接触
キンクウの村からカル達4人はキスクに戻り、ヨウの家に帰って来た。3人の女子はずっとロブの事を話している。
「セシルの弟可愛いかったです」
「私も子供が欲しくなったぞ」
「本当に私の弟ながら可愛いかった」
「アンナおばさんも元気そうで良かった」
皆ほのぼのとした感じでくつろいでいた。
「この後はどうしようか?」
「またギルドで依頼を受けるべきじゃない?」
「私も仕事をした方がいいと思います」
「うん、ずっと休んでる訳にもいくまい」
その日はゆっくり休み、翌日ギルドに行くことにした。
カルはジョシュと話をしようと思っていた。これまでは「食す者」に出会う事は無かった。しかし、いつまでも平和が続く訳ではないだろう。
翌日、4人はギルドに向かった。
「おはようございます。依頼ありますか?」
いつものように受付嬢が対応する。
「カルさんおはようございます。今日はそうですね…こんな感じでしょうか?」
数件の依頼があり、カルはそれをじっと見ていた。
「ふんふん、何々、魔物退治に盗賊退治、うーんあんまり面白い依頼無いわね…」
誰かがカルが見ている依頼を後ろから覗きこんで、そんな事を言ってきた。
カルが声の方を向くと女性だった。黒髪を肩まで伸ばした痩せ型の色白美人だった。何かあまり寝てないような顔をしていた。表情は暗く、不健康そうに見える。表情が明るければ誰からも好かれるように見えるが、その表情が人を遠ざけている、カルはそう感じた。
「あら、横からごめん、私はクリス。ランクBの冒険者、よろしく」
「あ、初めましてカル・エイバースです」
「カル?ああ、あんたがカルね?最近話題の…」
「話題…なんですか?」
「ふふ、そうよ、それじゃまたね」
クリスと名乗った女性は振り向かず酒場の方へ歩いて行った。
受付嬢がカルに話しかける。
「カルさん、今の人は結構有名な方ですよ。女性ながらソロで活動している冒険者で(しぶとい女)なんて呼ばれてます」
「しぶとい女ですか、なんだか暗く感じましたけども」
「そうですね、あまり笑顔は見せませんね」
カルはまた依頼を見る。カルの他の3人が集まって来た。
「カル、さっきの女の人は誰?」
「クリスさんって名乗ってたよ、冒険者だって」
「クリスさん…もしかして(しぶとい女)のクリスさんですか?」
「(しぶとい女)って聞いた事あるぞ、なんでもずっとソロで活動していて、難しい依頼もあっさりこなすとか…」
「へえ、あの人有名なんだね。それより次の依頼どうしようか?」
カルは何事も無かったように依頼を探し始めた。今回はクリスが言ったように余りいい依頼が、見つからなかった。
その中で魔物退治の依頼を引き受けてその場を去る。カルは3人と別れ、酒場に向かった。
ジョシュはいつもの席に座っていた。アラヤも一緒だった。
ふとカウンターを見るとクリスが1人で飲んでいるのが見えた。表情はやはり暗かった。
「ジョシュさん、ちょっと報告があります」
「30分後…」
「わかりました…」
カルは酒場を出て、秘密の部屋のある場所に向かう。後ろに誰かの気配を感じていた。カルは秘密の部屋に向かわず、少し離れた場所に向かう。まだ気配は感じる。一度ヨウの家に戻ろうか考えた。
カルは無線機を持っているのを思い出し、使ってみる。
「…こちらカルです。誰かにつけられています」
しばらくして、応答がある。
「…今日はそのまま帰ってください。また後ほど」
「わかりました」
カルはそのまま家に帰る。気配はずっと感じていた。
家に着く頃に気配は感じなくなった。そのまま家に入って行く。
「ただいま、皆いる?」
皆がカルに返事しながら集まって来る。カルはギルドから出た後に誰かにつけられた事を話した。
セシルがカルに聞く。
「それってもしかして…?」
「うん、その可能性はあるね…」
ヨウはカルの方を向いて聞いた。
「食す者ですか……?」
カルは答えず頷く。ブリトニーも聞く。
「どうする、このままだとまずいぞ?」
カルは無線機を取り出して答える。
「これでジョシュさんに聞いてみる」
3人は頷く。カルは無線機で話し出した。
「…ジョシュさん聞こえますか?」
しばらくして応答が聞こえる。
「はい、カル様大丈夫ですか?」
「はい、今日つけられたのはやはり…」
「十中八九イーターに間違いないでしょう」
「もう僕も狙われているのですね」
「はい…スレイ様の息子というだけで狙われる可能性はありました。とうとうやって来たようです」
「どうすればいいのでしょう?」
「今は普通に過ごして頂いて大丈夫です。私とも普通に声をかけてください。誰がつけているのかはこちらも手を打ちますので、心配なさらずに」
「わかりました、ではまた」
そこで応答は切れた。
いったい誰がイーターなのか…。
セシルが喋りだす。
「カル、今日会ったクリスって人?」
「まさか?」
「前にジョシュさんも言ってました、冒険者の中にもイーターは存在するって……」
「会った日につけられるというのも偶然にしては出来過ぎているな…」
カルはしばらく考え、話し出す。
「うん、今は受けた魔物退治の依頼を片付けよう。それにクリスさんが顔を出すようなら本物かも知れない」
「そうですね、依頼の仕事中に何かあるなら、狙われているとはっきりしますね」
「だが、皆も常に周りに気を配らなくてはなるまい」
「そうだね、今は仕事をしよう」
「皆、注意は怠らないで」
カル達は仕事の準備に取り掛かる。今回は東の森に魔物が住み着き、通行出来なくなっているので退治して欲しいというのものだった。数は未定だが、今のカル達には心配ないレベルの筈だ。明日の夜明け前に出発する事にした。
その日は準備を終え、食事を済ませると、皆明日の早朝に出かける為、早めに寝ることにした。
翌朝、暗いうちに4人は出発する。東の森に続く街道をひたすら歩く。カルは気を周りに同調させる。今のところ気配は感じ無かった。しかし油断はしていない。
東の森はカルがザインを倒した場所の近くにある。街道は森を沿うように作られていた。その途中に魔物が現れ、人々は通れなくなったとの事だった。
「カル、私達もそろそろ馬車でも買った方がいいんじゃない?」
「あ、そうだね、気にしてなかったよ」
「私も馬車があると助かります」
「馬の扱いは慣れているぞ」
「わかった、この依頼を終わらせたら馬車を考えて見よう」
4人は歩き続け、その日は野宿することになった。カル達は交代で見張りを続ける。その日には何も起こらなかった。
早朝出発する。東の森までは後数日かかる。警戒を怠らずに4人は進む。今のところ気配は感じられない。
「この辺りは人気も無く、何か起こるとすればそろそろかもしれないね」
「今のところ何も感じられないけど…」
「そうですね、気を緩めないように気をつけましょう」
「ああ、今日はなるべく先を急ごう」
4人は注意しながら進む。すると前方から気配を感じる。馬に乗った人だ。だんだんと近づく。
1人の女性が馬に乗って近づいて来た。その顔は暗い表情を浮かべている。黒髪で長身の女性だった。黒っぽい服装をしている。
「よう、カルまた会ったな」
「クリスさんでしたね、仕事ですか?」
「ああ、終わったところだ」
「そうですか、僕達は東の森に向かっているところです」
「そう、この先に魔物が出るらしい。それの討伐か?気をつけな」
「はい、それでは失礼します」
「ああ」
クリスは去って行った。
カルはこれは偶然なのかを考えていた。今まで何の接点も無かった者からの接触、少し腑に落ちない。クリスの気配は遠ざかって行く。今のところ何も起きない。
カルは街道の先をずっと見つめる、何か起こるとしても僕は負けないと自分に言い聞かせながら遠くを見る。黒く踏み固められた道がずっと続いていた…




