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夜が明けるまで  作者: はづき愛依
7/9

3:49




 愛理が成仏して、俺と瑛二の二人だけになった。瑛二は、これで目的が果たされた訳だが。

 停めていた自転車のハンドルに手を掛け、帰ろうとする瑛二を引き止めた。積もる話もあるからと、瑛二が断りづらいことはわかっている上で、深夜のドライブに誘った。

 自分の車は、すぐ近くの牛丼屋に停めていた。自転車は牛丼屋に移動させて瑛二を乗せ、北東の方角へと走らせた。

 時間は、夜明けが迫る頃だった。さっきまでバイクの一台も走っていなかった道路だが、次第に対向車とすれ違い始めた。

 ドライブの間、俺が好きな洋楽を流した。アニメが好きな瑛二には、アニソンの方が良かっただろうか。走り出した時からずっとだんまりだ。

 流れる曲が好みでなかったからじゃないんだろう。きっと、自分が犯した罪を責め立てられるだろうかと、内心怯えている。それから、俺がどうしてあんなところに現れたのかを疑問に持ち、愛理を成仏させた方法も気になっている筈だ。

 信号が赤になったから一時停止した。このまま最後までしゃべらなそうだったから、俺から沈黙を破った。


「愛理が世話になったな。一応礼を言っとく」

「あ。いいえ……でも、本当に驚きました。先輩と知り合いだったなんて」

「そんなに長い間、付き合ってなかったけどな」


 会話が一往復半しただけで、また黙り込んだ。よっぽど居心地が悪いんだろう。

 信号が赤から青に変わり、アクセルを踏んだ。

 すると、今度は瑛二から切り出した。


「……先輩。どうやって、愛理さんの記憶を戻したんですか?」


 まぁ、そこが一番気になるところだよな。


「簡単だよ。空いた穴を埋めただけだ」

「復元したってことですか?」

「そんな手間のかかることはしてない」

「じゃあ、どうやって……」

「移植かな」


 ずっとダッシュボードの辺りしか見ていなかった瑛二の顔が、横の俺に向いた。


「……移植?……どこから?」

「俺の頭の中から」

「………え?」


 移植→頭の中から→脳移植?と単純に直結させただろう。だが見ての通り、そんな大掛かりなことはやっていなかったから、瑛二にはさっぱり理解不能だ。

 瑛二はどういうことか聞きたかっただろうが、俺はわざと話題を逸らした。


「そうだ。お前さ、この事件知ってるか?半年前の自動車踏切事故と、五ヶ月前の夜の飛び出し事故と、三ヶ月前の食品加工会社の社員寮の自殺事件」

「……はい。何となく」


 反応を見たところ、三つとも知っている訳じゃなく、どれか一つだけを薄っすらと覚えているのか、ぼんやりと答えた。どれも大してニュースになっていなかったから、印象は薄かった筈だ。


「どれも事故と自殺で処理されたけど、本当は故意犯の仕業だって知ってたか?」

「いいえ……誰かが殺したってことなんですか?」

「何だ。知らないのか」


 俺は得意気になり、「これ警察すら知らないことなんだけど、お前だけに教えてやるよ」と饒舌に話し始めた。


「踏切事故は、死んだ奴が新人の給料をずつちょろまかしてたんだ。そいつにそれがバレて恨まれた。だから、腹いせに夜の踏切で車を立ち往生させて、特急列車に衝突させて事故に見せ掛けて殺したんだ。

 飛び出し事故で死んだ奴は、踏切事故で死んだ奴と同じで、新人に陰湿な嫌がらせしてたんだよ。でも、その新人に逆に目を付けられて、習慣だった夜のウォーキングの時にトラックに跳ねられて、事故に見せ掛けて殺されたんだ。

 自殺した奴は、同僚から言われるがままに後輩に毎日嫌がらせをしてたんだ。イジメられてたんだよ。そいつは、ある後輩に傷付けることを言って、キレた後輩が社員寮の部屋に無理矢理上がり込んで、首吊り自殺にして殺したんだ」

「そうなんですか……」


 他のことが気になる瑛二は話半分で聞いていたようだが、「でも」と疑問を俺にぶつけてきた。


「何で警察は、他殺だってわからなかったんですか?もし犯人がいるなら、証拠とかある筈ですよ」

「例えば?」

「踏切事故は、わざと車を踏切に停めるなら一緒に乗ってなきゃならないし、飛び出し事故も、その場にいてタイミングよく被害者の身体を押さなきゃ轢かれないし、自殺だって殺す目的で室内に入ったなら争った形跡があった筈です。警察は、必ずある証拠を見逃したことになります。じゃなければ、わざと見逃したとしか」

「そうだよな。被害者たちが死ぬに至った偶然の可能性を除けば、故意犯の仕業ならどの事件もそいつがその場にいなきゃ成立しない。でも、他殺の証拠を残さない方法を犯人は知っていた。愛理の事件も」

「慎先輩は、愛理さんの事件も同じ犯人だって言うんですか。何でそこまで知ってるんですか?警察でも知らないことを」


 本当は察してるくせに。焦らすつもりが逆に焦らされた俺は、時間もないから素直に教えてやることにした。


「俺がその場にいたから」

「………」

「俺が工場の息子を()()()()()、経理のババアを()()()()、いじめられっ子社員を()()()()()()、愛理に()()()()()()()から」

「……それ、一体どういうこと……」


 仕向けた言い回しの「させた」に、瑛二はさぞ困惑したに違いない。

「させた」ということは、そう仕向けたのか?どうやって?脅迫したのか?催眠術を使ったのか?と色々考えたことだろう。

 現場に他者の痕跡を残さないようにするには、頭を使い綿密な計画を立てなければならない。場合によっては、リハーサルも必要だと思う。

 だが俺は、そんな面倒な過程は踏んでいない。俺の方法には、綿密な計画もリハーサルも必要ないからだ。

 このやり方は、俺にしかできない。

 俺は瑛二の心情を把握しながらも無視し、まず愛理を自殺させた動機を話した。




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