紅茶が冷めるまで①
「‥…おはよう、昨日はよく眠れたかい?」
部屋のドアを開けたのはマーリンさん、両手には二つのティーカップ、紅茶のいい匂いが鼻に入った。
「‥‥はい、ぐっすりですよ」
取り合えず笑ってみる、流石に無視するのは良くないと思ったから。
「‥‥‥‥淫魔っていうのは夢のエキスパートなんだ、眠れなかったんだね」
憐れんだような表情に戸惑った、止めて欲しい、お気楽なこの人にまで心配されていると、まるで自分がどうかしてしまっているのではないかと心配になる。
「隣、座るよ」
長い足を折り畳んで座るその姿に一瞬見惚れた、マーリンさんはティーカップを差し出してきた。
飲め、という事らしい、食欲も何も無かったが、取り合えず会釈して受け取る。
ほわほわと漂う湯気を少し吸い込む、ほんの少しではあるが、紅茶を啜った。
「…っ、美味しい」
思わず声に出してから気づく、マーリンさんがニヤニヤしながら私を見ていた。
「それはアーサーが気に入ってた紅茶さ、美味いだろう?」
「‥‥まぁ、美味しいですけど‥‥」
これでも意外と根に持つタイプのアメリア、素直においしいと言えないので、黙ってもう一口‥‥うん、美味しい、今まで飲んだ紅茶の中でも、別格の香りと味だ。
「気に入ってくれたようで何よりだ、それじゃあその紅茶が冷めるまでの間、私と少し話をしよう」
「???‥‥話、ですか?」
何だろう、そういえばきちんと話したことが無いため、いきなり緊張でドキドキしてきた。
「君たちの事さ、なぜ君たちが蘇ってここにいるか、誰に呼ばれたか」
口に含んだ紅茶を飲み、落ち着いた様子で話すマーリンさん、私の緊張の意味が変わり、心臓の鼓動が五月蠅いぐらいに響く。
「拒絶する権利も理解する権利も無かった、だったら、知る権利ぐらいはあると思ってね」
飲みかけのカップをテーブルの上に置き、マーリンさんは言った。
「君たちを呼んだのは、八罪の内一人、『暴食』のモリアーティさ」




