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92話

慌ただしく暫くの時間が流れた。

私の足下には意識を失ったジェズの身体が地面に転がっていて、その少し上にジェズの身体から出たカスト浮いている。


さっき眼の前からカストが消えた様に見えたのは、アデルが瞬間移動したためだった。

どういう理屈かは知らないが、魔法陣も予備動作もなく瞬間移動を繰り出すアデルに、カストは為す術なく敗れ去った。

アデルはカストにダメージを与える術を持っていないが、突然死角から現れる攻撃に、カストの防御はほとんど間に合わず、ジェズの肉体は何度も何度も傷つけられた。

結果、カストは回復魔法を繰り返し使い続けることに成り、反撃らしい反撃も出来ないまま、ついに魔力が底をついたのだ。

厳密に言えば、アデカスの存在は魔力を媒介にこの世に魂を繋ぎ止めているような物なので、本当の意味で空というわけではないのだけど、魔力を失い過ぎたカストの身体は所々消えかけていて、後が無いのは素人目にもよく分かる。


『何故だ…何故勇者である僕が勝てないんだ…僕に宿るのは、この世界を作った神様の力だ。何故魔王でしか無い君が、僕の力を凌駕する…』


何を見るわけでもない、死んだ目でただ立ち尽くすカストは、涙と一緒にそんな言葉を零す。


(ま、まぁ、勝負事には運も有るやろ?これで1勝1敗やん。次勝てるようにまた努力したら良いやんか)


カストの言葉にアデルは何の反応も見せない。沈黙が居たたまれなくて、私は無謀にもカストを慰めようと試みるが…


『気安い言葉はヤメてくれ…僕が得た新しい力は、歴代勇者のすべての魂を取り込んで得た力だ…それでもアデルという壁には届かなかったんだ…』


以前棒立ちのまま感情の起伏すらなく、只そんな言葉を返されてしまった。


(いや…せやけど…えっと………)


ヤッパリ止めておけば良かった…一つ言い返されただけで、なんの反論も思い浮かばず、目を泳がせるだけの私。

そんな私とカストの間に流れる空気を無視してアデルは、


『魂を取り込んだってのはどう言う意味だ?!』

 

なんて好奇心に眼を輝かせた。

カストはそれをチラリと横目で見ると、『フッ』と小さく息を吐き、よくよく見れば分かるレベルで薄く笑う。


『そのままの意味だよ。勇者たちの魂を中に入れ、混ぜ合わせて吸収して、僕の力に変えたんだ。』


『………お前、それがどれだけの事か分かってんのか…』


望んでいた答えと違ったのだろうか?アデルは一転、蔑むような目でカストを見つめた。


『分かってるさ…この世界の魂の総数は常に一定。通常、死ねば何らかに生まれ変わる魂を、僕は完全に消滅させたんだ。』


『何も分かってねぇじゃねぇか、この腐れ勇者!お前は、定数で成り立つ世界のバランスを崩したんだぞ?それも勇者の力を与えられるだけの巨大な魂をだ!』


『そんな大袈裟な…』


『大袈裟じゃねぇよ。考えてみろ、数えきれない程の宇宙の星に、一体どれだけの生命がいる?単純な確率だけを見ても、いかに奇跡的な確率か分かるだろ。どれだけの数の偶然が重なって生命が維持されているのか、それすらも考えずになぜ大袈裟と言い切れる?』


『ッ……バカな…だったらこの先どうなるのか、君には分かってると言うのかい。』


『いや、どうなるかは分からねぇ。明日この星が砕け散るかも知れねぇし、何億年か先に些細な変化が起こるだけかも分からねぇ。しかし、一つ確実なのは、未来に不安の種を残したのは間違いないな。』


カストはアデルの言葉に下唇を噛むと、地面を睨み付ける様に暫く俯いていた。


暫くの沈黙の後、顔を上げたカストが吹っ切れた様に言う。


『…………成る程そう言うことか。 未来に不安の種を残した何て事をでっち上げて、僕達勇者に対する信頼を損ねようとしているんだね。考えてみれば可笑しな事さ、勇者達との融合は神様の力添え無しには成し得なかった事なんだ。世界のバランスを崩しかねない事を、神様がさせる筈無いじゃないか。』


『だから分かってねぇんだよ。あいつらがそんな事を気にする筈ねぇだろ!』


カストに返したアデルの言葉は、苛立ちをそのままぶつけた様に荒々しい。

こうなってしまうと、後は売り言葉に買い言葉だ。

カストは勇者の力を与えてくれた神様を貶されたからか、見たこと無い程に激昂した。


『今の言葉を取り消せ』と、殴りかかりながらカストが叫ぶ。

アデルは避けるそぶりも見せずに、素通りしたカストに向かって、『取り消す必要は無い』何て言い切った。


『魔王如きが神と対等のつもりか!』


『対等もなにも、奴等はこの世界では俺以下だ。』


『巫山戯るな!!代行者である僕達が敗れたのは事実だか、それでお前が神を超えた事になるとでも思っているのか!!!』


『思うも何も、打つ手が無くなったから、魂の融合なんて禁じ手を使ったんだろ?そもそも俺より力が有るなら何故直接俺を倒さないんだ?』


『クッ……』


『そもそもな、お前は昔から俺を悪だと決めつけてるが、俺が一体何をした?』


『何をしただと!?何度人類の繁栄を阻んで来たか、それすらも誤魔化そうとするのか!?』


『阻んで来た…か。教えてくれノエミ。先住していた獣人やドワーフ達を力で追いやり、自分達の都合だけを繁栄と言い切る人類がこいつ等だ。それを阻んで来た俺は悪なのか?』


(えっ……?)


『騙されるなノエミ。亜人達との戦いの歴史は事実だが、それは魔王の手下として人類に害を成してきたからだ。差し伸べた手を払い除け、共存の道を閉ざしたのはこの魔王だ。』


『何が共存だ…種族の風習や習慣なんかも全て無視して、お前らの価値観を押し付けただけだろ。』


『比率を考えろ!圧倒的少数の意見を通していたらどれだけ社会が混乱するか、考えたら分かるだろう!!』


『そうしたのは誰だ!!!…』

           (まった!まった!まった!一回落ち着け二人共。………アデル。亜人達が先住してたとか言ってたけどホンマなん?)


『嘘に決まってる!亜人は、偏った魔力溜まりの影響で生まれた人類の変異種だ。』


(うん、私もそう習ってる。せやけど、ちょくちょくアデルが気になる言葉言ってて……こう言うのもなんやけど、なんか証拠みたいなんて有る?)


『証拠か…流石に証拠は用意できねぇが、証人ならここに居る』


(えっ?)


『お前ら風に表現するなら、この星の神は俺だからな』




ブクマ有難うございます。

まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。



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