"運"命の出会い 一
前・中・後編を予定しています。
→すいません無理でした。六話くらい続きます。
先の事件から二日後。やってきたのは月曜日。
今日からまた学校だというのに、洩雄は疲れを隠しきれずにいた。
理由は二つ。一つは、事件後の事情聴取による疲れ。無事解決したとはいえ、平和なこの町──巻野市にとっては前代未聞の事件である。その当事者である洩雄が警察からの質問攻めにあうのは、致し方ないことだろう。
そしてもう一つ。
「洩雄洩雄! お前あの事件に巻き込まれたんだって? 災難だったな、大丈夫か? 」
「大丈夫だよ、わざわざありがとな! 」
「拳銃持ってたんだって? 洩雄君よく生きてたなあ」
「撃たれそうにもなってヒヤヒヤしたけど、まあ、何とか生きてるよ」
「犯人、急に叫んで倒れたらしいじゃん。なんで? 知らない? 」
「急な腹痛のせいみたいだけど、詳しいことは分からないな」
ろくな刺激のない巻野市に、全国級のニュースが舞い込んだのだ。被害者の名前はもちろん伏せられていたが、どうにも世間は狭いもの。警官隊突入の映像に洩雄が映り込んでいるという噂は瞬く間に広がり、彼は朝からクラスメイトの質問攻めにあっていた。
「やっぱり怖かった? 」
「まあ、それなりに」
「あれ実際はモデルガンだったんじゃなかったっけ? 」
「警察からはそう聞いたよ」
「二人ともその辺のおっさんだったらしいよ」
「背格好はそんな感じだったな」
休み時間がやってくる度に、彼の席の周りはさながらバーゲンセールのような状態になる。初めはちやほやされていい気になっていた洩雄も、午後に入る頃にはいい加減うんざりしていた。
「よりにもよってなんで巻野銀行なんだろうね」
「知らん」
「近所だったんじゃない? 」
「かもな」
「誰かが超能力使ったって聞いたけど! 」
「それはない」
そうやって適当にあしらい続け、溢れる人の波から洩雄が開放されたのは、放課後、殆どの生徒が帰ってからのことだった。
「やっと解放された......。あいつら聞くだけ聞いて先に帰っちまうんだもんな、俺はこんな時間まで捕まってたってのに」
「辨野君? 」
「はいはい、今日はもう受付終了ですよ」
ぼやきながら教室を後にしようとする洩雄に、なお声をかけてきた生徒が一人。適当を吐きながら、洩雄はそれでもまあ、話しかけられたものは仕方ないかと振り向く。
「あら、それは残念ね。せっかくあなたが解放されるの待っててあげたんだから、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃない? 」
視線の先に立っていたのは、落ち着いた雰囲気の少女だった。
「射張さん」
「宵子で良いって言ったじゃない。災難だったわね。」
「他人事だと思って......俺も洩雄で良いよ。宵子は映ってなかったから黙ってればバレないんだな」
射張宵子。洩雄のクラスメイトにして、先の事件の「人質」、その一人である。元々お互い大した接点も無い「クラスにいる人」程度の認識だった二人は、一連の事情聴取を通して「知り合い」程度まで昇格していた。
「おかげさまで、私は平穏無事に過ごせたわよ。みんなそっちに行ってたし」
「少しくらい手伝ってくれても良かったじゃないか」
「嫌よ。ただでさえ疲れてるのに、余計に疲れるのが目に見えてるもの」
「丁度今の貴方みたいにね」、そう言って宵子は肩をすくめた。
「全く、宵子も居たってバラそうかと思ったよ」
「やってみなさい、二度と口聞かないから」
半分睨みつけるようにしながら、宵子は釘を刺した。思いのほか厳しい彼女の返答に、少し慌てた様子で「冗談だよ」と取り繕う洩雄。そんな彼を見て、宵子は軽く微笑む。
「こっちも冗談よ。貴方がそういう人じゃないって分かってる」
ほっとした様子の洩雄に、宵子は続けた。
「そんなことより、こんな所で話してたら本当にバレちゃうんじゃない。貴方とは打ち合わせておきたいことがいくつかあるの。家はどの辺り? 」
「それこそ銀行の近くだよ」
「じゃあ決まりね」
「一緒に帰りましょう、私もその辺り」
当たり前かのように発された宵子のそんな提案に、洩雄が戸惑うのも無理はなかった。
「えっ? 」
「あら、嫌かしら」
「いや、そうじゃなくて......」
『嫌じゃない』『寧ろ嬉しい』『でも恥ずかしい』『というかそれは事件バレよりもっと酷い誤解を生むんじゃ』、洩雄の脳内に突然そんなごちゃ混ぜの思考がやってきて、結果一つもアウトプット出来ず言葉に詰まる。
「ほら、行くわよ」
宵子はそんな洩雄の感情を知ってか知らずか、有無を言わさず歩き出した。