表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/100

キンクウの村その3





 その夜、シンの家では、村人達が集まり、会議を開いていた。


「シンさん、どうするんだ?この村に魔石なんてあったのか?」

「あれば、渡して呪いを解いてもらうのが一番じゃないか?」

「でも、魔石を渡しちまったら、俺らは大丈夫なのか?俺らまで殺されちまうんじゃねえか?」



  村人からそんな意見が飛び交う。シンはしばらく、俯いて考えていた。


「大体何で魔物が来やがったんだ?この村は結界があった、やすやす魔物は入れないはずだ」

「退治すれば、シンさんは治るのか?」

「呪いなんて、どうすりゃいのか、わかる奴いるのか…?」


 シンは顔を上げ、覚悟を決めたように話し始める。


「まずは、魔石について話すぞ。俺はそれが魔石かどうかはわからん、が、祠の結界になっている物がある。結界の大元みたいなもんだ、それが魔石じゃねえかと思う」

「そんなもんがあったのか?俺たち誰も知らなかったんじゃねえかな?」


 シンは続ける。



「問題は、そいつを渡すとすると、この村にも魔物は現れる。俺たちには、それに抵抗する手段がない。そればかりか、この、キンクウには巨大な地脈ってえのがあるらしい。その地脈を抑えてるのもその魔石らしいんだ」


「地脈?地脈ってえのはなんだい、シンさん」


「俺も、よくはわからねえが、その土地のエネルギーみたいなもんらしい。考えてみろい、この村の農作物は他の土地に比べてどうだ?凶作はない、味も比べもんにならねえだろう?」

「確かにそうだ、もう、何十年も凶作なんて起こってねえな…」

「ああ、確かに農作物も他の土地より高く買い取ってくれるなぁ、キンクウ産の芋や麦…」


 シンは続ける。


「その地脈ってえのが一番厄介でな、暴走すると何が起こるかわからねえ、魔物が突然現れたり、災害が起こったり、村にいいことはねえらしいんだ。まぁ、これは全部スレイに聞いたことなんだけどよ」

「スレイか、奴がいてくれりゃ…」

「そうだなぁ…」


 村人達が俯く。シンが続けて話す。


「俺は、やっぱり、魔石を渡すつもりはねぇ、俺の命と引き換えに村を守ることに決めた」

「おい、シンさん!」

「しかし、それじゃ…」


 シンは続けて話す。


「しかし、問題は俺がやられた後に、本当に魔族が諦めるのかって事だ。多分そんなに上手くはいかねえだろう…。下手すると、村も家族もやられちまうかもしれねぇ…」


「……」

「……」

「……」


  村人達に沈黙が訪れる。


「街の冒険者を雇うってのはどうだい?」

「そうだ、それなら…」


  シンは溜息をついて、続ける。


「ああ、そうなんだが、ここは街まで遠すぎる。街道のセンの村まで何日かかる?そこから街までは?…。

早くて10日、行って帰って20日…討伐依頼を受理されるまで、早くても3日はかかるだろう。すぐに対応してギリギリってところだ。おそらく、期日に間に合わん確率の方が高い」


「……」

「……」


  また村人達に沈黙が訪れる。


「とにかく、街には伝える。明日の朝に出発してもらいたい。アンドリュー、頼めるかい?」


  アンドリューと呼ばれた青年は、頷いて話す。


「ああ、わかった。シンさん、出来るだけ急ぐ!」

「悪い、頼むぜ」


 アンドリューは、準備の為か、その場からすぐに立ち去って行く。シンが続ける。


「とにかく、今は落ち着いて行動する事が大事だ。明日、明後日にどうこうするって訳じゃねえ。今日はもう遅いから、みんなお開きにしよう」


「ああ、わかった。シンさん、大事にな…」

「それじゃ、またな、シンさん」


 村人達は帰って行った。心配そうに、シンの妻、セシルの母親のアンナ・グレースがシンに寄り添う。座っているシンの肩に手をおき話しかける。


「あなた、大変な事に…」

「大丈夫だ、なんとかする」


 シンはアンナの手に自分の手を重ね、悲しい顔のアンナの頬に自分の頬を合わせる。しばらく沈黙が続いた…




 ― カルの家では…


「それでね、竜ってのは、いっぱい種類がいるんだよ!空飛ぶ竜も、地中に潜ってる竜も、海にもいるんだ…」

「……」

「竜って、魔力もあるし、なんと言っても、口から吐く炎が凄いよね!それだけじゃ、なくて、ドラゴンブレスって…」

「……」

「どうやらドラゴンっていう呼び方は、世界的に見て、東が竜、西がドラゴンってな感じに分類されて…」


 カルは楽しそうにドラゴンの話しをしている。その脇で怒りに満ちた表情のセシル。


「ドラゴンの吐く炎は、体内のメタンガスが牙をこすり付けた時の火花に…」


 テーブルをドンと両手でセシルが叩いて叫ぶ!


「いい加減にしろ!この、ドラオタ!」

「えっ…えっと…」

「全く、人が悲しんでるのに、何であんたはドラゴンの事を楽しそうに話し続けられるのよ!」

「あ、あのー、その」

「ドラゴン、ドラゴンって、そんなに好きならドラゴンに弟子入りでもすれば!」

「…っ!?」

「ドラゴンって頭いいんでしょ?それならドラゴンの先生…」

「セシル、今、何て言ったの!?」


 ガシッとセシルの両肩をつかみ、カルが真剣な表情でセシルに話しかける。ビックリした表情のセシル。真剣な眼差しでセシルは見つめられ、少し頬を赤らめる。


「ドラゴンの先生…?」

「そっか、そうだよ、ドラゴンの先生だ!」


 晴れ渡るような表情のカル。怒っていたセシルも何となく肩透かしされ、不思議な表情に変わる。


「な、何よ、あんた、そんな嬉しそうに」

「わかった、わかったよ僕は、ドラゴンに弟子入りする!」

「また、訳のわかんないこと言って!カルっ、あんたは、もう!」

「セシル、ありがとう」



 夕食の後、2人は仲良く?話していた。

そんなやり取りをカレンは優しそうに見つめていた。


「セシルちゃん、元気出たみたいね。カルは誰かを元気にする力があるのかも知れないわね。スレイ…カルは元気に育っているわよ」


 カレンは心の中でそっと呟いた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 励みになりますので、評価の方をよろしくおねがいします!  なるべく続ける事ができるよう努力致します!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ