8話
ブラックワイバーンは「キシャー」と何度か叫びながら上空を旋回する。
このまま逃げてくれればいいが、怒り心頭といったようで、上空を飛びながらもずっと私を睨みつけている。
最後の負傷兵を抱えた兵が私の横を通り過ぎるのを目で追って、一先ず安心だとホッとする。
とは言え、早くブラックワイバーンを倒して重傷者の治療をしなくては、手遅れの人が出るかもしれないのでゆっくりはしてられない。
「ブレスだ!!脇に避けろぉぉぉぉ!!!」
クレオさんの叫びでブラックワイバーンに視点を戻す、上空でホバリングしながら大きく開けた口に光が集る。テントを焼いた炎の帯を思い出し振り返る。
(やばい、一直線や。)
逃した兵たちは負傷兵を運んでいることもあり、未だいくらも移動できていない。
今ブレスを放たれたら、間違いなく全滅だ。
(カスト、はよやっつけて!!後ろやば…………いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!)
言い終わる間もなく、ブラックワイバーンの口の光が一つに集約し強い光と共に炎が吹き出してくる。カストと同化して僅かに性能の上がった私の目には、トグロを巻きながら燃え盛る炎の塊が近づいてくるのがはっきりと見える
(あかんあかんかんあかん、はよ逃げてカストォォォ)
カストは叫ぶ私を無視するばかりか、一歩踏み出し、手にした剣を振り下ろした。
ヒュバッ!
グオォォという轟音がステレオで聞こえてくる、吐き出された炎の帯が剣に引き裂かれ左右に割れて横を通り過ぎていく。
「キシャー」
苦々しく叫ぶブラックワイバーンは二回ほど宙返りし、今度は火弾を吐き出した。
シャンッ
性能の上がった私の目にも見えない速度で剣を振り、今度は火弾を真っ二つにする。
それを見たブラックワイバーンは再び叫び、連続して火弾を吐き出すが、カストによって苦もなく全て切り裂かれる。
それでも、足を切られたことで警戒したのか、得意の急降下攻撃は使わずにひたすら上空から火弾を飛ばし続けてくる。
(ちょっと、勿体ぶらんとはよ倒してぇな。負傷者の事考えたらそろそろ戻りたいねんけど?)
『そうは言ってもね、降りてきてくれないと攻撃が届かないんだよ』
放たれる火弾を切り裂き、時には避けるだけの防戦が続いている。
(はぁ?遠距離攻撃ないの????カストやったらその剣投げて、グサーってやれるんちゃうん?)
『う~ん、その方法じゃぁ仕留め損ねると困るからね。今はこの剣が唯一の武器だし。僕の愛剣ガルガーノがあれば話は変わってくるんだどね…。』
そんな会話をしながらも、放たれる火弾を楽々躱し、クレをさんを庇うように切り飛ばす。
シャンシャンシャンキンッ!
(唯一の武器………折れたで…?)
『ハハハッ、折れちゃったね』
迫る火弾を3つ切り飛ばしたあと、剣は甲高い音を立てて根本から折れ飛んでいった。
「キシャー」と叫ぶブラックワイバーンの声はどこか嬉しそうで、待ってましたと言わんばかりに急降下を開始する。語彙が少ないくせに頭がいいのが憎らしい。
一層大きな雄叫びを上げながら、クチバシをまっすぐ私に向けて、今まで見たことのないような速さで突っ込んでくる。
「『フフッ待ってたよ』」
カストは迫るクチバシを直前で躱し、横に回り込む。目標を失ったクチバシは地面を削り、砂煙を上げながら通り過ぎていく。
カストは一度のサイドステップで瞬時に追いつき、ブラックワイバーンの顔を渾身の力で殴りつけた。
筋肉らしい筋肉を持たない、16歳の小娘の拳とは言え、それを操るのは神話の勇者だ。
殴られたブラックワイバーンは激しく吹き飛び、一撃で倒すことが出来た。
筈だった、、、、。
「痛っっっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!」
耐え難い痛みに襲われ、思わずカストを弾き飛ばす。
倒したはずのブラックワイバーンはフルフルと顔を振り、再び空に飛び立った。
クチバシを回避したところまでは良かったが、カストの渾身の踏み込みに、私の膝は遂に耐えきれず音を立てて砕けてしまった。
支えを失った私の身体は、前のめりになりながらもブラックワイバーンを殴りつけたが、その衝撃に耐えられなかった拳の骨は、バラバラに砕け散っていた。
へたり込む私の左膝からは骨が飛び出し、潰れた右手はまるで案山子に付けられた赤い手袋だ。早まる鼓動に合わせてピュッピュピュッピュと血が吹き出している。
『す、す、すまないノエミ、今回復する』
アデルは慌てふためきながら、回復魔法を起動する。身体が光りに包まれて一瞬で傷も痛みも癒やされた。
(アオホボケクソアデル…)
両膝を付き俯きながら肩で息をする、傷が癒えたとはいえ変わり果てた私の手足の姿が脳裏から離れ無い。痛くて、辛くて、怖くて……ボロボロと溢れる涙が止められない。
『すまないノエミ、でも今は……』
「入ってくんなぁ!!!」
性懲りもなく私に居座るカストを弾き飛ばす。
『カハハ、ザマァねぇなぁ。カハハハハ』
私に拒絶されたカストを見て、アデルが満足気に笑ってる。
『仕方ねぇ、そろそろ俺の出番か?』
「ふざけんなお前ら、どっちも入るな!どっかいけ!!!」
激しい痛みの記憶が、アデルもカストも分け隔てることなく拒絶する。
痛い思いはもうゴメンだと、膝を抱えて丸くなる。
『でもなぁ、そろそろ移動しないと丸焼けに成るぞ?』
そんな言葉に
「何が?」
と若干キレ気味に前を見ると、巨大な火弾が目前まで迫ってた。
「わすれてたぁぁぁぁ!」
今が戦闘中だったことを思い出し、慌てて避けようとするも体が動かない。
火弾はスローモーションの様にじわりじわりと近づいてくる、痛みの記憶が私の脳を活性化させ、体感時間を遅くしているようだ。
とはいえ、たいした訓練もされていない私の身体はそんな脳の処理速度に追いつけるはずもなく、意識するほどに動くことが出来ない。
『心配すんな、俺はあのバカとは違ってノエミの身体が一番だ。痛い思いなんてさせねぇよ』
(……いちいち言い方がエロいねん…)
『はぁ?どこにエロの要素が有るんだ?』
(……………なんでもないわ……)
『マセガキが………あと1000年ほど女磨いとけ』
(しんでるわ!)