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紅茶が冷めるまで②
何故か、マーリンさんの発言に驚きはしなかった。
むしろ何となく察していたような気さえしたし、自然とそいつの顔も分かる気がした。
でもそれを否定したくて、それでも否定できなくて。
「興も紅茶も冷めてしまったね、話は終わりだ」
マーリンさんはテーブルに置いたカップを掴み、そのままドアの前に立った。
「一つだけ、同じクソ野郎の私から助言だ」
ドアをガチャリと開けた後、マーリンさんは振り返らずに言った。
「善も悪も他人が決めた尺度だ、君は君の信じたい人を信じればいいし、その人の弊害になるような何かと対立しても構わない」
でも、自分だけは曲げちゃあダメだ、そう言ってマーリンさんは部屋から出て行き、後に残ったのはドアの閉まる音、そして、冷めた紅茶の香りだけだった。




