「小話」少し時を遡って・・・・・・
これは、とある朝のちょっとした小話
アメリアは料理を作っていた。
誰よりも早く起き、厨房に立ち、エプロンを付けて。
冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンの隅でヒビを入れ、割る。
じゅわあっ、と、鉄板の上に落ちた卵を、素早くかき混ぜる。
ちょっとだけ、懐かしい感じがした。
よく母と一緒に料理をしていたことを。
懐かしい思い出に身を寄せながら、アメリアは食用植物油を手に取り、入れようとする。
『違う違う、ここはこうするのよ』
一瞬。
母の声が聞こえてきた気がして、後ろを振り返った。
「おかあ……」
だが、そこにいるのは自分の母親ではなく、昨日会ったジャンヌだった。
「ほら、こっち見てないで火から目を離さないの」
「えっ…あっ、すいません……」
アメリアは逃げるように火の方を向き、卵をかき混ぜる。
「ああ違う違う! もっと優しく!」
『もっと優しく混ぜなさい、飛び散ったらもったいないでしょう?』
ぴたり、と、手が止まる。
もう一度だけ後ろを見て、それが母ではないことを確認する。
「私の顔に変なモノでもついてる?」
「………いいえ、なんでも」
そう言って、アメリアは少しだけ焦げた卵を皿に盛り、また卵を割る。
そしてまた、命が減っていく。
心も、擦り減っていく。