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うん、この力だ 後

隔日ペースで更新出来たら良いなあ

 ─────静寂。


 突然両手を上げた洩雄に一瞬怯んだ強盗と、乾坤一擲の能力、その効果を確かめようとする洩雄自身の間に流れた、ほんの一瞬の無音。その均衡を破ったのは、拍子抜けした強盗の笑い声だった。


「......クッ、ククク、お前、何をするかと思えば、たったそれだけかぁ!? 」


 余程おかしかったのか、洩雄に向けた銃口を外して腹を抱える強盗。事実、その視線の先にあるのは、ぼんやりと光る()()の洩雄の腕。


「ガキが何をするかと思えば......おおかた袖に電球でも仕込んでるんだろうがなあ! 大人はそんなことで驚いたりしねえんだよ、バーカ! 」


「......それはどうかな」


「強がってんじゃねーぞ! どの道お前は今から死ぬんだからな、命乞いでもしてみやがれ! 」


 命の危機に瀕して、なお誇りを失うまいとする洩雄の気概か、それともこの『悪』に対する最期の反骨か......いや、そのどちらでもなかった。洩雄が感じたのは、今までとは異なる感覚。


(これは......蛇口だ。蛇口のノズルを握ったときみたいな、そういう感じだ。今まで人間以外に向けて使った時にはなかった感覚。そして、このノズルがあいつと繋がっているのもはっきりと分かる......。きっとこれが()()()の正体だ......! ) 


「ほら、靴でも舐めてみろよ!そしたら見逃してやるかもしれないぜ、もっとも、お前が庇おうとしたあの親子は殺すけどな!」


 調子付いた強盗は、母子に銃口をちらつかせる。洩雄の乱入で一時は希望を得た親子の表情が、再び恐怖に包まれようとしていた。


(そうだ。あの親子を、ここの人たちを守るんだ。何が起こるか分からない......分からないが、直感に従うならば、これは()()使()()! )


 それは半ば確信であった。魚が泳ぐように、鳥が飛ぶように、人が呼吸をするように。生来の能力(ちから)であるかのような手つきで、洩雄はその『ノズル』を思い切り緩める!


「ほら、やれって言ってんだよ! 」


 そう言って洩雄に足裏を押しつける強盗。────その動きが突如止まった。


「......グッ......マジかよ、こんな時に......」


 明らかに様子がおかしい。急病にでもかかったように、強盗は体を丸くしてうずくまる。


「おい、どうした! 大丈夫か! 」


 カウンターの向こうで金を詰めていたもう一人の強盗が、慌てた様子で声をかける。それに返事も出来ない程、強盗には余裕がなかった。


「ウグゥ......嘘だろ、緊張したせいか......いや、さっきまでそんな予兆は無かった......テメエ、何かしやがったな......? 」


 洩雄は答えない。いや、洩雄自身何が起こったのか分かっていない。その使い方には確信があったものの、結果何が起こるのかは未知数であった。なおも悪態をつく眼前の悪党は徐々に顔を赤くして、何かを必死に我慢しているようである。


「お前許さねえぞ......いやそれどころじゃねえ、トイレだ。トイレはどこだ......? 」


「こんな時に何言ってんだよ! 後にしろ後に、今はそれどころじゃねえだろ! 」


 相方の強盗が、至極真っ当なことを言う。しかし当人にとっては『それどころ』じゃ済まない。金なんかよりも重要なことが、そこにはあった。


「トイレだよ! トイレ! このままじゃ俺漏らした上に逮捕されちまうんだよ! そうなったら本当に終わりだぞ! うっ......とにかくお前ここ抑えてろ! 」


「何馬鹿なこと言ってんだ! お前がトイレ行った途端にサツ共が突入してお縄だよアホ! 」


 話の分からない相方に、強盗は全力で吠える。


「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!!! 」


 ────そしてそれが彼の最期の言葉だった。


「あっ......ああああああああああああ!!!!!!!!!! 」


 絶叫して倒れ伏す強盗。唖然とし立ちすくむその相方......。その場に漂う臭気は、彼が()()()()ことを否が応にも訴えかけてくる。まさしく地獄絵図だった。


『何か知らんが、犯人が倒れたぞ! 』

『今だっ! 突入! 突入! 』


 拡声器を通してそんな声が聞こえると同時に、警官隊が雪崩れ込んでくる。

 それを見てもなお微動だにせず、一言も発さない二人。最早彼らには抵抗する力も、気力も、残されてはいなかった。


「二時三十六分、容疑者確保」


 呆然としたまま、あえなく逮捕となる二人。


 現場には、形はどうあれ緊張から解放され安堵する人質達。

 事件が無事解決し胸をなでおろす警察。

 誰もが無残な強盗の姿に動揺はあったものの、あまりに常軌を逸した出来事だったからか、「たまたま漏らす、そういうこともあるだろう」と無理矢理状況を飲み込んでいた。


 それから一拍おいて。


「よくやったな!キミのお陰で無事に犯人確保できたよ! 」

「ありがとう、あなたが助けてくれなかったら、今頃この子も......」

「キャッキャッ」


 彼らの賞賛は「勇敢にも母子を守ろうと犯人に立ち向かった少年」に贈られたのだった。



 じゃあ、当の本人はというと。


 強盗と同じくらい、いやそれ以上に呆然としていた。自分が緩めた『ノズル』の正体に気付いてしまったからだ。


(炎が出るとか、風を起こすとか、人にしか使えないにしても動きを止めるとか色々あるじゃないですか......)


『町を守れ』と渡された能力が『うんこを漏らさせる』力だったのだ。誰だってそりゃそうなる。


 万感の思いを込めて、彼は一言だけ呟いた。


「そりゃないぜ......神様......」




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