竜の口その2
カルが着いた場所は、不思議なところだった。洞窟なのだが、辺りは明るい。洞窟の中の材質から光を生み出しているらしく、灯の代わりになっている。
「ここは竜の口なのかな…」
カルはそんな事を考えながら、辺りを見渡す。振り返ると、さっきの扉は、もう、消えてしまっていた。洞窟は一本道になっているようだ。カルは先を目指し、歩き出す。しばらく進むと、道が二又に分かれている。その手前に、石像のような物があった。よく見ると、女性を象っている。
「女神像なのかな…?」
カルはその石像に手を触れてみる。その時、またネックレスが輝き出した。
「うわっ…」
驚いたカルは、石像にしがみつく。ふと、さっきまでと感触が違うのに気がつく。不思議に思い、感触を確かめる。
モミモミ…ムニュムニュ…モミモミ…
突然頭の上から声が聞こえてくる。
「何故、あなたは人の胸をリズミカルに揉んでいるのかしら…?」
「うわぁっ、ごめんなさい、ごめんなさい…」
カルは、腰の辺りまで、何度も頭を下げる。石像が話しかけるとは、まさか、思いもしなかった。よく見ると、さっきまでの石像とは違い、生身の体の女性だった。
「えっ、えー!?さっきまで石像だったのに…」
カルは、今更のように驚いた。
「あら、あなたが起こしてくれたのね。胸を揉んで起こすなんて、情熱的ね…」
「あーっ、本当にごめんなさい!」
また何度も頭を下げるカル…。
「うふ、ところであなたは誰?私はステラ、ここの見張りとか、門番みたいなものかしらね。それにしても、人がこんなところに来るなんて、珍しいわね」
ステラと名乗った女性は、銀の髪を腰までのばし、とても整った顔立ちをしていた。「美人」を形にすると、こんな感じだと言えるだろう。そればかりではなく、引き締まってはいるが、胸や腰も大きく、女性らしさを象徴していた。
問題はその服装である。まるでレオタードのような鎧で、胸は露わになってなっており、目のやり場に困ってしまう。腕には小手のようなものを着けていた。
「は、初めまして。ぼ、僕は、キンクウ村のカル・エイバースです。ステラさんは、女神様ですか?」
「そう、カルちゃんって言うのね?うーん、私は女神とは違うわ、まあ、神様の血は流れてるけど、私は戦士、女戦士ね」
「僕、ドラゴンを探しに来たんです。ここは竜の口でしょうか?」
「あなた、《お嬢》を探しに来たの?この場所は、そうね、言うなれば、竜の口よりも竜の胃袋ってところかしらね?…ところで、あなたはこの場所に、どうやって来たの?」
「はい、実は…」
カルは、キンクウの祠からの経緯を、ステラに話した。
「あら、そのネックレスが…ちょっと見せてくれるかしら?」
「はい、どうぞ」
カルはネックレスをステラに渡す。
「うーん、確かに魔力を感じるわ。それが原因で私も目覚めたのね…」
ステラはカルにネックレスを返した。続けてカルに話しかける。
「でも、良かったわね、あなた。もし、私が起きなかったら、とんでもない事になってたわよ」
ステラはカルにしか聞こえないように、カルの耳に口を近づけて囁く。
「実はね、ゴニョゴニョ…だからゴニョゴニョってことになるのよ」
カルの額に、冷や汗が止まらなく流れてくる…。
い、生きてて良かったー!
と、感じずにはいられないような事を、ステラは伝えた。
「そうね…ここまで来るのは、普通だと無理なの。ある特殊な魔力が無いと、絶対に辿り着けないように作られているのよ。でも、あなたは辿り着いてしまった…。だから通してあげる。ただし、中で何が起きても責任持てないわよ。この通路を左に進んで」
「ありがとうございます。ステラさんは、優しい方なんですね」
ステラにお礼を言い、カルは左手の通路を進んで行く。
ステラは、ちょっと心配そうにカルを見つめ、
「優しい、なんて言われたのは、いつ以来かしらね…
あの子、何も無ければいいけど…まあ考えても仕方ないようね、寝ましょう、ふぁー」
欠伸とともに呟いた。すると、ステラはすぐに石像の姿に戻った。辺りには、静けさだけが残された…