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新たな生活の始まり

 窓の外から鳥の鳴き声が聞こえる。ベッドから起き上がって窓を開けると、爽やかな風が吹きこんできて、土と木の優しい匂いがした。


「いい朝ね。久々にぐっすり眠れたわ」


 昨日、ミハイルの家にしばらく居させてもらうことにした後、早速ルナリアの部屋を案内してもらった。元々はミハイルの祖母の部屋だったようで、幸運にも鏡台やクローゼットなど、女性用の家具や衣類が残っていた。ミハイルが自由に使うよう言ってくれたので、ありがたく使わせてもらうことにした。


 その後、ミハイルは風魔法で部屋の掃除をしてくれたり、水魔法でルナリアのために風呂を沸かしてくれたりと、すっかり世話になってしまった。至れり尽くせりで申し訳ないと思いながらも、久しぶりに湯に浸かって身体の汚れを落とし、清潔な衣服に着替えたことで、随分と気持ちが落ち着いたものだった。


 湯浴み後は、これまでの疲労がどっと押し寄せてきて、夕食をとらずに休ませてもらったのだが、おかげで体力も大分戻った。今日こそは何か手伝わせてもらって恩返しをしなくては。


 ルナリアは盥の水で顔を洗うと、クローゼットの中からシンプルな青色のドレスを出して着替えた。鏡台に座って髪を丁寧に梳かす。侯爵家の屋敷で、侍女に身支度を整えてもらっていた頃と比べると、化粧もしていないし色々と行き届いていないだろうが、見苦しくない最低限の格好にはなっているはずだ。


 身支度が済んだルナリアは、朝食の準備でも手伝おうと部屋を出た。先程から、階下から物音がするので、ミハイルも起きて何かしているはずだ。階段を降りて居間に入ると、そこにはーー見知らぬ男がいた。


「……おはよう」


 見知らぬ男も一瞬、驚いたような表情を浮かべながらも、親しげに挨拶してきた。ルナリアは混乱して、挨拶も返さずに黙ってしまう。


(ど、どちら様かしら……。ミハイルさんのご親戚? もしかして弟子の方とか?)


 さらさらとして手触りの良さそうな、やや長めの茶色の髪に、深緑の瞳。鼻筋の通った形の良い鼻に、優しく弧を描いた口。顔を観察しても、分かったのは整った優しい顔立ちをしているということだけで、何者なのか見当もつかない。


「……昨日から大分見違えたから驚いた」


 あれ、とルナリアは思った。どう見ても初対面の人物だが、まるで昨日会ったような物言いで、声にも聞き覚えがある。


「……あの、もしかして、ミハイルさんですか?」


 半信半疑で、恐る恐る尋ねてみる。


「うん? そうだが」


 まさかのミハイル本人だった。


「すみません、一瞬どなたか分からなくて驚いてしまいました……」


「ああ、今まで一人暮らしだからと身嗜みにも無頓着だったが、女性もいるのに、あまりだらしない格好をしているのもどうかと思って。少し整えてみた」


「少し……」


 ルナリアにしたら、別人と見紛うほどの変わりようだったが、本人はそこまで変化したとは思っていないらしい。ルナリアは、もう一つ思い違いがあったかもしれないと思い、遠慮がちに質問してみた。


「あの、ミハイルさんは今、おいくつでいらっしゃいますか?」


「今年で二十四だ。……ルナリアは十八だったな」


「……はい。六歳違いですね」


 まさか自分の父親と同じくらいだと思っていたとは言えない。


「そうか。……今まで若い女性と接する機会がほとんどなかったから、なかなか気が回らないかもしれないが、不便なことがあったら遠慮なく言ってくれ」


「まあ、十分よくしていただいていますわ。私もまだまだ世間知らずですが、これから色々覚えてお役に立てるよう頑張りますね」


「それは助かるよ。では、さっそく朝食の準備を手伝ってもらえるかな」


「はい、お手伝いします!」


 にっこり笑って返事するルナリアを、ミハイルは優しい眼差しで見つめるのだった。

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