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目の前で頭が弾け飛んだ
鮮血がかかる
もはや何も感じなくなっていた
出所して何時間がたっただろう
タバコを吹かしながらただただ街を徘徊した
身寄りもいない、頼る人も居ない、数少ない友人さえも無くした
当たり前だ自分の親を殺そうとした間抜けだ
迎えもあるはずもない
模範囚として過ごしたこの二十数年は耐え難かった
本職の奴らに半端者と周りに見下されるのは良かった
ただそれを見て自分よりも下だと思い込んでピンクのアホ共が調子に乗って馬鹿にしてきたのは許せなかった。ある程度経つと馬鹿にするのが飽きたのか何も言わなくなるが、奴らは俺よりも刑期が短いので新しいピンクが入れ替わりでやってくる。そして新参者の糞野郎にまた馬鹿にされる。これが何年も続く。何度奴らの鼻っ柱を折ろうと思ったことか。
まあいい晴れて自由の身だ奴らと会う事もそうそう無いだろう
さてどうしようか
一時は札で溢れていた財布は見る影もない
ドヤでも探すかと歩いていると凡そ堅気では無い男達に囲まれる
出所おめでとうございますと祝う気も無さそうに誰かが言った
「何だ」
「わかるでしょ」
「分かってたまるか、どいてくれ」
「まあそういう訳にもいかないんですよ。先代がご立腹です」
「まだあの狸はくたばってないのか。歳が歳だろ。そろそろ三途の河の渡り時だろう」
「ええなので引退しました」
「じゃあ関係ないだろ、俺に構うな」
「いえ先代たってのご希望です」
「俺に会うのがか、やっぱり歳だな。殺そうとした俺に会いたがるなんて耄碌してる」
誰かが笑った
「違いますよ。貴方を殺すのをご希望なんですよ」
「あいつと閻魔様に挨拶しに行くのはゴメンだ」
溜息をつかれる
「話に聞いていた通りですね」
何を聞いたと聞こうとした時、体に痛みと痺れが起こり崩れる。呻き声を挙げている間に手足を結束バンドで縛られ口にはタオルを巻かれその上から布袋を被せられる
「じゃあ行きましょうか」
車のトランクに乗せられたのだろう扉を閉める音がした
スタンガンの効果が切れてきたので暴れてみたが縛られているのか体が思うように動かない
諦めて大人しくしていた
エンジン音が止まると共に振動も止んだ
目的地に着いたのだろうか
少し潮の匂いがする 海が近いのだろう
トランクの扉が開き地面に投げられる
麻袋とかまされていたタオルが外される
大きなドラム缶と大量のプラスチックのタンクが目に入る
「海に沈める訳ではなさそうだな」
ええとだけ答え他の男に指示をだす
「出所日に殺すなんて犯人は私ですって大っぴらに言ってるのと変わらないぞ」
「懐の下をかなりばら撒いたそうです、なのでマル暴はこの事は関知しないと」
「涙が出てくるな、俺を殺す為に金ばらまくなんて。葬儀は上げてくれるのかい」
また溜息 貴方と話していると疲れると言わんばかりだ
「準備できました」体格の良い男が声をかける
「分かったコイツの服を全部剥げ」
男共が寄って来て服を脱がそうとするので暴れるがスタンガンを押し付けられる。痺れているうちに服は切り裂かれ裸にされる
「男のストリップショーに興味が?」
「いい加減にしてください。分かってるんでしょう。どうなるか」
やれと短く指示を出す
男共は俺を体育座りにさせ縄で締め付けようとする
「分かった分かった。暴れないからせめて最後の一本を吸わせてくれ。胸ポケットに入ってる」
切り裂いた服からタバコを取り出し咥えさせてもらった顔を見つめるばかりでライターを出そうともしない
「おい何してんだ早く火をくれ」
「最後の一本なんか吸わせませんよ。出来るだけ苦しめるようにと言われてますし」
舌打ちをするとニコニコしだした。気味が悪い
続きをと促すと今度こそ縄で縛られタオルをかまされドラム缶の底に無理矢理座らせられる。
ではとだけ残し男は視界から消える
底から夜空を見上げ今からされるだろうことに身体が震え出す。すると例のタンクからぬるりとした液体が注がれる。踵の半分まで浸かった所でタンクが空になったらしい他のタンクに取り替えていた。足と尻が熱い。火傷したみたいだ。生きたまま溶かすなんて趣味が悪すぎる。皮膚が溶けて来たのだろうか感じていた熱さが痛みに変わる。液体が注がれ続くにつれ痛みが増してく。あまりの痛みに失禁し吐いた。吐瀉物と小便と肌が溶ける臭いで嗅覚はおかしくなっていた。ふと液体が注がれていない事に気がつき見上げるとあのクソ野郎が気味の悪い笑顔を浮かべながら液体顔一面にぶちまけた。目と鼻に液体が流れ込む。視界が薄れて赤みがかかり最後には何も見えなくなった。
鼻から入った液体は喉を焼きながらもなお奥深くに侵入して来た。先程の体表面の痛みと違い内部からの痛みに耐えられなくなり声にならない悲鳴をあげながら頭を何度もドラム缶にぶつける。舌を噛んで楽になろうとするがタオルが邪魔で噛み切れない。意識も一瞬だけ失うが痛みで覚醒するのをなんども繰り返した。暴れている最中にも薬品は追加され鼻先まで浸っていた。ここまでくるとタオルが巻かれているとはいえ隙間から薬品が滑り込み口の中を焼きながら体内に入り込む。胃の腑をも溶かし更に痛みが増す。そしてとうとう鼻が完全に沈んだ。そして鼻と口から流入する液体のせいで呼吸困難を起こし気管の弁が開きだす。
肺も薬品に浸かり酸素が脳に行き渡らなくなり、完全に気をやった。数分すると心臓の鼓動が遅くなりやがて動きを止めた。死んだ事を確認した後男は携帯で連絡をとった
「私です。先代にお取り次を。・・・どうも夜遅くに失礼します。・・・ええ、はいつつがなく。・・・明日15日3時ですね。はいありがとうございますはい・・・はい、失礼します」
携帯をしまい指示をだす
「明日夜中の3時にボートがくる。それまでに死体を出来るだけ溶かしておけ、溶け切れなかったモノは服と一緒に海に捨てるそうだ。頼んだぞ」
男は2台あったうちの1台セダンに乗って闇夜に消えた。