"運"命の出会い 三
ズドォッ!!!
間一髪かわすことに成功した洩雄。その真横スレスレを通り過ぎて地面に激突した氷塊は、大きな土煙をあげながら粉々に砕け散る。人体に当たればただでは済まないことは明らかだった。
「チッ、外したか」
「おいっ、何すんだよ! お前も『能力者』なのか!? 」
「洩雄君。一度しか言わないから、よく聞きなさい」
慌てる洩雄を制するように、宵子が話し始める。
「『能力者』たちは今まで、その能力を悟られないように静かに暮らしてきたわ。私もその一人。八歳の時にこの力を手に入れたけれど、なるべく目立たないように生きてきた。悪用する者は居たけれど、そいつらは同じ『能力者』の手で裁かれてきた。それが変わったのが、ここ半年のことよ」
宵子はニヤニヤと笑う謎の男を睨みつけながら続けた。
「能力者狩りが始まったの。何が目的は分からない。最初は『能力者』を裁く能力者が狙われたから、悪用を考える者達の仕業だとされていた。でも今は、ひっそりと生きる者すらターゲットになっている。貴方が『能力者』であることは、同じ『能力者』があのニュース映像を見れば誰だって分かるわ」
「その通りだぜ、嬢ちゃんよお」
謎の男は余裕綽々の様子で、こちらに向かってくる。
「まさかこの期に及んで俺達『SHIT』の名前を知らないヤツがいるなんて、思ってもなかったからよお。ボスに言われてあの映像を見たときは驚いたぜ。『こんなバカがまだいたのか』ってな」
宵子は身構える。キッと見つめる視線には、目の前の男と戦おうという強い意志があった。
「私も貴方も戦いに向く能力じゃない。けれど能力者狩りが始まってから、それなりに鍛えてきたつもりよ。私がここを引き受けているうちに、貴方は逃げなさい」
「でも......! 」
「守りながら戦うのが難しいのは分かるでしょう! 貴方がそこにいると邪魔なのよ! 」
普段からは想像もつかないような、宵子の剣幕。洩雄が思い出すのは、粉々になった氷塊。
(俺の能力なんかとは違う。あんな能力相手に、勝てるわけない......! )
謎の男が再び氷塊を作る。さっきと同じか、それ以上に大きなその塊。それを見据える宵子。その顔が、ふっと緩んだ。
「大丈夫。私はきっと勝つわ。そうでなくとも無事で逃げ出して見せる」
「......!」
(宵子は覚悟しているんだ......それなら俺に出来るのは、彼女の言う通りにすることだ......! )
洩雄は町に向かって一目散にかけだした。
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「二度も逃がすかッ! 」
背を向けた洩雄に向かって、男は振りかぶる。その動きが一瞬止まり、狙いが反れた。テニスボール大の氷塊は、雑木林に生えていた針葉樹をいとも簡単にへし折る。
「お前......何かしただろ。今のだけじゃない、さっきもだ」
「さて、何のことかしらね」
「とぼけてんじゃねーぞ。可愛い顔して、とんだペテン師だな」
宵子はシラを切る。彼女にとって第一の目標は、洩雄を無事に逃がすことだった。
(10分もあれば逃げ切れるでしょう。まずは時間を稼がないと)
「まずはタネを割らねえとなあ。『能力』を使わず殴り合っても勝てるだろうが、それじゃつまんねーからな」
そう言うと、男は両手に二つの氷塊を作り出す。
(さっきよりも小さい......上限があるのかしら)
事実、氷塊はゴルフボール大のサイズだった。男はまたも腕を振りかぶり──
「オラァッ!! 」
タイミングをずらして二発を投げる!
「あら、そんなものかしら。貴方随分狙うのが下手なのね」
その二発共が、宵子の足元で転がっている。勢いも不十分だったのか、割れもしていない。
「諦めたらどうかしら? そんなんじゃ一生当たらないわよ」
挑発しながらも、構えは解かない宵子。その光る両腕が何かしているのは間違いない。男は考えていた。
(当たらないのは何故だ......? 俺が集中力を切らしている? いや違う。発射の瞬間だけ何かが俺を乱すんだ。正体は分からないが......とにかく、あの女の能力は、弾除けとかバリアじゃない。正体はともかく、俺に干渉して狙いを乱す能力。それなら──)
「余裕カマしてるけどな、これならどうだ......? 」
男は指先に十個の氷塊を作り始めた。
「ウオラァァッ!!! 」
一つ一つは豆粒のような大きさながら、さながら弾丸のような殺意を持ったそれを、男は『狙いを付けずに』発射した。
大雑把に発射された十個の氷塊。それらはおおよそ宵子に向かって飛んでいき──
「うっ! 」
その一発が、宵子の左足に直撃した。
すみません、とてもじゃないけど三話じゃ話の区切りにならなかったので、番号に振り替えました。
多分五~六話になります。