなことじゃない」


正論だった。


心が叫んでいた言葉、自分が捻り潰した言葉の数々が溢れ出す。


「‥‥‥ひっく‥‥ウェっ…」


茫然とする私の耳に、泣き声が入ってきた。

怯えていた、怖がっていた。


「ごめん、なさい……」


深々と下げられる頭、ちゃぶ台に隠れてよく見えない。

武士が頭を下げる、その意味は誇りを失うことに等しい。


「だから、そんなこと言わんでくれ……」


ちゃぶ台の上から見えるちょんまげの先端が、左右に揺れて私を嘲笑っていた。

自分がやった事、何とも言えない快感に任せて憤怒したこと。


「はぁ」


呆れたような溜息をつき、マーリンさんは言った。


「私から見れば、君が『憤怒』だと思うよ、むしろそうであってほしいぐらいだ」


頭を下げ続ける彼の背中をさすった後、マーリンさんは立ち上がった。

何も言わずに私の横を通り過ぎ、階段を下りていく。


「うっ……うあぁ…」


耳を塞ぐこともできないまま、部屋に響く鳴き声を聞いていた。


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