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ポルトガルの大うつけ~金平糖で何が悪い~  作者: キリン
【第二部】プロローグ
110/283

渡辺綱

「何処でしょうか・・・・・・ここは」

アメリアは自分の胸に手を当てながら、目だけをきょろきょろと動かした。

独特の建物や人々の服装を見る限り、ここが日本だという事は分かる。

だが解決すべき問題はそこではない、何故自分たちがここにいるのか、そして自分以外の飛ばされた信長たちが、何処にいるのか。

考えるべき事はたくさんある、だがまずやるべきことはただ一つ。

(現状の、把握)

ぐっ、と、胸に当てた拳を握り、アメリアは自分の頬をぴしりと叩いた。

「ふぅ、冷静に、常に冷静に」

自分の言葉に頷き、アメリアは辺りを見渡す。

ひとまず全方向、右と左と後ろと前、それぞれに真っすぐな道がある。

幸い、目立った曲がり角や問題は無さそうだ、道に迷うことはまずないだろう。

キョロキョロと周りを一通り見た後、アメリアは大きな屋敷があることに気づいた。

(ひとまずあそこに行ってみましょう、情報を得ることが先決です)

おバカな彼の事だから、もしかしたらそこに捕まってるかもしれない、そんな笑えないのに笑えてしまうことを考える自分に安心しながら、アメリアは最初の一歩を踏み出し。


「止まれ、娘」


その瞬間、私は切られたような感覚を覚えた。

痛みは無い、切られたことなどない、でも確かに切られた感覚がある。

震える体を動かし、声の主を見据える。

まるでホラー映画の主人公のような気持ちだ、恐怖と少しだけの好奇心が体を包み、まるで首筋に刃物でも当てられたかのような緊張が走る。

そこで私は目視した、その恐怖の元を。

そして理解した、あの感覚は恐怖から成るものだった。

肩まであるその髪、高い鼻、こちらを見据える威圧的な細く大きな目、動きやすそうな最低限の鎧と着物の上からでも、その小さな体には見合わない筋肉が浮き出ていた。

着物の色は白、黒い鎧は足の部分と片腕のみ、腰に付けている刀は信長の刀より大きかった。

自分と同じぐらいの身長、年もそこまで変わらないはずだ。

なのに、震えが止まらない。

まだ何も、自分に言ったわけではないかもしれないのに、なお怖い。

だが膝を突くことも許されない、本能が告げている、それをしたら最後、お前の頸と体は泣き別れだと。

一歩、二歩、近づいてくるその侍の目が、伸びた髪越しに見えるその目が怖くて、逃げたくても逃げれない。

「・・・・・・・・・」

何も言わずに近づいてくるその男は、私の目の前で立ち止まった。

吐息も当たっているだろう、だが侍は眉一つ動かさず、私の体に手を伸ばした。

(死―――――っ!)

叫びそうになり、瞼を閉じて死を覚悟した。

「・・・・・・・見たことのない服だな、温かい」

ぽすっ、と私の肩のあたりを撫で、その後に侍は私の後ろに回った。

「・・・・・・え?な、え?」

「何だ、この髪の色は、鬼・・・・・・ではないな、むしろ真逆か」

恐怖と混乱でどうしてよいか分からず、アメリアは取り合えず瞼をぱちぱちさせた。

侍は一通り私の体をじっくり見た後、私の目の前に立った。

「突然体に触れて申し訳ない、俺は渡辺綱、頼光四天王が一角と、この京の一部を守護している」

侍はそう言って膝を突き、そのまま私に言った。


「我が主君、源頼光が貴方を探していた、ご同行を願えるだろうか」


人だかりがアメリアとこの侍を包む中、力なくアメリアは返事をした。

承諾してよいかどうかなど分からない、嫌ですと答えた瞬間に殺されるかもしれないのだから。

「そうか、では行こう」

そう言って、侍は私の手を掴んで引っ張ってきた。

この時は混乱して考えてもいなかったが、完璧な拉致である。


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