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99話

再び、私達の周囲に結界が張られた。

同時に目が回る様な虚脱感にまた襲われる。


(……大丈夫か?この結界…)


私のありったけの魔力を使って、一度目の結界を張ってから、半日程しか経ってない。

魔力の自然回復にどれだけ掛かるのか知らないが、仮に一晩で全快すると仮定しても、半分程度しか回復していない筈だ。単純に考えるなら、一度目に比べて、半分の強度しかない気がする。


『…あー。この結界は、言ってみれば魔力の膜だ。解除の時に再度吸収すれば、それほどロスはねぇよ。』


(な、なるほど……。)


一を尋ねたら十が帰って来た。

最も、尋ねたつもりはなくて、思わず溢れ出ただけの言葉だったのに、勝手に分かったような顔で、さも当然みたいなアデルがうざい…まぁ、今回に限っては、言い当てられてしまったので、返す言葉もないのだけど。

なんて、私がしてもどうしようもない心配をしていると、老人二人が騒ぎだした。


『ほれ、早くせい。』


『待て!ぬしはさっき経験したじゃろ!!次はわしの番じゃ』


『何を言いよるか。二度経験する事で、より深い体験を語ることが出来るのじゃぞ!』


マゾヒズムと言っただろうか…たぶんそれとは別なんだろうけども、我先に痛め付けて欲しいと、競う老人二人に、控えめに言ってもドン引きだ。


『まぁまぁ、慌てないでください。限られた魔力なんですから、先程よりも軽い痛みに成ってしまっても困るでしょ?そうですね。もう少し魔力を分けて貰えたら、右から左へ横薙ぐ様にお二人共切り付ける事が出来るかもしれません。』


罵り合いにまで発展しそうな醜い争いを、にこやかにジェズが仲裁した。話の内容的には、とてもにこやかに言う言葉じゃないと思うのは、置いておこう。


『『おぉ。それは良い考えじゃ』』


ユニゾンで、尚且つ、鏡写しのように老人二人が手鼓を打つ。


『其奴がもつのもあと一回が限界じゃろうし…』


何てことを言いながら、老人二人は再びカストに魔力注ぎだす。………競い合うように……。


(……なぁ。)


『ならねぇよ馬鹿。最大限に希望的観測値を入れて計算しても、あいつ等の腕一本分消滅させられたら上出来だ。』


調子に乗った老人達が、このまま自分達を消してしまう程の魔力を注入するなんて事が……無いと思いつつも、口に出しかけた所で一蹴される。


(まだなんも言うてへんのに、勝手に決めつけて流れる様に馬鹿呼ばわりするな、アホ……)


聞こえてる事は分かりつつも、精一杯の小声でそんな悪態を返した。



「なぁ…ノエミ…だよな?」


横から掛けられた声に、ハッと思い出す。

アデルから身体の主導件を奪い取り振り向くと、状況が全く理解できてないであろうチェリオが、まだ、愛想笑いを浮かべている。


「そやった。チェリオ!こんなとこで何してんの!?」


目を丸くして驚いている私を見つめて、チェリオは目を丸くして、大きく息を吸った。


「忘れてたんかい!こっちが聞きたいわ!今日は遅めの出勤やからて三度寝こいてええ加減ヤバイなおもてトイレ向かってズボン下ろそ思たら草原やんけ?なんやねん?って叫ぼおもても声でぇへんし足動かんしパニックに成ったろかおもて覚悟決めたら目の前に妹出てくるしやっと足動いたノエミに事情聞いたろおもて近付いたらなんかキャラ変わってるし挙げ句なんやあれ?見たことあるような人が透けて見えるし…で…これ、どんなドッキリやねん!!!」


「おぉ。一息でよう言えたな」


詰まることも噛むこともなく、一気に捲し立てたチェリオに、パチパチパチと称賛の拍手を送る。


「いゃぁまぁ、言葉は商人の武器やからな。…とか言うてノリツッコミする思たかアホ!…………取り敢えず事情説明してくれ…」


「やってるや……」


そこまで言いかけて、チェリオの耳が真っ赤になってる事に気が付いた。本人の意思を無視して出てきたノリツッコミに、恥ずかしくて堪らないんだろう……(借りにしといたるわ。)そんな言葉も飲み込んで、チェリオの疑問に答えてやることにした。


「とは言っても……ごめん。私にもなんであんたが居るんか分からん。」


ガクッとチェリオが、膝から崩れ落ちる振りをする……。先程の様に、これが無意識なんだとしたら、兄の行く先が心配だ。

私の冷めた視線に気が付いて、チェリオは顔まで真っ赤にした。


「ハハ……」


私は、乾いた笑いを溢しながら、ジェズに(説明しろ)と、視線を送る。

視線に気が付いたジェズは軽く頷き、私と老人達の間、両者が見える位置まで移動すると、口を開いた。


『うん。これからやる事の説明ついでに経緯も説明していこうか。』


「ついでか…まぁええけど。」


ジェズの何気ない言い回しに、チェリオは諦めた様にそう呟く。

まぁ、いきなりトイレから転送されたチェリオにとっては、余りにも扱いが悪くないかと考えるのも無理はない。

そんなチェリオの気持ちを理解しているのか、していないのか 、ジェズは穏やかに微笑んだまま話を続けようとしていた。


が、


「ちょっと待った!」


ジェズの言葉が音になる前に、それを遮る。


「チェリオ、トイレ行こうとしたらここに飛ばされたって言うたよな?」


「ん?そやぞ。」


「…大丈夫なんか?」


「ん?なにが?」


「なにがて、あれやん……トイレ……話が長なるんやったら、出すもん出さんと。」


そんな私の気の利いた言葉に、皆の視線がチェリオに集まる。


「…………流石に引っ込んだわ…。」


「あっそっか、ならええんや……。ってか、チェリオ!!」


『今度はなに?』


再び張り上げた私の言葉に、何故かジェズが反応した。


「な、なんでそんな怖い声なん…」


先程の恐怖を彷彿させる、怒りが伝わるジェズの声だ。

視界の端のチェリオが、一歩下がる。


『……いや、怒ってる訳じゃないんだよ。こう見えて結構緊張しててね…余り脱線はして欲しくないんだよ。でもまぁ、時間が無い訳じゃないからね、下らない事じゃ無いなら先にどうぞ。』


下らない事じゃ無いならと言う言い回しに、若干の引っ掛かりを感じる。

でも、この空気で下らん話するかいな。

なんて言葉は出せそうに無い程、ジェズが纏う空気はピリピリしてる。

いっそ見て見ぬふりして、やり過ごそうかとも考えたが、根本に関わる事だと、勇気を出して言ってみる事にした。


「チェリオ、ジェズの姿見えてるん?」


「お、おぅ。てか、始めにチラッと言うたよな?今更?まぁええけど…それも含めて説明してくれると,期待してるんやけど…。」


チェリオはそう答えながら、私の肩越しにジェズを伺う。

ジェズは、少し穏やかな雰囲気で軽く頷いた。

そしてこの言葉だ。


『ノエミ、もう満足出来た?』


なんも解決してへんのに、満足もくそも無いやろ!

とは、やっぱり言えない空気…

さっき迄は順調に、一を十にしてくれてたアデルも、黙りで使えない…

チェリオは別として、誰も不思議に思わないのか?

なんなんだろう、この、蚊帳のそと感…

全力でアデルを睨み付けるイメージで。

渋々なのがバレないように。

大きく1度、頷いた。


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