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88話

『……………。』


(……………。)


ノヴァリャ聖国軍が陣地としていた街の奪還はローモス軍に任せ、ノヴァリャ聖国の首都を目指す。


覚悟していたとはいえ、なんとも言えない後味だ。

襲撃を受けた人達のかたきは取ったと手放しで喜ぶことも出来ず、かと言って虐殺したことを詫びる気も起きない。そんな私の心中を察してか、アデルも一言も話さずに飛んでいる。


5時間ほどの空の旅を終え、夕焼けで赤く染るノヴァリャ聖国の首都にたどり着いた。

街の中心に位置する巨大な教会に、この国の最高権力者である教皇が居るそうだ。

その教会の屋根に立降りてアデルが言った。


『何処までやる?』


(何処までか……。)


アデルの言葉には、この都市ごと消していいのか? なんて意味が込められているんだろう。

今更ながらに迷いが生まれて、言葉に詰まる。


ノヴァリャ聖国を滅ぼすつもりなら、手っ取り早いのは間違いなくそれだ。

主要都市を尽く破壊していけば、事実上滅んだようなものだろう。

しかし、クローチェに流れてきた元ノヴァリャ聖国の人達を見れば分かるように、聖国に住んでいるからと言って、この国のやり方に賛同しているとは限らない。

だけど、それを言ってしまえば教皇の近くに侍る者たちも、更には先程消し飛ばした軍人達にも同じことが言えてしまう。

誰も生まれる国を選べない。どんな国にだろうとも、生まれてしまった以上、心を殺してでも長いものに巻かれなくては、生きていけない人が居る事くらいは理解しているつもりだ。


ノヴァリャ聖国を滅ぼすことに迷いはないが、何処まで殺すかを問われると、私の中の正義の線引きが難しい。


ここが王国だったら、王を殺せば国は滅んだと言って良いだろう。

だけど、ノヴァリャ聖国のトップである教皇は、ノヴァリャ神の末裔とされていて、扱いとしては現人神に成っているらしいが、あくまで宗教国家の中心にある心の支えは、実在するのかも分からないノヴァリャ神だ。

末裔が倒された程度で屋台骨が揺らぐのかとても怪しく、流石のアデルでも、何処にいるかもわからない神様を殺すのは無理だろう。


(例えばやで?例えば…教皇と話がしたいって言うのは無理やろか?)


『お前…まさか今更 罪悪感 感じてんのか?』


(罪悪感って訳や無いけど…、私の線引きがハッキリ出来ひん以上、相手の言い分を聞いてから改めて考えたい……)


『……分かった。ただし途中の障害は、全てだと思えよ。』


(うん、それでいい。)




それから、教皇の元へたどり着くのは早かった。

屋根から降りると、アデルは正面から堂々と侵入する。

名乗りを上げて、教皇に用があると宣言し、攻撃の意思を見せたものは、文字通り消していった。

一滴の血も流れず、何の痕跡も残さずに人が消えていく様は、どこか現実が麻痺するような感じで…多分私に配慮してくれたんだろう、正直言って有難かった。


戦意喪失した者に案内させる。

ココだと言われて部屋に入ると、目隠しされて、ベットに大の字に縛られている女性とそれに覆いかぶさる男がいた。

その、色白く痩せた毛深い男が、どうやら教皇らしい。

私達に気付く様子はない。

格好の割にノリノリな反応を見せる女性に困惑していると、アデルが 『こういう趣味もある』と教えてくれた。


アデルは扉を閉めるとそれを防御壁で包み込む、これで衛兵達がなだれ込んで来ることは無い筈だ。


「『おい。』」


未だ気付かない教皇に、アデルが声をかける。


「おぉ。新しい娘か…もう少し、もう少し待つのである」


一瞬こちらを見た教皇は、そう言って直ぐに向き直る。


「教皇様恐ろしくございます。魔王が、魔王が、私を淫欲の谷につき落とそうと……」

「案ずるな…それは我の聖気を通して触れた神意の断片。高まるままに迎え入れ、ノヴァリャ神の御心に触れるのである。」

「教皇様…教皇様…」


何とも言えない二人の熱量に圧倒されて、私もアデルも、思わず素直に待ってしまった。

二人の動きが、大きく激しくなっていき、最高頂に高まっていくのが見ていてわかる。


というか…何が悲しくてこんな物を黙って見てるのか…

私がようやくそんな疑問に気がついた瞬間、動く教皇の下腹部に黒い球体が一瞬見えた。


支えを失って空振りする教皇の腰。

絶頂間際だった二人は、仲良く頭上に”?”を浮かべている。

刺し直そうと下半身をまさぐる教皇の手が空を切る。

黒い玉に、吸い込まれる様に姿を消したソイツの跡地は、もともとそうであったかのように、瞬時に綺麗に治療されていた。


「じ、じゃぁあァああァアアあア!!」


それに気づいた教皇が悲鳴を上げる。


「『黙れ。』」


アデルが殺気を込めて威圧すると、


「ヒッ!…だ、誰じゃ貴様は…」


ようやくアデルが居ることに、異常を感じてくれた。


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