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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第一部】第一章 憤怒の黒炎
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アメリア、キレる「前編」

どうやら自分は記憶喪失らしい。


名前は織田信長というらしく、いまいちピンとこない。


此処が葡萄牙だということはまあ覚えている、何故日本人の自分がこんな異国に来たのかまでは分からないが。


そんなことより、気まずい。

うん、めっちゃ気まずい。



何が気まずいか? それはこの女の子だ。


さっきから隣でずっと指をボキボキ鳴らしているのがめっちゃ怖い。


え、何この子さっきと様子が豹変してんですけど。


可愛い顔に血管ビキビキに浮かび上がってるよ?、え?


もしかしてやばい奴だったn


ガタァン!


「ヒェッ!」


信長(?)がガタガタ震えビビっていると、急に女の子が勢いよく立ち上がったのだ。


女の子は一瞬、自分の事をキツく睨んだ後、部屋のドアを蹴り飛ばしてドアへと向かった。


「おおっと、どうしたんだいアメリ


「黙れ」


バキィっ! と、すれ違った男にパンチが炸裂し、華奢な女の子のそれとは思えないほどのイヤーな音が響いた。


男は壁に叩きつけられ、アメリアと呼ばれていた女の子はさっさと部屋から出て入った。


叩きつけられた男はずりずりと壁を伝い崩れ落ち、意識を失った。


「……」


顔を真っ青にしながら、信長はとりあえず夢の世界に逃げ込むことにした。

毛布にくるまり、ガタガタ震えながら祈る。


(神様お願いしますッ! どうかわたしをお救いくださいッ!)


言っておくが、誰も悪くない、悪いのは信長たちを撃った兵士だ。

と、その時。


「ちょっと⁉ 何してんのあんた!」

「うるさい! うるさい!」


信長がガタガタ震えていると、部屋の向こうから声が聞こえてきた。


さっきの女の子の声だ、何かあったのだろうか?。


体が震える。


確実にやばい。


でも、何故か分かることがあった。


今自分は、あの部屋に行かなければいけないと。


ベッドから起き上がる。


壁を伝い、痛む体を庇いながら歩く。


ドアノブを掴む。


これを開ければ、アメリアがいる。

自分が向き合わなければいけない、真実が。


深呼吸を三回ほど、目を閉じてイメージを固めるのを三秒ほど。


「…行くぞ」


そう言って、信長はドアを開けた。


ドアの向こうには、酒をがぶ飲みするアメリアがいた。


次々に酒瓶をぐびぐび直飲みし、空にしていた。


空の酒瓶は四本、だがまだ止まらない。


ソファーに隠れて動揺している女がアメリアに言う。


「ちょっとあんた! 未成年のくせに立派に酒豪やってんじゃないわよ!」


「うるへぇこの聖処女がぁ!」


女が言葉をアメリアに投げると、アメリアはそれを酒瓶で返した。


ごぉん! と、流星の如く速度で酒瓶は女の眉間に炸裂した。


ぐらつく女を信長はギリギリのところでキャッチし、ほっぺをペチペチ叩いた。


「大丈夫ですか⁉、生きてますか⁉」


首元を触る、息をしていた。


意識は朦朧としているが、とりあえず生きていることが確認できた。


ほっとした信長、だがそこで重要なことを思い出した。


勢い良く立ちあ上がり、信長はぐびぐび酒を飲むアメリアに言う。


「こら! ()()()()()()()は子供なんだからお酒は飲んじゃダメ! それからガラスを人に投げちゃダメ!」


とりあえず女を抱えながら信長は酒を飲むアメリアに怒鳴った。


アメリアは酔いが回っているのか、焦点が合わない目線を信長の方にゆっくり向けた。


怒鳴った効果はないようだ。


だが、アメリアが信長を視界に入れた瞬間。


アメリアは、どこか絶望したような顔をした。


裏切られたような、そんなどうしようもなく悲しい目で。


「うっ…ううっ……」


嗚咽を漏らし、こぼれる涙を片手で拭い。


そこから顔がくしゃくしゃになり、ついには。


「うわあああああああああんびぇえええええええええええぇぇん!」


急に泣き始め、酒瓶を投げ撒くったのだ。


信長は飛んでくる無数の酒瓶を避けながら、抱えている意識が無い女を護る。


「うわあっ……わあああん!」


ボロボロの顔のまま、アメリアは泣きながら玄関へ行き、ドアを開け外へ出て入った。


バタン! と、ドアが閉められる音がして,信長は安心して崩れ落ちた。


「……助かったァ」


ほっと一息、危険な状況から脱した信長はとりあえず女をベッドに運んだ。


優しく、頭を打たないように寝かしつけた後、またリビングに戻る。


そこには、酒瓶がたくさんあった。


割れたものから栓がまだ開けられてないものまで、たくさんあった。


呆れた表情で、信長は割れた酒瓶の破片を拾う。


「……なんであんなに怒ってたんだろう、()()()()()()()


拾いながら、信長は考える。


なんで、あの子は自分があの女を抱きかかえた時、悔しそうな顔をしていたのだろう。


別に初対面……じゃないにしても、そんなことを思う理由は無いと思う。


一体、自分はあの子とどういう関係だったんだろう。


少しの興味、大きな恐怖が身を包んだ。


「直接聞けばいいさ、ノブ」


後ろから声が聞こえ、振り返ると先ほど殴られた男が顔を抑え立っていた。


信長はそちらを向き、頭を少し下げる。


「失礼ですが、あなたはどちら様で……?」


「僕はナポレオン、君と、さっきの女の子の友達さ」


お見知りおきを~、と、呑気に手をひらひら振るその男を、信長は不思議そうに見た。


「と、冗談はさておき」


手をひらひらするのをやめ、ナポレオンは言う。


「行かないと後悔すると思うよ、ノブ、これはふざけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()


ナポレオンと名乗るその男は、強くそう言った。


「彼女に聞きたいこと聞いて、言いたいこと言ってきな」


そう言って、ナポレオンはベッドがある部屋に戻った。


一人残された信長は、ナポレオンの言葉を何度も噛みしめていた。


「……まあ、こんな夜遅くに女の子一人ってのも、ね」


そう言って、信長は外に出る。

記憶なんてない。


あの少女と自分がどんな関係だったのかも知らない。

言われてもピンとこない。


だが。

あの少女に、言いたいことを言うことはできる。


過去はもう無い、だが先がある。

だから、進むしかないのだ。


死ぬまで。







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