95話
時間軸を一次元として、縦横高さの軸が存在するこの四次元世界に私のような生命があるように、例えば高さの軸を省いた3次元世界にも生命があり、自分や老人達はその次元の住人なのだとアデルは言った。
通常、次元が異なれば存在を認識するのは不可能で、私がそれを出来るのはとても稀なことなんだと言う。
そうは言っても、鏡に映った像は二次元(3次元)なんじゃないの?なんてことが頭の中によぎったが、私が言葉に出すよりも先に、質量を持たない光はどの次元にも属し、属さない物なんだと諭された。
詰まるところ、鏡像は三次元だが、三次元世界では無いと言う事だとかなんとか……
だけどまぁ、そういった擬似的な3次元を体験しているからこそ、私みたいな波長の合う人間が生まれる事が有るらしい。
波長と言うとなんだか大げさに聞こえるが、砕いて言うと、霊感があると言うのがそう言うことなんだろう。と言うのがアデルの見解だそうだ。
そんな前置きを念頭に置いて、二人の老人が生みの親だということが、どういうことなのかも教えてくれた。
3次元世界の住人には、生殖行動なんてものは存在せず、親と言える存在は一人であったり二人であったり、極端に言えば数百人であることもあるそうだ。
もう少し詳しく説明するなら、アデル達は形を持った魂みたいな存在で、その魂は新陳代謝する。
その行程で破棄された魂の欠片が、空間の中で混ざり合い、偶然何らかの条件を満たした時、意思ある魂として誕生するそうだ。
その条件がどのようなものなのかは一切解明されていないが、アデルが誕生した空間には長い年月この老人二人しかいなかったため、親だと言われるのを否定できない理屈になるらしい。
(結局のところアデル達は神様なんか?)
『さっきは、勢いでそう言っちまったが実際はそんな大したもんじゃねえ。』
解ったような、解らないような顔で尋ねる私に、アデルはコメカミを掻きながらそう答えた。
3次元世界の住人は、一部を除いたほとんどが四次元世界の存在を知らずに過ごしている。先にも聞いたが、次元が違えば認識し合えないのが当然のことだからだ。
では、四次元世界を認識できるアデルや老人達は何なのか? なんの事はない、三次元世界の霊感豊かな存在が、この三人だと言うだけだ。
古来より、そういった者達の一部が、波長の合う四次元人に声を届け、時には同化して魔法と言う名の奇跡を起すと、神様が出来上がる。
老人二人は、アデルが誕生するずっと前から、知的生命体のいる星で神を詐称して遊んでいた。
私のみたいな彼らが同化できる存在は、長い寿命を持つ彼らにとっても珍しく、直接大掛かりな奇跡を起こすなんて事はめったにできなかったが、声さえ届けば、与える知識で操作は出来る。
互いにキャラクターを選んで、立身出世を競い会う訳だ。
アデルは、そんな遊びの先にある、娯楽のための戦争が何よりも嫌いだった。
それでもいつか、自分達が唆されている事に気づいてくれるだろうと、100年、1000年と見守り続けたが、誰もが戦争の愚かさを理解するほどに社会が成熟したにも関わらず、されるがままに争い会うこの星の生命から目を反らして旅に出た。
そうして何年も彷徨い、たどり着いたのがこの星だ。
その時すでに、この星には知的生命体の種が芽吹いていた。それが、アデルが以前言っていたエルフやドワーフ、獣人といった亜人種族の者達だ。
生まれ育った親元の星の知識を使い、バラバラだった各種族をまとめ一つの国を作り上げた。
小さな争いや、犯罪が完全に無くなったわけではないが、安寧と呼べる社会がが長く続いた。
しかし、私たち人間の誕生によって、それは脆く崩れ去る。
人間の誕生は、二人の老人による作為的な物だった。元の星でそれぞれの器になりうるつがいを見つけ、この星に運び込んだ。
長年二人で遊んできたが、いい加減相手の手の内も見え見えで…次の遊び相手を求めて、アデルを追ってやってきたのだ。
『か…神様…まるで僕ら人間は、この世界の本当の住民を滅ぼすために作られたように聞こえるのですが…それもそれも、あなた方の娯楽のために………。』
心霊写真でももっと自分の存在アピールしてるで?
思わずそんなツッコミを入れたくなるほど薄く薄くなっているカストが、弱々しく尋ねるが
『ん?間違っちゃおらんぞ』
『うむ。間違っておらん。』
悪びれない二人の答えに、存在感を取り戻し始める。
『……っ、なぜ、我々が原生種だと…魔王や亜人達か侵略者などと嘘のを?!!』
そんな言葉を吐き出し終ると、元通りとまではいかないが、かなり色濃い姿を取り戻していた。
『『ん??』』
『僕は人間を侵略者から守るための勇者では、なかったのですか?!』
『亜人を屠り、人間達を反映させる為の勇者じゃな。』
『先住者を滅ぼし我々だけが反映するなんて……そんな正義がどこにあると言うのですか?!』
『どこにも何も、成し遂げたのは貴様じゃろぅ。』
『くっ…………亜人達が侵略者だと……そう…信じて居たから……』
『お陰で、存分に剣を触れたじゃろぅ』
項垂れるカスト。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、カストを見下す二人の老人。
『クッ………ぅぉおおおおおおおお!!!』
項垂れながらも、カストは大きな唸りを上げた。




