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夜が明けるまで  作者: はづき愛依
3/9

1:37




 自転車を漕ぎ、人っ子一人歩いていない夜の静寂しじまの川沿いの道を進む。

 愛理の未練は、眉間に皺を寄せたくなるほど不可解なものだった。だが行動しなければ何も始まらないと思い、とにかく二人で現場になった会社に向かった。

 会社は、交通量が多い道路に面した場所に建っている。門から社屋からほぼ全部が灰色で、赤と青のロゴだけがライトに照らされて闇夜に浮いている。

 愛理が飛び降りたのは、今から約一ヶ月前の夜十時~十時半頃。本社社屋に隣接する建物の、八階のバルコニーからだった。発見した警備員から通報を受け救急隊員が駆け付けたが、病院に搬送後すぐに死亡が確認された。捜査では、争った形跡はなく、防犯カメラにも怪しい人物が映っていなかったことから、自殺と判断された。飛び降り事件のあと、愛理はずっとこの周辺を彷徨っている。


「何一つ覚えてないんですか?」

「そう言っても過言じゃない。唯一覚えてるのは、落ちている途中のほんの一瞬だけ。その前までが全く記憶にないの」


 瑛二は下唇を少し突き出し、思わず唸る。

 まずは、何故記憶が欠けているのかを突き止めなければならない。


「何で覚えてないんだろう……普通に泥酔してたんじゃないんですか?それか……あ。まさか、違法薬物に浸り過ぎて……」

「車で通勤してるのに、お酒飲んでたら飲酒運転でしょ。私、犯罪に手を染めようなんて微塵も思わなかったし、全うな人生を送ってたつもりだけど」


 冗談半分で言っただけだが、愛理の冷やかな視線が向けられた途端、瑛二の背筋がゾワッとする。すぐに失言を撤回し、頭を下げて謝った。


「て言うか、ずっとここにいるんですよね。退屈じゃありません?どう過ごしてるんですか?」


 これまで他の幽霊に対しても疑問に思い、何度か聞いてみたいと思いつつ聞けなかったことだった。幽霊とは言えプライベートなことだから、聞いていいものか躊躇っていた。


「全く動けない訳じゃないから、そこら辺をふらふらしてるわよ。身体が軽い分、フットワークが生きてた時より軽くなったから」

「じゃあ、いつも何してます?」

「野良猫に話し掛けたり、人間観察したり。あと、同僚の飲み会に付いて行ったり。私、あんまりそういう集まりに参加しなかったから、ちょっと興味があって。そしたら、愚痴とか恋バナが聞けて楽しいのね。生きてた時に参加すればよかったって、後悔してる。あ、ねぇ。今度、瑛二くんに乗り移るから、一緒に行ってくれない?」

「会社の人でもないのに、オレがいたら不自然じゃないですか」


 ダメ?と肩に乗っかられ、重力がプラスされたように身体が重く怠くなる。幽霊によるパワハラに負けず、瑛二は再度断った。

 通常の重力場を取り戻し、首と肩の凝りを解すと、話を本題に戻した。


「因みに。平日のその日は、仕事でしたか?」

「ええ。いつも通りに車で出勤してたわ」


 仕事は定時に上がり、会社を出たあとのことも愛理は覚えていると言う。瑛二は、残っている記憶を頼りにすれば思い出すきっかけになるかもしれないと、その日の愛理の行動を辿ってみることを提案した。


 会社を出た愛理は、車で五分ほどの距離にあるショッピングモールに立ち寄り、その中のスーパーで買い物をしている。事件後、立体駐車場に停められたままの車の中に、生鮮食品などが詰め込まれたエコバッグが置いてあるのが、警察によって確認されていた。

 外から見ても明らかに人気がないことが窺える建物を眺めながら、愛理は当時の行動を説明した。


「買い物が終わって、少し洋服屋さんに立ち寄って、駐車場に戻ったの。そしたら偶然元カレに会って、久し振りに話したいって言われたから、レストランに入って一緒に夕食を食べたわ」

「元カレと食事ですか。よく行けましたね。オレだったら、元カノに誘われても無理ですよ」

「私も気まずって思ったけど、ちょっと話したいことあったし、少しくらいならいいかと思って。奢ってくれたしね」


 食事に誘われた愛理は、同施設内のレストランで互いの近況を話をしながら食事をした。

 改めて帰ろうとしたのは、それから約一時間半後だった。二人共車で来ていたので連れ立って駐車場に戻ったが、駐車場に着いた時点から記憶がないと言う。


「その時に何かあったんですかね。お酒も飲んでないとすると……唐突に眠気に襲われたとか、発作が起きて気を失ったとか」

「全然そんなことなかった。例えるなら、そうね……テレビの電源を落としたみたいに、プツリと突然途切れたのよ」

「余計にわからない……」


 理由もなく突然意識がなくなるなんて、あるのだろうか。眠気や発作ではないのなら、催眠でも掛けられたのだろうか。

 考察する瑛二は腕を組み、眉間に皺を寄せてまた下唇を出す。


「……私、ちょっと中入ってみる」


 唸るだけでは謎は解決しない。何か手懸かりが掴めないかと、最後の記憶が残る施設内に愛理は潜入した。入れない瑛二は、その間外で待つしかない。

 ガードレールに腰掛け、再びスマホで音楽を聞きながら、思考は一時別の事柄についてに切り替わる。

 以前、愛理と同じような相談を別の幽霊からも聞いていたことを思い出していた。




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