97話
『―――じゃあから…そうではないんじゃ……。痛みというのは、もっとこう……』
「―――普段馬鹿にしてる私に知恵貸してくれ-って、泣きついてきたんはあんたやろ!」
『―――身が裂かれるって何じゃ、その裂かれる身がないから聞いておるのじゃ。』
『―――泣きついただと!?…たまには役立たせてやろうとしただけで勘違いしてんじゃねーぞ!』
本当は、今にも消えてしまいそうなカストの心配とか、しなくちゃいけない事があるんだろうがなんかもうグダグダだ。
『えぇぃ。ラチがあかんわ!』
「あかん、ラチがあかん!」
『きさん!もう一度やってみせい!』
「カスト!あんたはどう思う?!」
そんな感じで、しばらく忘れられていたカストにようやく皆の注意が注がれた。
老人は振り向くと、カストに向かって手を伸ばし、陽炎の帯のようなものをカストに繋ぐ、すると、カストの姿がみるみる濃く成っていく。
何が起きているのか混乱する私の視界の片隅に、半透明のジェズアルドがいた気がした。
「ん…?ジェズ……?……ってか、それどころちゃう。アデル!あんたが喧嘩売ってきてる間にカストヤバかったんちゃうの?!!ってか、色濃くはなったけど、カスト何かヤバイもん注がれたんちゃうやろな?なんや?これはあれか?敵に塩贈られたって、安心して良いやつなんか?!」
『塩?わしゃ魔力しか送っておらんぞ?』
「うるさい!あんたには聞いてへん!!」
感情が高まっていたのも手伝って、また大混乱だ。
『ノエミ!』
『ヒョッヒョッヒョッヒョッ。煩いとはこれまた元気な小娘じゃ』
「小娘ってなんやねん偉そうに!」
『ノエミ!!』
『偉そうも何も、百も生きとらん小娘に、小娘と言って何が悪い』
『ノエミ!!!』
「百歳も二百歳も関係有るか!初対面の人間に向かって小娘って何やねん!せめて名前で呼ぶのが礼儀やろ!!!」
『ノエ…』
「うるさい! だいたいあんたが何年生きてるんか知らんけど、その程度の礼儀も知らん歳の積み重ねなんか、何の役にも立たないんでちゅよ~」
『ノエミさ~ん…』
『ヒョーヒョッヒョッヒョー。やるの小娘!数千年ぶりにイラッとしかけたもんじゃ』
「しかけただけか!!ってか、まだ小娘呼ばわり続けるとか、長生きしすぎて、脳みそスカスカになってるんちゃうか?」
『お~い、ノエ…』
『ヒョッヒョッ、レッカスル脳みそなんざ持っとらんワイ。だいたい仕方無かろうもん、自己紹介された覚えが無いもんでの。』
『ノ……』
「いや、散々私らの会話聞いてたやろ…まぁええ
わ。しっかり聞きや。私の名前は」
『ノエミ!!!!!』
「正解!!………って、ジェズ?……どないしたん?」
大陸横断クイズの司会者張りに、ビシッと指差した先には、瞳を潤ませたジェズが立っていた。
『……どないしたん?って、それだけ?』
零れ出しそうだった涙は一瞬で引っ込み、ほとほと呆れた顔でジェズが訪ねる。
「それだけ?ってなんやな?…………あぁ。なんかジェズ…こんなん言うたら悪いけど…ちょっと透けた?」
『え?あぁ。そうだね、少し透けたかもしれない……って、それだけ?』
「それだけ?って……」
『おい、小娘。』
「だから、小娘ゆーな!」
懲りずに小娘呼ばわりする老人に指を差し替える。
『名乗りの途中で話を変えるのは、礼儀にそぐうのか?小娘よ』
「…ゥ、返す言葉も無いわ……ごめんやで。よう聞きや、私の名前は」
『ノエミ!!!』
「正解!!…って、またジェズかいな。」
喪○福造張りに、ドーンと指を指した先には、怒りに震えるジェズがいた。
「……ど、どないしたん?そんな怖い顔して…
って、えええええええええっ!!!」
『…今度はどうしたの?』
私の突然の叫び声にジェズは一瞬驚くも、今度は、とたん諦め顔で尋ねてきた。
コロコロと百面相を決めるジェズに、普段なら吹き出していたかもしれないが、今はそれどころじゃない。
「どうしたんの?ってあんた…本気か?」
『何がだい?』
「何がとちゃうやん。だって…あんたさっきバーンって……えええええええええ!!!??…………生きかえっ……た?」
『はぁ………今さらか!!』
呆れ顔からまたまた一転。ジェズは何もかもを吹き飛ばす勢いで手の甲を振り抜いた。
「あかんでジェズ。似非マテラ弁はイラッとする……。でも…」
手の降りは、タイミング、勢い共になかなか良かったよ。
なんて言葉を続けようとした瞬間、ゾクッと背筋に悪寒が走る。
『ノエミ…頼むから話を聞いてくれるかな…』
唸るように言葉を絞り出すジェズの圧力に押されて息をひと飲み。ジェズの周囲の空間が歪んで見えた…。
(えぇぇ、なんでそんな怒ってんの……)




