91話
粉塵の中から再びカストが現れる。
アデルは素早く飛行して、粉塵の届かない視界の良い上空に移動した。
『驚いた。見てるかノエミ、あの馬鹿が空飛んでるぞ? 2000年練習しても出来なかったのに、この短い期間に何があったんだ?』
眼下で、ぎこちなく空中を漂うカストをみて、アデルは驚きと関心を混ぜ合わせていた。
『魔力の調整が出来無い僕だったけど、ちょっとしたコツを掴む機会が得られてね。何かを出来る様に成る瞬間は、何時だって急に見えるものさ。なかなか君の様にうまく飛べないけどね。…でも知ってるかい?魔力の微調整が可能になると、例えばこんな事ができるんだよ?』
そう言ったカストの右手に半透明の青い板が現れた。
カストはその板を支点に身体を引き上げ、踏み台にして蹴飛ばすと、ものすごいスピードで迫ってくる。
アデルが避けると、通り過ぎた先で再び青い板の足場を作って跳ね返るように飛んでくる。
『どうだい?飛ぶのが下手でも、工夫すれば結構いけるだろ?』
軽々とアデルに避けられながらも、カストは少し得意気に周囲を何度も跳び回っている。
(そんなんどーでもいいねんアホカスト!!!)
突然叫んだ私の言葉に、カストはビクリと動きを止めた。
(訳の分からんこと言いながらいきなり襲い掛かってきて、挙げ句躊躇無しに私の足斬ったやろ!!!何をはしゃいでるんか知らんけど、先ずはキッチリ説明しろアホんだらぁ!)
足場に掴まりながら、固まっていたカスト。
『ノエミ…少し見ない間に益々ガラ悪くなったね…』
そんな事を呟きながら、再び足場を使って跳び周りだす。
『とにかくノエミを救うためには、二人の命を同時に断つ必要が有るんだよ』
すれ違い様にそれだけ言って、カストは跳び回る速度を上げていった。
さっきまでよりも、すれ違いざまに振られる剣圧が強くなってきている。
20枚近い青い板が、私を囲むように設置されていて、カストはそれを目指して飛ぶだけなので、跳ね返る速度が向上している。
さらに時折、新しい足場を作って変化を加えたりするものだから、アデルに最初ほどの余裕はすでになく、防壁なんかも駆使しつつなんとか攻撃を凌いでいた。
『邪魔くせえな…』
アデルはそう言って、囲みを抜けようと移動し始めるが、カストの跳躍がアデルの飛行速度を上回るため、すぐに回り込まれてしまい、厳しい体制での回避を強いられていた。
『無駄だよ。』
そう言いながら、カストは再び動きを止めて、じっと私たちを見つめる。
悲しそうな、だけど強い意志を感じる目だ。
アデルは、それを隙きと判断して、白い光の玉を頭の上に作り出した。
何度も目にした、無数の光?雷?の矢を放つ魔法だ。
(それは!…)
流石にやり過ぎだろうと叫ぶまもなく、カストが距離を詰めてくる。
アデルが再び距離をとると、残された白い玉はカストに斬られ、光る矢を放つ事なく霧散した。
カストはその勢いのまま跳ね返り、アデルに向かって真っ直ぐに剣を突き立ててくる。
かつて無い程距離が近い。
私が思わず眼を瞑った瞬間、”グキャン”と鈍く乾いた音が響いて、薄目を開けるとアデルの防壁がすんでのところで剣を阻んでいた。
拮抗する剣と壁、しかし直ぐに防壁はぐにゃりと歪み、砕け散ると同時にカストも剣を引いた。
『もうわかっただろ、君に勝ち目はない。これ以上はノエミに不要な痛みを与えるだけだ。無駄な抵抗はやめて大人しくその命を差し出してくれ。』
絞り出すようなカストの言葉は、できればアデルを殺したくない本音の部分をちらつかせながらも、勇者としてアデルを殺さなくてはいけない義務を、押し通す覚悟が込められているように感じられた。
なんとも不器用なその姿に、掛ける言葉につまってしまう。
『すげーな…大したもんだ。この5000年、俺を追いながらもズット努力を続けてたのは知ってるからな。俺にとってお前は、何時までも付き纏う鬱陶しい奴でしか無いが、この瞬間だけは素直に、良かったなって言ってやれるぜ』
それに返したアデルの言葉はこんな言葉だった。
カストも驚いたんだろう。キョトンと一瞬固まり、暫くして少しさみしげに笑った。
『ありが…』
『だがなカスト。成長はお前だけの物じゃ無いんだぜ?』
カストの言葉を遮って、アデルはいつもの調子でニヤリと笑う。
『お前みたいな無才な奴が、魔力の調整を覚えただけで空を飛べるなら、この俺が微調整出来るようになったらどうなると思う?………答えはこうだ。』
アデルが言うと同時に、私の目の前からカストが消えた。
私は意味が分からず辺りを見回す。
(いた!)
私の足元。300メートルは離れた先に、キョロキョロと忙しなく周囲を見回すカストが見えた。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




