おしまい
そうか、ただただ納得した。
焦げ付いた薄着、煤まみれの自分の体、燃え盛る本能寺。
「…………」
本当に、ただただ納得しかなかった。自分は部下に嫌われていたし、裏切られることなんて何度もあった、寝込みを襲われることも少なくはない。
バキバキと音を立てて崩れ去っていく寺、倒れてきた柱に潰されて死ぬか、焼け死ぬか。
どちらも魅力的な死とは思えなかった、どう考えても、人らしい死に方ではなかった。
「まぁ、元から人でいたつもりはないがな」
隣に置いてあった酒瓶を掴む、豪快にそれを飲み干し、そこら辺に投げ捨てる。
飛び散る陶器の破片が頬をかする、だが血が頬を伝う事は無く、凝固した。
「……」
死ぬなぁ、流れ出る汗を拭いながら、そう思う。
出口は全て火の海、水でもあれば体を濡らすことができるのだが、ここに有るのは酒瓶一本、悪化するのは目に見えていた。
「よし! 死ぬか!」
丁度そこらへんに転がっていた自分の愛刀を掴む、本来なら脇差とかそういうのを使うのが礼儀作法なのだが、正直どうでもよかった。
鞘から刀を抜き、腹に突き立てる。
「むぐっ! あだだだっ……がぁ……」
元気な声が寺だけではなく、寺を囲む軍勢にも聞こえた事だろう、儂はにやりと笑ってから、両手に力を込めた。
ブシュウっ!腹の中に刃が滑り込み、みぞおちからへその下までざっくり切っていく。
どさあっ、痙攣しながら倒れる、腹にとんでもない痛みが走るのを感じた。
『ハイお疲れ様、それじゃあ頼むわよ』
声のようなものが聞こえ、その直後本能寺を支えていた柱が音を立てながら崩れ去った。