『色欲』
実際の所、道満に降り注いだ返り血は晴明の物ではない。
確かに結論から言えば、八罪の力を得た道満に晴明が勝てるはずない、四天王や信長、願わくばアキレウスがいれば話は別だが、
「が、あ」
一つ言えることは、呪い専門の陰陽師である道満が呪われていたということである。
「がああああああああァァア!!!!!」
のたうち回る、自分の皮膚を掻き毟り、長く鋭利な爪がバキバキと音を立てて割れていく。
「何をした!何をしたのだせぇェエいメぇぇえい!」
血走った目はまるでデメキンのように膨らみ腫れ、綺麗な顔は見る影も無く醜かった。
「八罪になっても馬鹿は馬鹿なんだね」
涼やかな声と同時に、晴明の手が道満の頭を掴んだ。
「ぎゃ、が」
「君、自分が呪い返しで死ぬこと、彼女から聞いたんだろ?学習しろよな」
「ガァぁぁぅぁぁあああああ!!?!?」
掴まれただけで苦しむ道満、呪いによる精神汚染もあるだろうが、驚くべきことに晴明の手を振りほどこうと手を動かしている。
だが晴明の呪い返しを受けた道満にはそれは敵わない、力の抜けた腕がだらりと下がり、道満は口から泡を吹いて気絶した。
どさぁっ、気絶した道満を投げ捨てた晴明。
「黒鞘様も困ったお方だなぁ、君みたいな能無しに『怠惰』をお与えになるだなんて………あっ、君だからか」
笑い出す晴明、投げ捨てた道満には目もくれず、後ろへ振り返る。
「まぁ安心しなよ、君の仕事は僕が引き受けるからさ」
そのまま清明は言う、源氏の屋敷を背に。
「この安倍晴明、『色欲』の「ゼウス」」、黒鞘様の忠実なる不信の徒がね」




