魔法使いじゃないから!『レベル8―僕はスライムより弱かった?―』
これは、七生の災難のお話第八弾!
基、『魔法使いじゃないから!』の八作目です。
このお話だけでも、わかるようにはなっています。
―1―
はぁ……。
今僕は、皆さんにお見せできない格好をしています。いえ嘘です。見せたくない格好です。
って、単に制服の上にエプロンをしているだけなんだけどね。
そして、どうしてこんな格好かと言うと、これからお菓子作りをするからです。
あの苦いチョコのお返しにお菓子を作る事になって、人生初のお菓子作り。
あ、忘れてました自己紹介……。
お菓子を作りながらになりますが、ご勘弁を。
僕は、審七生。今年高校生になったばかりだ。登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。
僕はミーラさんが持参した『杖』で、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! その『杖』はよりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
パスカルさんは、その杖をレベルアップさせたいが為に、ミーラさんを送り込んで来た。彼女は、杖野ミラとして、僕の学校に来た! お蔭で僕は、この世界で杖のレベルを上げるために、モンスター狩りをするはめになったのだった!!
ミーラさんはいつも問題を起こす。――でも、今回は平和だ。何せ、モンスターは絡んでないから。今のところだけど。
―2―
今日は、午前中までミーラさんは、超ご機嫌だった。
午後もまだよかった。けど……。
部室に行けば、ミーラさんに睨まれた!
僕が所属している部は、かそう部。そして何故かお飾り部長をさせられている!!
『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
ミーラさんも部員になった。
「誰もくれない……」
むくれたままミーラさんは、一言僕にそう言った。
この時やっと、ミーラさんの機嫌が悪くなったのがわかった。
彼女は先月、バレンタインのチョコを配りまくった。それこそ恋人がいようがいまいが関係なく、先生にも渡していた。
そうしたのは、二色さんに今日3月14日にそのお返しが貰えると聞いたかららしい。でも、誰もお返しをくれない。だからむくれているのだ。
だいたい、生徒会が設置していた目安箱に苦情が殺到して、僕が呼び出される羽目になり、しかもミーラさんが杖を使ったお蔭で、生徒会副会長で二年生の安達陽乃先輩を巻き込んでしまった!
今思い出すだけでも、顔が赤面する内容だ!
で、その後にミーラさんの手作りチョコを食べた。あれはもう食べたくない!
あれを配ったのなら誰もお返しなどくれないだろう。
仕方がないからクッキーでも買うか。じゃないと、ずっとむくれたままだろう……。
「わかったよ。帰りにクッキー買ってあげるから」
「本当?」
「あら、手作りを食べたのだから手作りで返して差し上げるのが、愛ってものよ」
安いクッキーで喜んでいたのに、ちょうど部室に入って来た二色さんが余計な事を言った!
何が愛だ! その愛を配りまくったのに何故僕だけが、手作りで返さなくちゃいけないんだ! ――と、言い返したいけど、それを飲み込んだ。言えば倍で返って来る。
「ねえ、幸映」
「え? それって俺にも言ってるのか?」
「そうよ。あなた、一度も返してくれた事ないじゃない」
「俺が作った、激マズクッキーでも構わないと?」
「もちろん。でも美味しい方がいいわ」
「………」
大場も作る事が決定した。
って、一度も返した事がなかったのか!
僕も今回、二色さんからチョコを頂いた。というか、凄い量を大場と一緒に食べさせられた。美味しかったが、あれもあれで拷問のような……。
大場は、僕のせいだと二色さんの後ろから睨んでいる。
いや、僕からすれば、二色さんが言ったんだから僕が巻き込まれたと思うんだけど。
「あの……。ちょっと、よろしいでしょうか?」
大場達の後ろから声が聞こえ振り向けば、この学校のマドンナで先月巻き込んでしまった安達先輩が立っていた!
「あ、七生くんと一緒にチョコ食べていた人だー!」
安達先輩を見て、ミーラさんが言った言葉だが訂正する! 食べてもいないし、食べられてもいないからぁ!!
「だから食べてないって言っただ……」
「あ、もしかしてお菓子取りに来たの?」
僕の反論の言葉に被る様に、ミーラさんは言った。
いや彼女なら催促しなくても貰えると思う。チョコをあげてない人からも頂けるかもしれない。それぐらいの美少女だ。
「あら? では、一緒に食べます?」
「え?」
何をしに来たのか知らないが、このままだと安達先輩は、僕達が作ったクッキーを食べる羽目になるかもしれない!
「あげてないんだから取りにこないだろう! で、安達先輩、何の御用でしょうか?」
「あの……えーと……」
何故か安達先輩は、もじもじとしてるんだけど? もしかして本当にクッキーを取りに来たとかじゃないよね? チョコあげてないよね?
「大丈夫よ! 照れなくていいわ! 一緒に私の家に行きましょう!」
「うんうん。一緒に行こう!」
何が大丈夫で、何を照れなくていいのかわからないが、二色さんが安達先輩にそう言ってしまった!! そして、ミーラさんが後押しをする。――彼女をまた巻き込む気だよ、この人達!
「いや、待ってよ! 僕、クッキー作るの初めてだよ!?」
「大丈夫よ。材料は私が買ったものなのですから」
そうなんですか……。
まあ、ミーラさんが作ったチョコのような事はないとは思うけど、このメンバーと一緒なのは、安達先輩が嫌なのでは?
「あの! 行きます!」
「え? 来るの?」
「ほら、やっぱり食べたいんだよ!」
嫌じゃないのかよ!
安達先輩の返事に僕が驚くも、ミーラさんは思った通りだと言わんばかりの顔だ。
安達先輩は、あんな目に遭ったというのに一体何を考えているんだろう……。
―3―
僕達は、安達先輩も一緒に二色さんのお家にお邪魔した。そして、僕と大場でキッチンに立つ。
本を見つつ、二人でお菓子作り。三人は、リビングで女子トーク中。
「え?! あの杖って本物なのですか?!」
安達先輩が驚く声が、聞こえて来た!
何を話しているんだ! 内容が全然女子トークじゃない!
「おい、ちゃんとやれよな」
「いや、だって……。先輩に変な事吹き込んで……」
「うん? 本当の事だろう? 俺、お腹すいたから早く作っちゃおうぜ」
そうだった。大場は、隠す必要ないと思っているんだった。しかも作ったクッキー食べる気満々だし。
仕方がないので、サクサクと作って行く。そして、オーブンで焼くまでになった。
「後は焼きあがるまで待つだけだな。俺達も向こうで休もうぜ」
「うん」
早く何を話したか聞きたい!
きっと、二人の魔法使いトークに、ドン引きしているに違いない!
「お疲れ様。コーヒーを入れてあげるわ」
「おぉ、サンキュー」
「ありがとう」
二色さんが立ち上がると、私もやりたいとミーラさんもついて行く。僕と大場、それと安達先輩だけになった。
「あの……二人の話は、半分冗談で聞いて……」
「魔法使いなんですってね!」
「え!?」
安達先輩は、僕をキラキラして目で見て言った!
嘘だろう! 彼女も魔女っ子大好き派なんですかぁ!?
この目は間違いなく、二色さんと同じ目だ!
「あの。今日、訪ねて来たのって……」
僕は、恐る恐る聞いた。僕の予想が外れますようにって!
「はい。魔法を使ったのかどうか、聞きたくて……。一か月も悩んじゃいました。聞きに来てよかったです!」
なんじゃそりゃ!!
初めは、もじもじと語っていたけど、パッと顔を上げキラキラした目で来てよかったって言われたよ!
あぁ見た目は凄くいいのに、中身は僕的には残念だ……。
もしかして、僕が知らないだけで、少女達は魔法使いに憧れているのか?
はぁ……。
ため息をついて、ぐったりしていると、チンと鳴った。どうやら出来上がったみたい。
僕達の目の前には、少し焦げてしまったクッキーが並べられている。焼きあがったクッキーで、お祝いだそうです。――って、何のお祝いだよ!
「私……魔法使い部入ろうかな」
「げっほげっほ」
「お前、汚いって!」
突然驚くような事を口走った安達先輩の言葉に、僕はむせてしまった。大場が、ギャーギャー言っているがそんな場合じゃない! 止めないと!
「あの、やめた方がいいです! せっかく生徒会に入ったのに!」
「いえ。生徒会をしながら部活出来るので問題はないです」
僕の言葉に、にっこりと安達先輩は答える。
いや僕が言いたいのは、生徒会に入って先生方の覚えがめでたいのに、この部に入ったらだだ下がりだと言う事なんだけどなぁ。通じてない。
「あ、そうそう。魔法使い部ではなく、正しくはかそう部ですわ」
それ訂正しなくても内容は魔法使い部の様なものだろうに……。
二色さんの訂正に、大場とミーラさんはうんうんと頷いている。
「そうだ! 魔法見てみる? それとも使って……」
「ダメ!」
慌てて変な事を言い出したミーラさんの手を僕は掴んだ!
こんな所でモンスターをだしたら大変な事になるだろうに!!
「えぇ~。なんで?」
「学べよ! ここで出したら大変な事になる!」
「あ、そっか! じゃ、外でしようよ!」
「こ、今度な……」
ジッと三人が期待した目を送っているので、そう答えてしまった。
「そうね。では、どんなモンスターを出したいか先輩には考えておいてもらいましょう」
「ちょ、何言って……」
「モンスター?」
「うん。私が作った杖で出せるよ!」
「だから、待てって!!」
「えぇ! 本当? 私にも出せるの?」
「勿論だ! 俺、オオカミだしたぜ」
「私は、雪女よ! 凄かったんですから!」
ダメだもう。止められない……。
二色さんの余計な一言で、自慢げにミーラさんが杖の事を話し、大場達がその杖でモンスターを出した自慢話が始まった。
どうしてこうなるんだよ!
あぁ、魔女っ子大好きが三人になった……!
「やっぱりすぐに体験してもらいましょう!」
「はぁ? いや、クッキー……」
「持ってけばいいだろう?」
「わぁーい! じゃ、学校の裏で!」
またそこですか!
ミーラさんが提案した場所は、あと少しで雪が降る季節だというのに、雪が見たいと言った彼女のせいで、二色さんがその願いを叶える為に雪女を出した場所だ。
そこだけ銀世界になって喜んだのは、勿論ミーラさんのみ!
そんな曰く付きの場所だ!
「あの……。今日じゃなくても」
「では、いつならいいのですか?」
そう質問してきたのは、安達先輩だ!
彼女も杖でモンスターを出したいらしい。
勘弁してくれ! 退治するの僕なんだからぁ!!
「じゃ、今で……」
「お前、先輩に弱いなぁ」
ニヤニヤして、大場が言った。
そうじゃなくて! 僕一人反対しても決定事項でしょって事だよ!
多勢に無勢だよな……はぁ。
―4―
学校の裏に来てみたものの、そこは雑木林でまだ雪がたっぷりと在った。
うん。これは諦めてもらえる!
「凄い雪だ。無理だろこれ。そういう訳で中止!」
「えー!」
僕が中止と言うと、ミーラさんがぶうたれている。
「でもほら入っていけな……」
「でしたらここでしましょう! 七生くん用意しておいて!」
「ラジャー!!」
「ちょっと待って!」
二色さんの提案に返事を返して言われなくてもミーラさんは、モンスターを召喚出来る杖を出した! ――ちょっと待ってって言っているのに!
突然出現した杖に、安達先輩は驚いている。
だよね。普通はただ幻想や想像をトークしていたと思っていたよね……。
もう、これが現実だよ!
「るすになにする!」
僕は、やけくそになって杖を戻す言葉唱えた!
ポケットから取り出したペン型の杖は、元の大きさになる。
僕の行動に、また安達先輩は驚いた。
「はい。どうぞ」
「……ありがとう」
ミーラさんに杖を渡された安達先輩は、その杖をジッと見つめている。
どうしたらいいんだろうって思っているのかも。
「その杖でモンスターをイメージして、出て来いって言うだけ。でも、あまり強いのを出すと僕が倒せないからそこを配慮お願いします」
僕がそう言うと、安達先輩は頷いた。そして、三人は驚いていた。いっつも召喚には、消極的だからだ。
もうこうなったら先に、釘を刺して置くしかない!
よわよわのモンスターを出してもらって、一撃で倒す!
学校の裏だから人は来ないと思うけど、一応校内なのだから来る可能性もある。見つかったらやばい!
「えっと。スライムを召喚!!」
え? スライム?
召喚しようとしたモンスターに驚いていると、水滴を思わせる形の水色のモンスターが現れた!
確かに弱いイメージを持ってはいるけど、安達先輩が知っているとは思わなかった! ――ゲームをするんだ……。
「何、ぼさっとしてるんだよ! 攻撃すれよ!」
大場に言われ、僕はハッとする。そうだった! 攻撃!
「消滅しろ!」
僕は杖を振るった!
けどスライムは、消えなかった!
「え!? 何で!」
「何でって一撃で倒れなかったからでしょ?」
僕が驚いて言うと、スライムなど知らないミーラさんが答えた。
いや弱いモンスターじゃないの? って事なんだけど!
赤くもなってないし。いや、目がないからわからないだけ?
「消滅しろ! ……まじか!」
二撃目でも倒れない!
このスライム、全然弱くないんだけど!
ふと安達先輩を見れば、驚いて僕を見ている。――いや、僕が弱い訳じゃないから!
まあ僕は弱いかもしれないけど、この杖は何度かレベルアップしてるんだし!!
「もう倒れろって! 消滅! 消滅!」
……スライムは、赤くなりました。
これってゲームでいうならある程度HPが削れると、狂暴化する状況と同じ現象らしい。本当は、赤くなるのは目なんだけどね! ――何このスライム!
っていうかいつも思うんだけど、向こうは赤くなって狂暴化っていうのがあるけど、こっちには何かないの?
必殺技みたいのさ!
「えーい! 必殺技!!」
ないとは思ったけど、叫んで攻撃してみた!
本当は名前で言った方が格好いいんだけど、あっても知らないし!
ドン! っと、今までにない衝撃が手に来て驚いた!
そして、スライムは一回の攻撃で消滅した。
これって必殺技を使って倒したのか? それともあと一回の攻撃分しかHPがなかったのか?
「おぉ、すげー。必殺技!」
「まあ、いつのまに、習得したの?」
「必殺技って何?」
「ここぞっていう時に使う、凄い攻撃技の事よ!」
ミーラさんの質問に、安達先輩が生き生きと説明している。
はぁ。疲れた……。
いつもと違い精神的にだけではなく、何か肉体的に疲れた。
僕は、疲労感にしゃがみ込んだ。
「おい。大丈夫かよ」
「何か、だるい……」
「凄いわ! 七生くん! 杖で攻撃なのに自身のHPを削る必殺技を繰り出すなんて!」
僕は驚いて、そう言った安達先輩を凝視した。
言った内容にも驚いたが、僕の事を下の名前で呼んだ事に驚いた!
って、何そこまで馴染んじゃってるの!
「七生くん。朗報だよ! 杖がまたレベルアップしたみたい! 必殺技も師匠に報告しておくね!」
嬉しそうにミーラさんが言った。
ハッとして握りしめていた杖を見るも形は変わっていない。
杖をレベルアップさせて形を変えないと、レベルアップさせ続けなくてはいけない!
僕には、杖がレベルアップしてもわからないし、本当にレベルアップしているのか……。まあ、今回必殺技を使ったのならレベルアップしているんだろうなぁ。
―エピローグ―
僕が動けなくなった事で、部活動をしていたら具合が悪くなった事にして、保健室で休んでから家に帰る事になった。
「でも何故今回は、倒れてしまったのかしら?」
「必殺技を使ったからだろう?」
「何で必殺技を使うと具合が悪くなるの?」
ベットで眠る僕の横で、三人が煩い。
でもミーラさんの質問に、答えが見つからない二人は大人しくなった!
保健室の先生もいるんだし、あまり変な話をしないでほしい。
「それは、七生くんがまだ未熟だからよ!」
って、何故安達先輩が答えているんだ!
「七生くんが装備している杖は、レアものなのでしょう? しかも使用者限定型!」
装備とか言ってるし……。
あぁ、段々安達先輩のイメージが壊れていく……。
「だから魔法使いとしてレベルが足りないのよ! その……」
「僕はそもそも、魔法使いじゃないから!」
僕はガバッと起き上がり、その先輩の仮説を否定する!
皆が僕を一斉に振り向いた!
「じゃ、あれね! 今は普通の魔法使いなのよ! ランクが上がって凄腕魔法使いとかになるのかも!」
「ゲームじゃないから!」
「うん。元気だな」
「なら、帰りましょう」
安達先輩がまたもや言った仮説を否定すれば、大場達は僕が回復したと保健室から出て行く。
「ちょ! 置いて行くなよ! あ、ありがとうございました!」
保健室の先生に礼を言って僕も保健室を出た。
今一度言っておく! 僕は魔法使いじゃない!
この後、戻ってクッキーを食べたようです。試食会になり、点数を頂いたようです^^
「うん。次に期待ね!」――ミーラさんのありがた~いお言葉です!
シリーズをまだお読みでない方で、興味を持たれた方は是非レベル1からどうぞ☆
今回もお読みいただき、ありがとうございました!