キンクウの村その3
その夜、シンの家では、村人達が集まり、会議を開いていた。
「シンさん、どうするんだ?この村に魔石なんてあったのか?」
「あれば、渡して呪いを解いてもらうのが一番じゃないか?」
「でも、魔石を渡しちまったら、俺らは大丈夫なのか?俺らまで殺されちまうんじゃねえか?」
村人からそんな意見が飛び交う。シンはしばらく、俯いて考えていた。
「大体何で魔物が来やがったんだ?この村は結界があった、やすやす魔物は入れないはずだ」
「退治すれば、シンさんは治るのか?」
「呪いなんて、どうすりゃいのか、わかる奴いるのか…?」
シンは顔を上げ、覚悟を決めたように話し始める。
「まずは、魔石について話すぞ。俺はそれが魔石かどうかはわからん、が、祠の結界になっている物がある。結界の大元みたいなもんだ、それが魔石じゃねえかと思う」
「そんなもんがあったのか?俺たち誰も知らなかったんじゃねえかな?」
シンは続ける。
「問題は、そいつを渡すとすると、この村にも魔物は現れる。俺たちには、それに抵抗する手段がない。そればかりか、この、キンクウには巨大な地脈ってえのがあるらしい。その地脈を抑えてるのもその魔石らしいんだ」
「地脈?地脈ってえのはなんだい、シンさん」
「俺も、よくはわからねえが、その土地のエネルギーみたいなもんらしい。考えてみろい、この村の農作物は他の土地に比べてどうだ?凶作はない、味も比べもんにならねえだろう?」
「確かにそうだ、もう、何十年も凶作なんて起こってねえな…」
「ああ、確かに農作物も他の土地より高く買い取ってくれるなぁ、キンクウ産の芋や麦…」
シンは続ける。
「その地脈ってえのが一番厄介でな、暴走すると何が起こるかわからねえ、魔物が突然現れたり、災害が起こったり、村にいいことはねえらしいんだ。まぁ、これは全部スレイに聞いたことなんだけどよ」
「スレイか、奴がいてくれりゃ…」
「そうだなぁ…」
村人達が俯く。シンが続けて話す。
「俺は、やっぱり、魔石を渡すつもりはねぇ、俺の命と引き換えに村を守ることに決めた」
「おい、シンさん!」
「しかし、それじゃ…」
シンは続けて話す。
「しかし、問題は俺がやられた後に、本当に魔族が諦めるのかって事だ。多分そんなに上手くはいかねえだろう…。下手すると、村も家族もやられちまうかもしれねぇ…」
「……」
「……」
「……」
村人達に沈黙が訪れる。
「街の冒険者を雇うってのはどうだい?」
「そうだ、それなら…」
シンは溜息をついて、続ける。
「ああ、そうなんだが、ここは街まで遠すぎる。街道のセンの村まで何日かかる?そこから街までは?…。
早くて10日、行って帰って20日…討伐依頼を受理されるまで、早くても3日はかかるだろう。すぐに対応してギリギリってところだ。おそらく、期日に間に合わん確率の方が高い」
「……」
「……」
また村人達に沈黙が訪れる。
「とにかく、街には伝える。明日の朝に出発してもらいたい。アンドリュー、頼めるかい?」
アンドリューと呼ばれた青年は、頷いて話す。
「ああ、わかった。シンさん、出来るだけ急ぐ!」
「悪い、頼むぜ」
アンドリューは、準備の為か、その場からすぐに立ち去って行く。シンが続ける。
「とにかく、今は落ち着いて行動する事が大事だ。明日、明後日にどうこうするって訳じゃねえ。今日はもう遅いから、みんなお開きにしよう」
「ああ、わかった。シンさん、大事にな…」
「それじゃ、またな、シンさん」
村人達は帰って行った。心配そうに、シンの妻、セシルの母親のアンナ・グレースがシンに寄り添う。座っているシンの肩に手をおき話しかける。
「あなた、大変な事に…」
「大丈夫だ、なんとかする」
シンはアンナの手に自分の手を重ね、悲しい顔のアンナの頬に自分の頬を合わせる。しばらく沈黙が続いた…
― カルの家では…
「それでね、竜ってのは、いっぱい種類がいるんだよ!空飛ぶ竜も、地中に潜ってる竜も、海にもいるんだ…」
「……」
「竜って、魔力もあるし、なんと言っても、口から吐く炎が凄いよね!それだけじゃ、なくて、ドラゴンブレスって…」
「……」
「どうやらドラゴンっていう呼び方は、世界的に見て、東が竜、西がドラゴンってな感じに分類されて…」
カルは楽しそうにドラゴンの話しをしている。その脇で怒りに満ちた表情のセシル。
「ドラゴンの吐く炎は、体内のメタンガスが牙をこすり付けた時の火花に…」
テーブルをドンと両手でセシルが叩いて叫ぶ!
「いい加減にしろ!この、ドラオタ!」
「えっ…えっと…」
「全く、人が悲しんでるのに、何であんたはドラゴンの事を楽しそうに話し続けられるのよ!」
「あ、あのー、その」
「ドラゴン、ドラゴンって、そんなに好きならドラゴンに弟子入りでもすれば!」
「…っ!?」
「ドラゴンって頭いいんでしょ?それならドラゴンの先生…」
「セシル、今、何て言ったの!?」
ガシッとセシルの両肩をつかみ、カルが真剣な表情でセシルに話しかける。ビックリした表情のセシル。真剣な眼差しでセシルは見つめられ、少し頬を赤らめる。
「ドラゴンの先生…?」
「そっか、そうだよ、ドラゴンの先生だ!」
晴れ渡るような表情のカル。怒っていたセシルも何となく肩透かしされ、不思議な表情に変わる。
「な、何よ、あんた、そんな嬉しそうに」
「わかった、わかったよ僕は、ドラゴンに弟子入りする!」
「また、訳のわかんないこと言って!カルっ、あんたは、もう!」
「セシル、ありがとう」
夕食の後、2人は仲良く?話していた。
そんなやり取りをカレンは優しそうに見つめていた。
「セシルちゃん、元気出たみたいね。カルは誰かを元気にする力があるのかも知れないわね。スレイ…カルは元気に育っているわよ」
カレンは心の中でそっと呟いた。