94話
雲ひとつ無い青空、そよそよと風が髪を揺らす。陽射しは、熱くもなく寒くもなく、程よく優しく暖かい。
毛足の短い草がふかふかと足下を包み込み、眠気を誘う。
非の打ち所のない、絶好のお昼寝日和なのに…尚も続いている睨み合いに、終わりが見えない。
見つけるすら叶わなかった敵を捉えた。更に今は、カスト次第だとは言え、奴らにダメージを与える術がある。
こんなチャンスは二度と来ない…。
そんな言葉をアデルは強く吐き出しす。
とは言え、実際のところはチャンスと言える程の状況にはない。
今のカストにそんな余力は残っておらず、失った魔力が全快するには、半年ほど必要らしく、幾らかの非常食は用意してるが、節約に節約を重ねて、一週間持てば上出来だろう。
奴らをどうこうする前に、私の命が尽きてしまう。
更には、仮に全快したとしても、カストの魔力量では、致命傷は愚か、深手すら与えられないと、老人二人は歌う様に嘲笑っていた。
笑われるがままにされているアデルを見る限り、嘘と言う訳でもなさそうだ。
詰まるところ、鼻先にぶら下げられた人参で、小脇にマヨネーズが添えられていたとしても、食べる事は叶わない…そんな状況だ。
結果、ようやく出てきたアデルの言葉は、
『だから知恵を貸せと言っている』
『どうしようもない状況に見えても、強い意思で乗り越えるしかねぇ』
なんて、根性論……カストみたいな台詞を言い出す始末。
考えろと言うなら考える。アデルに協力すると決めたところで私にできるのは、端から身体を貸すくらいなんだから、浅知恵が役に立つなら幾らでも絞り出してやる。
とは言え、この手札であの二人を倒すなんて、どれだけ楽観視してもイメージがついてこない。
流石に、私が飢え死にかける頃には諦めてくれるだろうけど、言い換えれば、餓えることが確定している気がして気が重い………ご飯にしよう。
悩んでいても仕方がない。
気分が変われば意見も変わる。
未来の私に想いを託して、今の私は腹を満たすべく座り込む。
一瞬目を見張り、直ぐに呆れるようにため息をつくアデル。
それを見て、光の中では見失いそうに成る程透明度が増したカストが続いて座り込むと、対面に、老人二人までも腰を下ろした。
カストは相当に余裕が無いようで、座る仕草の位置が合わずに、腰から下が地面にめり込んでいた。
図らずも、赤黒い水溜まりを囲み円になった。
ローブから取り出した非常食のクッキーを頬張りながら見回すと、なんだかピクニックでもしているみたいに見えないこともない。
見回すついでに老人達と目が合うと、ニヤリと笑って、こちらの方をチラチラ見てはひそひそ話し、腹を抱えて笑いだす。
コメカミの血管をピクリピクリと痙攣させながら、よくもこれだけ神経を逆撫でられるなと、冷静な私が心の隅で感心してる。今すぐにでも「やかましい」と叫びたいところだが、他でもないアデルが 『害はないから放っておけ』 と言うので耐えるしかなかった。
…………なんて事も当然長くは続かない。
『ひしょひしょしょしょ』
いやらしく、横目で笑う老人達に、半刻も持たずにアデルがブチギレた。
『黙れ貴様ら!!!!!!』
叫び、立ち上がり、右腕を薙ぐように振ると、座る二人の尻元が爆発する。
大量の土砂が、吹き出すように高く高く舞い上がる。
何らかの制御はされているんだろう。砂埃一つ漏らすことなく、直径2メートル程の土柱が誕生した。
『クソッ!』っと、地面を蹴りつけたアデルが座ると同時に、土柱は崩れ、小さな山を築く。
『ひょっひょっひょっひょっひょっ。親を土に埋めるとは、なんたる息子か。』
『まったく。ひどい息子じゃ』
一粒の砂も崩さず、土山の中から浮かび上がってきた老人二人は、山の頂に座ってそんなことを言った。
『うるせぇ!黙れ!!』
目を反らし、そう言って不快感を表すだけのアデル。
(………アデル? 息子じゃねぇ!とか言わへんの?)
『うるせぇ!言って事実が変わるなら幾らでも言ってやる!』
(えっ?!)
私は、老人二人を凝視する。
ニヤニヤと腹黒さが滲み出るような笑みを崩さない二人のお爺さん。
(…へぇ……なかなかに歳の離れた親子やねんな……)
『……気にするのは先ずそこか?』
(あ、いや…面影ないけどどっちが父親なんかなってのも気になるで?)
『……だから、先ず聞きたいのはそれなのか?って言ってんだ。』
(あ、うん。興味はあるな。)
『……。 まぁ、お前がそれでいいならいいが……両方だ。』
(え???あぁ…養子みたいなもんか。)
『……だったら良かったんだがな……不本意だが、奴らが実の親だ。』
「ええええええええええええ????!!!」
すっとんきょうな私の叫びが、草原に響いた。




