知りませぬ
「いいですねぇ、ここは」
美しさと狂気を兼ね揃えた男、蘆屋道満はこの屋敷をそう評した。
「流石は源氏の総大将、魑魅魍魎の呪いが溜まりに溜まっています、ええ、それはもう!」
この男の好きなものを言おう、饅頭だ。
丸くて白い、中にあんこが入っている和菓子だ。
しかしながら、この男、たとえそれが腐っていようが潰れていようが、文句の一つも言わず口に入れるのだ。
「――――まぁ、出来ることなら地で汚したくはありませんでしたが」
これは嘘だ、この男はたとえこの屋敷が吹き飛んでいようが、この男は喜んで声を上げただろう。
だから、ほら。
「構いませんとも、ええ」
笑って男は屋敷に足を踏み入れるのだ。
「そこまでだよ、道満法師」
屋敷の中から人が出てきた。それを目にした途端、道満の顔が険しくなった。
「・・・・・・晴明」
「おや、いつもなら様が付くはずなんだけどね、意外だ」
嘲笑ったような笑みと共に晴明は問うた。
「頼光たちを殺したのは、君かい?」
「いいえ、源氏を殺したのは黒鞘様の力にございますれば・・・・・」
「違うだろう?」
凍り付くような生命の声、道満は眉をひそめた。
「彼女はもう動けない、『強欲』の時は特例だが、今はそれができない、するわけにはいかない」
黙り込む道満、晴明は畳みかける。
「答えろ道満、誰が、殺した?」
晴明の問いに、道満は瞼を閉じる。
「・・・・・・私は・・・・・」
静かに、眉を開く。
「知りませぬ★、そしてさようなら」
笑ったままの道満の顔に返り血が吹き飛んだ。




